蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ボーダー

2023年05月01日 | 本の感想

ボーダー(佐々涼子 集英社インターナショナル)

いわゆる入管と難民認定をほとんど行わない日本の行政機構の実態、送り出す側の国(フィリピンやベトナム)の状況、行き所を無くした外国人の滞在場所を提供する鎌倉の団体などを描く。

 

かつて日本は、労働力確保のため、オーバーステイなど不法滞在の外国人を見て見ぬふりをしていたし、就労も事実上黙認していた。こうした状況を知ってイランやクルドなどから身の危険を感じた人々が多数来日し、家族を作り、長期間に渡り社会生活を営んできた。

しかし、ある時期(NYのテロや東京オリンピック開催が決まったころ?)から、こうした人達への取り締まりを厳しく行うようになり、入管には(帰りたくても故国の情勢が許さなかったり、日本に家族がいる人などが)何年も拘束され続ける人が増えてきた。

いくつかの事件を通じてこうした実態が知られるようになった。行政側には彼らなりのそうせざるを得ない理屈があるのかもしれないが、本書を読んでいると、本当にここは世界有数の経済力をもった法治国家なのか?と疑問を抱かざるを得ない内容にゾッとする。こうした行政権力が、いつか普通の国民にも牙を剥くことがあるのではないかと心配になってくる。

 

もっとも、本書はこうした入管の実態の紹介は比較的少なく抑えている。その後に描かれる技能実習生など労働力の送り出し側の国の状況は、私たちにとってもっと恐ろしい事実を突きつけてくる。

かつて日本で3年間、実習生として懸命に働けば、故国での貧しい生活から家族ごと抜け出せるとして人気があった。一方、一部の農業や製造業、そして何より介護業界などでは、こうした労働力なしには成立しがたがい構造が出来上がってしまっている。

しかし、デフレが続き、円安が進んだ今の日本の賃金は送り出し側の国の(特に都市部の)人には全く魅力がなくなっている、と現地に取材した著者は痛感したという。

「情けは人のためならず」の真逆で、かつて海外から働きにくる人を冷遇してきた日本は、もう間も無く自らの行為に残酷に復讐されることになりそうだ。

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