蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

忘れられる過去

2011年11月26日 | 本の感想
忘れられる過去(荒川洋治 みすず書房)

かなり昔、日経新聞の日曜日の文化面に著者のエッセイが掲載されていてとても面白かったおぼえがあり、図書館でこの本をみかけて読んでみた。書評を中心としたエッセイ集。

著者は詩人として知られていると思うが、本書によると、むしろ詩集の編纂や出版・流通が一番の好みのようらしい。
昔はターミナル駅などで「私の詩集」を売っている人がいたが、今ではみかけないし、詩集が置いてある本屋をさがすことも難しくなった。短歌や俳句は今でも隆盛だが、ちょっと長めの韻文は衰えてきているような気がする。

本書で紹介されるような、ちょっと昔の日本文学(高見順、田宮虎彦、梅崎春生、武田泰淳、小島信夫、等々)も忘れ去られつつあるだ。
これだけ娯楽が多様化・低廉化すると、こむずかしい文章を我慢して読もうという人も少なくなっているのだろう。

でも、私は、そういう消滅しかかっている文学を時間を忘れて読みふけっている人、にあこがれを感じてしまう。それは私が老人になりつつあることの証左なのだろうか。

本書を読んで特に読んでみたくなったのは色川武大の「百」で、早速文庫本を探したが、かなり大きな書店でも置いてなかった。「麻雀放浪記」は全刊あるんだけどね。
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海戦からみた日露戦争

2011年11月02日 | 本の感想
海戦からみた日露戦争(戸高一成 角川ONEテーマ21新書)

バルチック艦隊を撃滅できた要因は連合艦隊の「丁字戦法」にあったのか?というのが本書のテーマ。

直前に発生した黄海海戦で「丁字戦法」を取ったがために敵艦を逃しそうになったので、日本海海戦に臨む時点では、東郷司令部は「丁字戦法」を採用するつもりはなく、連繋(浮遊)機雷を敵戦列の直前に敷設するという奇襲作戦を考えていたそうである。

しかし、当日は波が高く、この奇襲作戦の実施が困難となってしまい、結局、流れのままに海戦に突入し、(敵の全滅を狙った)並航戦に持ち込むために、敵の射程内で180度近い回頭(いわゆる東郷ターン)するという極めてリスクが高い作戦をとることになった、
と、いうのが著者の考えである(結果論として、艦隊の相対位置が丁字に近いものになったので、「丁字戦法」が日本海海戦の勝因だった、という説になったと)。

もっとも、本書では、誰がこの危険で大胆な戦法を取ることを最終決定したのかは、はっきりしないとしているので、もしかしたら、東郷司令部はやっぱり「丁字戦法」をとろうとしたのかもしれない。
というか、純粋な軍事研究ならともかく、一般向けには「必殺の丁字戦法が炸裂!」とか「でたっ!起死回生の東郷ターン」とかにしておけばいいんじゃないかと思う。
「日本海海戦の勝因は、事前の作戦がすべて当て外れになってヤケクソでハイリスクの180度回頭がたまたまうまくいっただけ」では、(それが真実だとしても)しらけてしまう。

と、批判的なことを書いたけれど、本書は、題名とおり日露戦争の海戦をコンパクトにわかりやすく記述しており、大変読みやすく、また主張が明快な良書だと思う。
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