おにゆりの苑

俳句と俳画とエッセー

晩 年 の 中 野 さ ん

2016-09-02 13:00:49 | Weblog
日進市で中野さんといえば水琴窟の第一人者で特定非営利法人日本水琴窟フォーラムを立ち上げて海外にも赴き平成十年には竹の山の岩崎城に二器埋め込んだ庭園を完成させた人として有名な方である。NHkやCBCに居たと言われるが余生の過ごし方は人それぞれで、エッセイ教室仲間で「石火光中」を編集するのにながいつきあいであった.
飄々として居られて無口な人であったが、私が主宰する「にぎわい句座」にほいほいと入会してくださり、このお盆に九十一歳でなくなった。偉大な先輩で追悼文を書くのもおこがましいから、句集は未だであったろうと、俳句を片っ端から羅列することにした。
    平成二四年四月より
                 田植機のぬりかへてゆく村の色
                 城磁枕冷えたる曲の寝覚めかな
                 送り盆おんな妖精壷に住む
                 俳諧の秋立ち昇る水琴窟
                 なき友の写真集置く送り盆
                 野分去り鳴りつかれたる水琴窟
                 やや寒や待ちくたびれし燗の酒
                 朝いちめん露にめげずに芒立つ
                 うそ寒や地獄草紙の家族あり
                 初春や米寿傘寿の吉祥膳
                 米傘寿七草かゆの夫婦箸
                 残る世を遊の一字に春めくや
                 春めくと書いては消して朝の雨
    平成二五年四月
                 赤めばる煮付けの汁も色目あり
                 木曽の風お元気ですかふきの味噌
                 春や春ひとそれぞれの苦楽あり
                 水琴窟たっぷり生きるおらが春
                 焼き穴子手製ビールの時いたる
                 香水のかすかに匂う蛍狩り
                 こしあぶら揚げて始まる五月尽
                 子等の手に恋のホタルは光り舞ふ
                 辞書の黴はらひて黴の字を探す
                 雨安居おらが春だよ水琴窟
                 杯に飛び込む蚊あり猛暑かな
                 恋なくば恋をせよとのせみしぐれ
                 秋富士をねらう一打はバンカーへ
                 先年の鳥帽子鵜匠の綱さばき
                 散歩道そぞろ寄り添い曼珠沙華
                 秋思う父の遺せし煙草盆
                 小さき秋小さきしずく水琴窟
                 手作りの干し柿小粒種六つ
                 大ゆずを輪切り山もり夫婦風呂
                 ちゃぶ台に数の子山盛夢昭和
                 焼酎の少しこいめの二月かな
                 雪残る京マラソンに親子旅
                 雛の日や老いの二人は団子汁

     平成二六年四月
                 春愁や漱石こころよみがえり
                 野天風呂みやげたっぷり春の風邪
                 いりが池焼き団子あり花の雲
                 生と死のはざまを光る恋蛍
                 夏安居いまノクターン水禽窟
                 終戦日戦火激しき遠き国
                 乱調の台風列島いわし雲
                 帰り道こおろぎコーラス足あわせ
                 いわし雲銀座の時計つつみこみ
                 いのち燃え傘寿を迎え曼珠沙華
                 実の一つなる柿紅葉庭飾る
                 師走入りノーベル賞のオブジェかな
                 師走空どこふく風と選挙カー
                 托鉢の鉦音せわし師走かな
                 門松を探して歩く雪の朝
                 戦火止む七十回目のぞうにかな
                 節分やイスラム鬼メ豆を打つ
                 満艦飾長崎の街月冴える
                 ひな祭り今年は竹鶴一夜酒
                 床の間の亡き母偲ぶ内裏雛
     平静二七年四月
                 九条が卒寿をくれた桜道
                 九条の先行き惑う五月雨    
                 五月雨という軍艦もあり七十年
                 二百年黒き柱に夏立ちぬ
                 更衣古き作務衣を陰に干し
                 梅雨しめり音の曼荼羅水の琴
                 猛暑の夜夢はざくざくかき氷
                 満月や路地裏ひかる石の道
                 虚空より残れる柿に百舌の声
                 初めてのひ孫衣之助いわし雲

     もっともっと俳句を詠みたかったと思いますが、あちらに知人も多いことでしょう。書き上げて追悼の代わりといたします。
 
                 

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