蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

世界のリアルは「数字」でつかめ!

2021年08月01日 | 本の感想
c(バーツラフ・シュミル NHK出版)

著者はエネルギー問題等の研究者で、雑誌に連載されたコラムをまとめたもの。

●経済的な豊かさや社会の安全度が劣っていても幸福度が高い国に共通するのはカトリック教国。幸福度の自殺の多寡に相関関係はみいだせない。
●農作物の肥料の原料としてアンモニア合成は画期的なイノベーションだった。食料増産にともないアンモニアの生産量も増え続けていて1950年の500万トンから2020年には1.5億トンになっている。アンモニア合成には大量の原油由来の原料が必要。
●カロリーベースで推測するとアメリカでは食料の約40%が廃棄(フードロス)されており、年々増え続けている。食料生産のために消費される材料やエネルギーを勘案すると、食料増産よりフードロスを減らす対策を考えた方が賢明。
●フランス人あるいは周辺国のワイン消費量は減り続けている。フランスでは1950年頃の1/3くらい。
●地球上の牛の生物量は6億トンくらい、ヒトは4億トンくらいで、地球は「牛の惑星」。
●ガスタービンの熱効率は非常に高い。
●電力は全消費エネルギーの27%くらい。電力以外の消費(飛行機・船舶燃料、鋼材・セメント・アンモニア・プラスチック生産、暖房)を考えると、脱炭素をあと数十年で、というのは楽観的すぎる。
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ルワンダ中央銀行総裁日記(増補版)

2021年08月01日 | 本の感想
ルワンダ中央銀行総裁日記(増補版)(服部正也 中公新書)

1965年〜71年、国際通貨基金からの要請で、日銀行員で国際経験豊富な著者が、ルワンダ中央銀行の総裁職をつとめた記録。二重為替レートを廃止した通貨改革、農業の振興とルワンダ商人の支援を通して民族資本の形成を図り、ルワンダに(90年代に隣国からの反政府勢力の侵入を許すまで)アフリカ有数の経済成長をもたらした。

いくら中央銀行総裁といっても、ルワンダへの派遣は、栄転とはいいかねる人事だろう(素人の邪推だが)。
それでも著者は極めて意欲的に仕事にとりくむ。何のコネもツテもなくても、ロジックと粘り強い説得で大統領はじめ周囲をまきこんで自分のビジョンを実現させていく姿はビジネスマンの鑑のよう。
総裁といっても、銀行の奥でふんぞり返っているわけではなく、日計表の作成から、倉庫の確保やバス路線の管理まで自ら先頭に立って指揮する、実務力もすごい。

そんな著者の努力も軍事力の前にはなすすべない。平和こそ経済発展のキモであることがよくわかる。
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旅行者の朝食

2021年08月01日 | 本の感想
旅行者の朝食(米原万里 文春文庫)

食料、食事をテーマにしたエッセイ集。
20年くらい前の作品なのだけど、どれも大変に面白い。
面白いというのは、興味深いという側面もあるが、大笑いできるという面の方がより強い。
あまりに面白いので、「これ、エッセイと銘打っているけど、実は創作なのでは?」と疑いたくなるほど。

表題作は、ソビエト製の缶詰で、肉と野菜を煮込んだものらしい。どんな食料品店にも在庫があったそうで、それはとてもまずいためらしい。
一番印象に残ったのは「トルコ蜜飴の版図」。小3の頃、同級生のロシア人が、ニベア缶のようなデザインの缶に詰められたハルヴァというお菓子をお土産に持ってくる。これがえも言われぬ美味しさあり、著者はロシアなどへの出張先で探すのだが、なかなか同じものに巡り会えない、という話。ハルヴァはヌガーにナッツを練り込んだようなものらしいが、探しても探しても見つからない(1度だけ同じものがあったらしい)プロセスも恋物語みたいで面白かった。

最後の「叔父の遺言」もいい。飛び切り食いしん坊の叔父の遺言は(最期の病棟にお見舞いに来た著者が新幹線で帰ると聞いて)「駅弁は、八角弁当にしなさい」だった、という話で、これ、流石に創作なんじゃないのかな???
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星の子(小説・映画)

2021年08月01日 | 本の感想
星の子(小説・映画)(今村夏子 朝日新聞出版)

林ちひろ(芦田愛菜)の両親は新興宗教の熱心な信者。ちひろの姉はそんな両親に反発し家出して帰ってこない。親戚の家族はちひろだを両親から離れさせようとするが、ちひろは多少の疑問を抱きつつも、両親とともにくらしている・・・という話。

原作を読むと、「これを映画化するのはかなり難しいのでは?」と思わせる内容だったが、原作の雰囲気をうまく再現していて感心した。

ちひろはメンクイで、二枚目の数学教師(岡田将生)に惚れている。ある時、その教師に車で送ってもらったことが構内でウワサになってしまい、この教師がホームルームでちひろを叱りつける場面がクライマックス。この後、ちひろを静かに慰めるなべちゃん(新音)となべちゃんの彼氏:新村(田村飛呂人)がとてもよかった。
このシーンに象徴されるように、本作は包摂をテーマにしている。机上にいつも新興宗教特製?の水のペットボトルを置いて信者であることを隠さないような人、あるいは、修学旅行費すら捻出できない両親から助け出そうとする親戚を拒絶するような人がいたら、いじめられたり排除されたりしそうだが、本作では周囲の人たちは、ちひろを否定したり遠ざけたりせず、さりげなくそばに居続けてくれる。

親が(世間的に公認されているとは言い難い)宗教にのめりこんでいる時に、何の疑問も抱かずに信者となる子も家出するほど反発する子も、実際にはあまりいないような気がする。ちひろのように、つかず離れずでつきあってやり過ごしていける子が大半で、それはそれで、まっとうな生き方のような気がする。
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