蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

海辺の金魚

2021年09月06日 | 本の感想
海辺の金魚(小川紗良 ポプラ社)

児童養護施設で育ちまもなく高校を卒業しようとしている花は、施設から離れた後の進路をどうするか決めかねている。その施設に新しく入ることになった晴海の身体に、花は虐待の痕跡を認めるが・・・という話。

花が養護施設で生活することになった理由が、この手の話としてはユニークで感心したのだが、その設定を活かし切れてないかな、とも感じた。かなり深刻な事情なのだが、その割に主人公が割と平然と受け止めているように思えてしまった。

著者は映像作家で、本作は自身が監督した初の長編映画の原作(あるいはノベライズ?)とのこと。
映像でなら(役者の表情などから)より容易にいろいろな情報が伝えられるので、言語化するとつい説明過剰になることがあると思う。本作では登場人物の心情の描写がちょっと多すぎたような気がした。

と、文句ばかり書いたが、爽やかなラストで読後感は良かった。
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犬棒日記

2021年09月06日 | 本の感想
犬棒日記(乃南アサ 双葉社)

著者が日々の人間観察を日記形式で綴ったエッセイ、なのかと思って読み始めたが、どうも大半は創作みたい。そうじゃないと通りがかりの他人の会話がここまで聞き取れないだろうし、日々こんなドラマチックな場面にばかりでくわしていたら、気が休まらないだろう。

ただ、どんな時も創作のネタを探してしまうのは職業作家としての宿命みたいなもので、外観の観察から、「あの人たちは今こんなシチュエーションにあるのでは?」と想像してしまうのかもしれない。

洗濯機の設置業者の話、エスカレータの乗り口で佇む不機嫌な子供の話、空港へ向かう定期バスの料金徴収係の話、などが印象に残った。
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2021年09月06日 | 本の感想
渦(大島真寿美 文藝春秋)

近松半二は、幼いころから儒学者の父につれられて道頓堀の芝居小屋に入り浸り。やがて浄瑠璃の脚本家になり、妹背山婦女庭訓という大ヒット作を書く。半二とライバルの歌舞伎の脚本家:並木正三を中心に、江戸時代の芝居界の事情を描く。

半二も正三も、四六時中芝居の脚本のことばかりを考えているうちに、現実と虚構の境目がしだいに曖昧になってくる。
作中から引用すると「真っ黒な深淵がある日、蓋を開けるのである」「虚が実を食いちらかしていく」
クリエイターの危うさは、自殺者が多い(統計的に多いのかは知らないが、イメージとして多いような気がする)ことからも伺いしれるが、すぐれた創作者の業の深さのようなものをうまく描いている。

芝居小屋が集中した道頓堀は、そうしたクリエイターが集中する場所でもあり、虚実入り混じった彼らの生態と記憶が界隈に渦巻いているように感じられることが、タイトルの由来。
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生物に学ぶガラパゴス・イノベーション

2021年09月06日 | 本の感想
生物に学ぶガラパゴス・イノベーション(稲垣栄洋 東京書籍)

ガラケーという言葉に代表されるように、ガラパゴス現象というのはネガティブな意味に用いられることが多い。著者は、島の生物の生存戦略を解説しながら、ガラパゴス的な性癖を持った日本の産業社会が目指すべき方向性を示唆する。

その、方向性を示唆する部分は、正直いってありきたりというか、「日本ってすごい」的な現状肯定の部分があってあまり面白くない。

しかし、ガラパゴス的進化?を解説した部分はそうでもない。
例えば、島のような周囲から隔絶された環境で進化?した鳥が飛行しなくなる理由。飛行には多大なエネルギーを要するので、鳥はできるだけ飛行したくない。なので敵がいなくなって逃げる必要がなくなった環境では鳥は飛行能力をなくすという。
逆にアオアシカツオドリ(時速100キロ超で海中に飛び込み魚を捕らえる)やアホウドリのように極限まで飛行能力を進化させると地上での行動能力を喪失することもある(ヨタヨタと歩行するのでアホウという名がついたそうである)。

この両極端の例の対称性が面白い。どうして進化の指向性は一定じゃなくて、同じ鳥でも全く逆方向に進んでしまうんだろう?
もしかして進化って、環境適応するために発生するんじゃなく、単なる偶然に過ぎず、偶然に環境に適した進化に当たった?種が生き延びているだけなのかも。

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