蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

第七師団と戦争の時代

2022年01月11日 | 本の感想
第七師団と戦争の時代(渡辺浩平 白水社)

1896年、第七師団の前身:歩兵第25聯隊は札幌の東方:月寒に設立された。その後3個聯隊が旭川で第七師団として編成されるが第25聯隊は月寒に残る。第七師団はロシアから北海道を防衛することを目的とした「北鎮」部隊であったが、日露戦争後のシベリア出兵のころから「北進」部隊となっていく。やがてノモンハンのハルハ川西岸で壊滅的打撃を受け1940年代からは25聯隊が転出して樺太に駐留する。1945年樺太でソ連からの攻撃を受け8月25日ころまで戦闘を続けた。

第七師団というと、第六師団(熊本)と並んで旧軍最強部隊というイメージで、常に激戦地に投入されたという印象がある。
旅順、奉天、ノモンハン、がダルカナル(一木支隊)、アッツなど、実際なだたる戦場を転戦したわけだが、太平洋戦争期は大半の部隊が北海道にいたようだ。そうはいっても軍はソ連の脅威を感じていたのだろう。

最近では「ゴールデンカムイ」の重要人物を多数輩出?して有名?になった。もっとも誰もがキャラが強烈すぎて、変なイメージを持たれてしまっているような懸念もあるが。
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羊は安らかに草を食み

2022年01月09日 | 本の感想
羊は安らかに草を食み(宇佐美まこと 祥伝社)

持田アイ、須田富士子、都築益恵は俳句友達。益恵の認知症が進み施設にはいることになった。益恵の夫三千男は、アイと富士子に益恵を思い出の地(滋賀、松山、長崎の島)に旅行に連れて行ってほしいと依頼する・・・という話。

益恵は北満州からの引揚途中で家族を失い、途中で知り合った同じくらいの年齢の佳代とハルピンで、知恵と工夫と度胸?で厳しい冬を越す。二人はその後も日本までいっしょに帰還するが、ある事件を契機として別れ別れに暮らす。
益恵は認知症のためにこの事件を覚えていないことが本作のキモになっている。この事件をネタにして(有名俳優となった)佳代の娘は脅迫されていて、アイと富士子がその解決を図るのだが、友人とはいえ、赤の他人がそこまでやっちゃう?というて点に不自然さがぬぐえなかった。もちろん、不自然にならないようにいろいろと設定に工夫はされている。本来は益恵がリベンジの主役になりそうなのだが、ここでは益恵が認知症であることがつかえになっている。どちらを優先させるべきか?と悩ましいが、益恵が認知症でないとあまりに平凡な筋書きになってしまうので、本作の選択は致し方ないところ。

それにしても、読むたびに満州の引揚体験は過酷なものであったことを感じる。益恵や佳代もそうだが、たまたま親切な中国人に出会えたか否かが運命を分けていることが多いような気がする。
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最も賢い億万長者

2022年01月07日 | 本の感想
最も賢い億万長者(グレゴリー・ザッカーマン ダイヤモンド社)

ジム・シモンズは高名な数学者。数学教育でも顕著な業績を残したが、数学を資金運用に応用しようとヘッジファンドを立ち上げる。大学などにいた優秀な数学者を誘って、商品や株の相場の取引履歴データからアノマニーを発見する手法で長年に渡り驚異的なパフォーマンスを記録する。シモンズとファンドに関わった数学者たちの姿を描く。

シモンズたちの具体的な手法について書いてあるのでは?と期待して読む向きも多いのではないかと思うが、そういった内容は全くなくて、数学者たちの、一見奇矯ともいえる行動を(悪くいうと)面白おかしく描いている。

シモンズたちは新しい手法を開発しようとありとあらゆる資産運用手法に関する学術論文を分析する。しかし、理論的には成立しても実際市場で実践しようとすると様々な制約(注文量が多すぎて約定できない等)やノイズが発生して利益があがらないものばかりだったという。
実際、シモンズたちが開発・改良した方法でも目論見通り取引が完了するのは2回に1回をわずかに超すくらいの頻度でしかないそうだ。

基本的には膨大な過去データから数学的手法でアノマニー(らしきもの)を見つけて(売りと買いを同時に行う)マーケット・ニュートラルな手法で裁定利益をとるようなやり口らしいのだが、精緻な数学的分析による補正が難しくて他のファンドはかなわないらしい。

本書では触れられていないが、シモンズのファンドは比較的短期間で取引を完了させるゆえに実現益が発生してしまうため、莫大な税金を払ってきた。これに対してバフェットのような長期投資家の含み益には課税されないので課税率が低くなり、格差拡大に貢献してしまう(だから含み益に課税すべき)という批判があるそうだ。

ファンドの改善に大きな貢献をした数学者:バーレカンプの生活ぶりを描いた部分と、
2000年代のファンドの幹部のブラウンが子供には巨大資産を持っていることを隠して質素な生活をしていたのに、同じく幹部のマーサーの豪壮な自宅に子供を連れて行ったら、子供に、マーサーはパパと同じ仕事をしているのになんで家がこんなに立派なの?みたいに聞かれた、という部分が面白かった。
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