蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

泣き虫弱虫諸葛孔明 第二部

2007年09月10日 | 本の感想
泣き虫弱虫諸葛孔明 第二部(酒見賢一 文藝春秋)

酒見さんのデビュー作「後宮小説」はとてもおもしろい小説で、熱中して読んだ記憶があります。「後宮小説」は「ファンタジー小説」という前提で読んでいるのに、「これもしかして史実?」と思えてしまうほどの見事な出来でした。

本書は史実(らしきもの)と各種の「三国志」本の内容と著者の見識が入り混じって記述され、メタフィクションのような構成になっています。最初はその点に戸惑いを感じましたが、読んでいるうちに慣れてきたのか楽しく読めるようになりました。

第一部は三顧の礼を中心に孔明出仕のエピソードが中心でした。本書は第二部なのですが、赤壁前夜の劉備の撤退戦を描いています。

本シリーズでは、劉備は人間的魅力が横溢しているが、それ以外は全くのダメ人間であり、英明な君主という一般的なイメージとは正反対の人物という設定になっています。一方孔明は、タイトルとは裏腹に終始冷静な軍師として描かれていて、「三国志」本の共通のイメージに近いものです。著者の見方は劉備、関羽には厳しく、孔明、張飛(張飛は狂気の殺人鬼扱いではありますが)には暖かいものがあります。

物語の進みが遅くて第一部、第二部あわせて1000ページを費やして、孔明の出現から始まったストーリーがまだ赤壁にも達していません。タイトルからして孔明の生涯を描こうとしているのでしょうから、五丈原に到るのはいつのことやら。
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5

2007年09月08日 | 本の感想
5(佐藤正午 角川書店)

異常な記憶力を持ち、その記憶力を他人に一時的に移転できる能力を持った女と、妻に愛情を持てない男、その男の妻と関係している作家の話。

この作家というのが、社会常識とかマナーにとてもうるさいのに、自分ではルールを全然守らず、人間関係への配慮もほとんどなく、次から次へと女を入れ替える、いわゆる「人でなし」という設定になっている。そのあまりの身勝手さは読んでいても腹がたつほど。

愛は、その人を愛し続けているから継続するのか、愛したという記憶を持ち続けられるから継続するのか、というのがテーマだろうか。

各種レビュウや書評を見るととても評価が高いようだが、無駄に長いような気がするし、主人公の作家の人でなしぶりが、さきほども書いたようにあまりにひどくて、佐藤さんの他の著書に比べると今ひとつだった(佐藤さんの作品の登場人物、あるいはエッセイで描かれる著者自身とも、クールで醒めているという設定は多いが、この主人公はそれが少々行き過ぎていた)。
しかし、リーダビリティは高くて読んでいる間はなかなか中断できなかったのは、さすが、というべきか。
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雪沼とその周辺

2007年09月03日 | 本の感想
雪沼とその周辺(堀江敏幸 新潮社)

雪沼はこじんまりとしているが良質のスキー場を持つ山間の町。その住人の平凡な暮らしを描く。
閉鎖間際のボウリング場の主人や書道塾の先生、木造家屋を改造したレコード屋、自分の腕に自信がない中華料理屋などが主人公の短編集。

不器用でどうしても自分が作る料理がうまいとは思えないコックの話がよかった。店の見習い三人のうち、他の二人は早々に独立するが、主人公は腕があがらず店に残るうち店の主人の具合が悪くなり、店を継ぐことになる。
店は大はやりするわけでもなく、主人公も料理に手間ひまかけるような努力をするわけでもない。しかし時として「うまい」と言ってくれる人がいるととてもうれしい。それで自信が生まれるわけでもないのだが。

ストーリーの起伏があるわけでもなく、テーマらしいものもないのだが、凡人の「あきらめきれない人生」とか未練みたいのがうまく表現されていて、大半が似たような境遇にある読者の共感を誘う。
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