×月×日 忘れないように用件をメモして郵便局へ自転車で出かけた。用を済まして表へ出ると、シルバーセンターからの派遣らしき男性が、何人かでパチンパチンと枝払いをしている「はなみずきですか」と聞くと「南京はぜ」と教えてくれ、実をつけた枝を沢山、自転車の前籠に入れてくれた。白い花瓶に挿すと紅葉や青のグラデーションが美しい。
×月×日 句会の吟行で二十七名が役所のバスで知多の内海にある杉本健吉美術館へ行った。池と錦秋の楓を従えて立つ瀟洒な建物であった。そこには画伯七十年の歴史が展示されて、市電のマークは特に懐かしく、梵字の曼荼羅や、書かれた千体もの仏像は緻密な筆致であった。生前夫がグリーンの表紙の健吉の画集を紐といていたのに、覗いてやらなかったことに胸をいためる
×月×日 中部大学第一高校講座「パソコンで年賀状を作ろう」(定員十二名)に応募した。そうそうたる七人の講師陣、土曜日なのに無料講習ご苦労様である。「名前を付けて保存」でその日は修了。ロータリーでバスを待つ間、視覚いっぱいに田舎の秋を見回す。道路をへだてた向こうの家は、昔良く見かけた三角屋根の間の壁に大きく水と書かれた懐かしい家である。ひつじ田は、二毛作ほど稲が伸びて、穂さへ出ている。そこへ高い木のピラカンサから雀の群れが、ぱっと石礫のように舞降りた。ここは盆地で、雑木山の紅葉が絵の具を、引き寄せたように取り巻いている。そうこうしていると戸飼の鶏が何度も大きな声で鳴くのが聞こえて、声に出して笑ってしまった。
×月×日 誘ってくれる人があって、池下の古川美術館へ行った。道中の銀杏の黄落も今日を限りと輝き、大観、玉堂、龍子の三巨匠のそれは流石の格式であった。私は玉堂が好きである。見終わって為三郎記念館でお茶を頂いた。深庇に八潮のもみじの紅葉も素適で庭の散策もした。今年は遠出をせずに秋の風情を満喫した。
もうすぐ吹く木枯らしも受けて立てるというものだ。
俳句 * 五輪塔羊歯に埋もれ傾ける
* 蹲に添ふ石蕗の花時惜しむ