蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ひそかに胸にやどる悔いあり

2023年05月22日 | 本の感想

ひそかに胸にやどる悔いあり(上原隆 双葉文庫)

特に有名ということもない普通の一般人のエピソードを同行取材とインタビュウなどにより描く。ハンディを持つ人、社会からはみ出たり落ちこぼれた人、特殊な経歴を持つ人などが登場する。概して、あまり羨ましいような境涯にある人は出てこない。

 

最も印象深かったのは「新聞配達60年」。中学校時代から60年間、毎日欠かさず朝日新聞を配り続けてきた人の話。新聞配達専業ではなく、電器関係の会社に勤務し、やがて独立して家電販売店を営みながら、配達を続けてきたというのが驚異的。

 

「アイメイト」は盲導犬の話。盲導犬がこんなに役立つものであることを知らなかった。盲導犬は視力が弱い人の行動範囲を大きく広げてくれる、という当たり前のことが初めて(多少)理解できたように思えた。

 

「あなた何様?」はウエリントンで映像製作プロデューサー?に雇われた女性の体験談。このプロデューサーが日系女性なのだが、そのモンスター的厚かましさがすごい。

 

「恋し川さんの川柳」は、長年、小石川のアパートに住む独身男性が川柳にのめり込む姿を描く。まさに川柳に人生を捧げたようなハードボイルドな生活ぶりがいい。

 

「彼と彼女と私」 かつて近所に夫婦でジャズ喫茶(夜はバー)を営む若い夫婦がいて、書店主は毎夜のようにその店で夫婦とおしゃべりを楽しんだ。そのマスターは実は・・・という話。ごく短いミステリみたいで面白かった。

 

「風光書房」は、神保町の古書店が閉店してする日の話。個人経営の店にとってブックオフの出現はやっぱり脅威だったんだなあ。

 

普通の書店で売っているような単行本や文庫は全て読んだつもりだけど、どれも粒揃いで何度も読み返したく内容だ。残念なのは寡作であることぐらい。

 

 

 

 

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