蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

黒龍荘の惨劇

2018年01月21日 | 本の感想
黒龍荘の惨劇(岡田秀文 光文社)

政商として財をなした漆原家の邸宅:黒龍荘で、当主の漆原安之丞の首なし死体が発見される。漆原の秘書から依頼を受けた主人公(杉山潤之助)は、探偵の月輪(がちりん)龍太郎を伴って調査を進めるが、次々に漆原の係累や同居人が殺されてしまう・・・という話。

仕掛け(トリック)は(斬新とは言いかねるものの)かなり大がかりで、それなりに意外感もあった。伏線は十分あって注意深く読めば真犯人の見当くらいはつくようになっているし、パズラー系のミステリとしてはよく出来ているような気がする。
しかし、私自身はパズラー系があまり好きではないこともあって、読んでいて面白いとか楽しいという感覚はあまりわかなかった。

探偵の月輪やその助手の氷川のキャラは面白くなりそうな設定になっているので、事件解決以外の部分で杉山ともっと絡ませたら面白くなりそうなのだが、(本格ミステリとしての体裁を整えるため??)あえてそうした部分は排除しているようにも思えた。

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ビートルズを呼んだ男

2018年01月15日 | 本の感想
ビートルズを呼んだ男(野地秩嘉 小学館文庫)

1967年のビートルズ来日をアレンジし、外国人タレントのプロモーターの草分けとなった永島達司さんの評伝。戦後日本の、外国人タレントの興行業界の発展史にもなっている。
丹念な取材に基づくノンフィクションなのにエンタテイメント小説のように楽しめた。また文章もとても読みやすい。もともと1999年に刊行された本で、絶版となっていたらしい。復刊してくれた小学館文庫に拍手したいし、もっと多くの人に読んでもらいたい本。

本書の中心でもある、ビートルズ招聘と日本社会全体を巻き込むほどの影響力を持った日本公演に関する部分も大変に面白いのだが、それ以上に戦後の興行業界の色々なエピソードが紹介された前半部分も非常に興味深かった。
特に、後にエージェンシー会社の社長となる菊地哲榮さんが早大時代に企画した伊東ゆかりのコンサート(舞台装置の電飾が巨大すぎて本番直前に停電してしまうが、菊地は真っ暗闇の中、乾電池式のマイクで歌ってくれと懇願する。実際やってみると大ウケで、3曲目あたりで偶然に復電した際にはたいそう盛り上がったそうである)の挿話がよかった。

そのほか、印象深かったのは・・・

・永島さんは(両親とも日本人だが)日本人離れした容姿で、ネイティブも感心するほど上品な英語をしゃべった。プロモーターという職業かれ連想されるような押しの強さはなく、むしろギャラを前金キャッシュで支払うなど、タレント側が驚くほど誠実だった。招聘したタレントの誕生日にはバースデーカードを毎年贈ることを欠かせなかったという。
また、来日したタレントを美食でもてなす(例えば楽屋に冷えたシャンパンを用意するとか)ので、帰国したタレントが「もっとうまいもの食わせろ」的なクレームを言うようになったそうである。

・戦後の日本で大ブームとなったボリショイサーカスの招聘に携わった日本側のコネクションは実はソ連のスパイだったらしく、そのスパイを顧問にしていた会社のプロモータ(神彰)が独占的に興行することができた。

・外国人タレントのギャラは(たいていの場合)ドルで支払う必要があったが、当時は為替管理が厳格で正規ルートでドルの大金を用意することは難しく、プロモーターたちは商社などで余った闇ドルをかき集めて払っていた。このため、外為法違反に問われるリスクを常に負っていたうえ、闇ドルで払った分を経費として申告するわけにはいかないので帳簿上は(興行で)大幅な利益がでていることになってしまい、税当局から追求にも脅えなければならなかった。

・正力松太郎の腹芸(ビートルズ公演直前に(右翼とかの)来日反対勢力のガス抜きをするため、武道館は使わせないなどと言い出すが、実際には使用を認めた)の見事さ。
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雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

2018年01月13日 | 映画の感想
雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

デイヴィス(ジェイク・ギレンホール)は、義父が経営する投資銀行?の腕利きコンサルタント?。
妻が運転する車で通勤途上、事故を起こし(自分は無傷だったが)妻は死んでしまう。
彼は妻を失っても想定していた(悲しみに打ちひしがれるような)気分になれない。しかし、精神的には不安定となり、自動販売機からお菓子が出てこなかったのでベンダーに何回も長い抗議の手紙を書いたり、身の回りのもの(冷蔵庫とかPCとか自宅そのものとか)を分解したり破壊してみたりする。やがてひょんなことから妻が別の男との間に出来た子を堕胎していたことがわかり・・・という話。

説明的な場面がほとんどなく、唐突な感じでストーリーが展開していくので、わかりにくいし、デイヴィスの行動原理も理解しがたいものがあったが、ギレンホールの演技がうまいせいなのか、結末は、妙に腑に落ちたというのか、カタルシスに似たものを感じさせるような終わり方になっていた。

2回以上みないと本作の良さを感じ取るのは難しいのではないかと感じた。

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ジャパン・トリップ

2018年01月09日 | 本の感想
ジャパン・トリップ(岩城けい 角川書店)

日本でいうと小6~中1くらいの年ごろのオーストラリアの生徒が数日間日本にホームステイする。そのメンバーの男女2人(ショーン:オーストラリア人の父と日本人の母を持つが父母は離婚し祖母に育てられている。ハイリー:優等生で日本語もかなりできる)の経験を(ホームステイ先の和菓子店の夫婦と引率の先生の視点をからめながら)描く。

著者の作品は「さようなら、オレンジ」しか読んだことがなかった。この作品では、学ぶことの大切さがうまく表現されていて、感銘を受けた。
本書も外国語習得の喜びみたいなものがにじみ出るようなストーリーになっていて英語を学び始めた中学生とかに読んでもらいたい作品だった。

著者は日本育ちだがオーストラリアに長年在住しているとのことで、日本とオーストラリアの日常生活のギャップ(例えば、オーストラリアの人は餡子がとても苦手)とか、日本語を母国語としていない人が日本に来た時のとまどいが非常にリアル(に思われる)ように描かれていたのも印象的だった。
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機巧のイヴ

2018年01月08日 | 本の感想
機巧のイヴ(乾緑郎 新潮社)

江戸時代を思わせる架空の社会では、ゼンマイを動力にしたロボット技術が異様に進化し、本物と見紛うコオロギから人型マシンまでが製作されていた。その中心にいるのが釘宮久蔵という幕府の雇人だった。釘宮の作るロボットは時の政権の重大な秘密にも密接に関係していた・・・という話。

5本の短編を連ねて大きなストーリーを語る形式になっていて、中心となる話は3本目以降から始まるのだが、短編としての出来は、最初の表題作「機巧のイブ」が一番で、ラストのオチは全く気が付かず見事にだまされた。
本書のテーマは、ロボットと人間の違いは何か?、あるいは、違いはないのではないか?ということで、それが最も象徴的に描かれているのが、この表題作だった。

2本目(箱の中のヘラクレス)も意外感はないが哀愁が漂ってよかった。
3本目以降からは、話が急に壮大になりすぎて、まとまりが悪くなった印象があった。

余談だが、私が読んだのは(図書館で借りた)単行本の方で、こちらのカバーデザインは、ストーリーのイメージにぴったりでとても素晴らしかった。一方、昨年後半に刊行された文庫本の装画は、かなり?だった。
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