蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

古本暮らし

2007年09月17日 | 本の感想
古本暮らし(荻原魚雷 晶文社)

私が会社にはいって初めて勤務したのは東京の杉並区だった。職種は営業で、荻窪から阿佐ヶ谷、高円寺、中野あたりまでを毎日自転車をこいで飛込み営業をした。もう20年以上前の話なので、今は随分変わってしまったのだろうけれど、当時は、荻窪、阿佐ヶ谷がけっこう上品な住宅地に感じられたのに対して高円寺、中野はにぎやかで、多少、猥雑なイメージがあった。高円寺、中野の商店街は若者の街という感じが残っていたのに対して、荻窪、阿佐ヶ谷の商店街は、少々ブンガクっぽい臭いがして気取った感じがだった。中央線の駅の一つおきに町のイメージ次々変わるのがおもしろかった。

本書は、高円寺に住むフリーライターの日々の暮らしを綴ったものだが、私の持っている高円寺のイメージにぴったりの描写が多くて、20年たってもあまり変わっていないところも多いのかもしれない、と思われた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

運命の遺伝子UMA

2007年09月16日 | 本の感想
運命の遺伝子UMA(赤瀬川原平 新潮社)

運とか運命について考察したエッセイ。特に目新しい視点があるわけではないが、著者独特の言い回し、うまいたとえ話に乗せられてすらすら読める。

運を定義すると、「人がコントロールできないようなものが原因なのに、人によって結果に差異が生じるときに使われる言葉」というところだろうか。
海外に旅行に行って皆同じものを食べたのに、著者だけが食中毒になってしまった、というケースがこの本で取り上げられている一般例である。

著者の主張の一つは、運(偶然)と必然の境目はあいまいである、ということ。
先の例で見ると・・・
著者はもともと胃腸が弱い。それが自分でわかっているのだから、海外であたりそうなものを食べるのは避けるべきである。だからこの食中毒は、「運が悪かった」とはいえないと考えられる。

本の中で私が気に入ったフレーズは「努力が運命を追い詰める」。ヤンキースの松井が大リーグ初戦でホームランを打ったことを例にあげ、運の作用を皆無にすることはできないが、努力することにより、運(偶然)が働く余地を小さくすることができる、としている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

気になる部分・ねにもつタイプ

2007年09月15日 | 本の感想
気になる部分・ねにもつタイプ (岸本佐知子  白水社・筑摩書店)

2冊とも三浦しをんさんのブログで、大変おもしろい、と紹介されていて、二冊一度に買って、まず「気になる部分」を読んだのですが、あまりに面白くて「ねにもつタイプ」も続けて一気に読んでしまいました。

三浦さんのエッセイは主にBL路線の妄想爆発、みたいなろころがとても面白くて好きなのですが、実際に三浦さん自身が妄想した脳内ストーリーをそのまま書いているんじゃないかと思えます。

一方岸本さんのエッセイも、ふと思いついた事からどんどんあらぬ方向に連想が広がっていくというパターンが多く、同じく「妄想系」とも言えるのですが、こちらは著者の脳内ストーリーそのままというよりは、エッセイの形にするために、かなり意図的な「創作」が加味されてお化粧されているのではないかと思えました。

そうかと言って面白さが減じているというわけでは決してなく、電車の中で読んでいると笑いをこらえるのが大変なものが多くて困りました。

著者は、中学から私立校に通い、大学は受験界の最高峰(著者と私はほぼ同じ年齢なので当時の感覚ですが)の上智大英文科卒で、就職人気NO.1のサントリーに勤めて花形中の花形宣伝部にいたけど、今は翻訳家、というきらびやかな経歴の持ち主。
そのくせ「幼いころからボンヤリしていて、学校でも社会人になっても落ちこぼれだった」という主旨のエッセイが多いのは、少々イヤミだなあ、と思いました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ボナンザVS勝負脳

2007年09月12日 | 本の感想
ボナンザVS勝負脳(保木邦仁 渡辺明 角川one テーマ21)

ボナンザというのは将棋の対戦ソフトのことで、今年の春先、プロ最強の棋士の一人渡辺明竜王と対局し敗れたがあわやという場面も作った。保木さんはそのボナンザの製作者。

渡辺竜王はgooの公式ブログを持っていて、私もよく読むので、ボナンザとの対戦の経緯はそれなりに知っていた。しかし保木さんのプロフィールは全く知らなかったので、勝手に将棋の強いコンピュータマニアだと想像していた。が、保木さん自らこの本で語っている通り、将棋はほぼ素人、ボナンザは本業(分子化学の研究)の傍らで数年で一から作りあげたということだ。

チェスの世界名人カスパロフを破ったことでIBMのスーパーコンピューター「ディープブルー」は有名になった。しかし、「ディープブルー」はIBMの全面的スポンサードによる豊富な資金と最新鋭の機器、そして優秀な技術者が束になって作り上げたもの。
取った駒の打ち込みができる将棋は、チェスより対戦ソフト作成が遥かに難しいといわれているのに、最強者の一人と互角に近い勝負ができるソフトをたった一人で片手間につくりあげたことには素直に驚いた。
ということは、どこかの酔狂な金持ちか会社がカネに糸目をつけずに「最強将棋ソフト」開発を始めたら、もしかしたら、名人を7番勝負で打ち破るソフトを近いうちに作り上げることも可能なのかもしれない。渡辺竜王はこの本の中で、人間がコンピュータに負け越すことはまだ相当な期間起きそうもない、という感想を述べてはいるが。

チェスや将棋に比べると遥かに単純そうな株価の動きを予想できるソフトは今のところない。この世界は、注ぎ込めるカネには限度がない(必勝のソフトができれば青天井でもうけられるから)のにもかかわらずそういうソフトが現れないのは、株価が本当にランダムウォークしていることの証明なのかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

古道具中野商店

2007年09月11日 | 本の感想
古道具中野商店(川上弘美 新潮社)

小学校四年生の私の息子は、小二くらいまでは学校に行くのが楽しかったみたいですが、小三の後半くらいから、土日が来るのを楽しみにするようになり、日曜日のサザエさんが終わるころになると「はあ~」なんてタメイキをつくようになりました。
その息子がよく言うのは「毎日土曜日ならいいのに」。それに対して私は「毎日休みじゃ、休みは楽しくなくなるよ。イヤーな月曜日~金曜日があるからこそ、土日が楽しく感じられるんだよ」。息子は納得できないようで「夏休みはずーっと楽しいけど」なんて言う。

本書は、古物商でバイトする古物商でバイトする主人公(女)ともう一人のバイト(男)の恋愛を描いた小説。
中野商店はまさに個人商店で、勤務時間がきっちり決まっているわけではなく、給与計算もいい加減で、商店主とバイトの関係は「上下」ではなくて、友だちみたいな感じ。

物語の終盤で「中野商店」はいったん閉店し、主人公達も定職を持つことになります。フリーターというモラトリアムから実社会という現実世界へ押し出されたようなもので、主人公もその恋人も「昔は良かった」と思いつつも、今さら定職を捨てて元に戻ろうとは思いません。

長年サラリーマンをやっている私がこの本を読むと「いいよね~中野商店。オレも古物商やってみたい」と思ったりします。もちろん決して実行しないのですが・・・

会社には上下関係もあれば、いろいろ厳密なルールも存在して、イヤなことが多くて、そんな毎日をすごしていると中野商店はユートピアみたいに思えてきます。
通勤電車で本を読みながら、しばしユートピアにいる錯覚をさせてくれるのが読書の楽しみ、なのでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする