蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

父のこと

2018年01月21日 | 本の感想
父のこと(吉田健一 中公文庫)

吉田茂の息子で作家の健一が父の思い出を語ったエッセイと父との対談を収録している。

吉田健一さんの著作を読んだことは一度もないのだが、父の地盤を引き継いで政治家になるのではなく、文筆家という職業を選んだことからして、権力者たる父に反発しているか、そこまでいかなくても皮肉や批判を含んだ内容なのかと思ったら、全くそうではなくて、悪く言えば父に阿っているような感じの内容だった。

吉田茂の思い出話の中で、2度ほど廃位後の溥儀の無聊を慰めるために馬で遠乗りに出かけたことや、ベルサイユ講和会議に随員といて同行したことなどが語られると、今更ながら「吉田茂ってそんな昔から政府の仕事してたんだ」なんて思ってしまう。どうも私の頭の中では、戦争の終結した後おもだった官僚たちが処分されてしまい、突然出現したヒトのようなイメージが強かったので・・・

最も印象に残ったのは次の部分(対談の中での吉田茂の発言。P232~)
「マッカーサーには、日露戦争の時にオヤジの方のマッカーサーがフィリピン総督だったか司令官をしていてね、満州を視察に来たことがあり、そのころ中尉だったムスコの方のマッカーサーは、乃木大将や東郷大将にも会った。その印象が彼のアタマに残っているんだ。東郷大将、乃木大将というのが、彼にとっては日本の一つの標準になっている。だからボクは彼に会ってね、いってやったことがある。「あなたの考えていた日本は古い日本で、いまの日本はあなたの考えているより悪い日本だ」とね。それくらい彼は、日本及び日本の軍人は高潔な人間で、決してワイロをとったりする武人ではないと、非常な経緯を払っていた。(中略)そう思って、彼は厚木に降り立ったときも、身に寸鉄も帯びずにやってきた(後略)」

かなりうがった見方だとは思うが、この話の真偽より、マッカーサーが東郷や乃木に会っていたという事実(ホントがどうかは未確認)に驚かされた。
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黒龍荘の惨劇

2018年01月21日 | 本の感想
黒龍荘の惨劇(岡田秀文 光文社)

政商として財をなした漆原家の邸宅:黒龍荘で、当主の漆原安之丞の首なし死体が発見される。漆原の秘書から依頼を受けた主人公(杉山潤之助)は、探偵の月輪(がちりん)龍太郎を伴って調査を進めるが、次々に漆原の係累や同居人が殺されてしまう・・・という話。

仕掛け(トリック)は(斬新とは言いかねるものの)かなり大がかりで、それなりに意外感もあった。伏線は十分あって注意深く読めば真犯人の見当くらいはつくようになっているし、パズラー系のミステリとしてはよく出来ているような気がする。
しかし、私自身はパズラー系があまり好きではないこともあって、読んでいて面白いとか楽しいという感覚はあまりわかなかった。

探偵の月輪やその助手の氷川のキャラは面白くなりそうな設定になっているので、事件解決以外の部分で杉山ともっと絡ませたら面白くなりそうなのだが、(本格ミステリとしての体裁を整えるため??)あえてそうした部分は排除しているようにも思えた。

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