蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

羊は安らかに草を食み

2022年01月09日 | 本の感想
羊は安らかに草を食み(宇佐美まこと 祥伝社)

持田アイ、須田富士子、都築益恵は俳句友達。益恵の認知症が進み施設にはいることになった。益恵の夫三千男は、アイと富士子に益恵を思い出の地(滋賀、松山、長崎の島)に旅行に連れて行ってほしいと依頼する・・・という話。

益恵は北満州からの引揚途中で家族を失い、途中で知り合った同じくらいの年齢の佳代とハルピンで、知恵と工夫と度胸?で厳しい冬を越す。二人はその後も日本までいっしょに帰還するが、ある事件を契機として別れ別れに暮らす。
益恵は認知症のためにこの事件を覚えていないことが本作のキモになっている。この事件をネタにして(有名俳優となった)佳代の娘は脅迫されていて、アイと富士子がその解決を図るのだが、友人とはいえ、赤の他人がそこまでやっちゃう?というて点に不自然さがぬぐえなかった。もちろん、不自然にならないようにいろいろと設定に工夫はされている。本来は益恵がリベンジの主役になりそうなのだが、ここでは益恵が認知症であることがつかえになっている。どちらを優先させるべきか?と悩ましいが、益恵が認知症でないとあまりに平凡な筋書きになってしまうので、本作の選択は致し方ないところ。

それにしても、読むたびに満州の引揚体験は過酷なものであったことを感じる。益恵や佳代もそうだが、たまたま親切な中国人に出会えたか否かが運命を分けていることが多いような気がする。
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