おにゆりの苑

俳句と俳画とエッセー

一年の仕上げ

2010-12-29 07:56:20 | Weblog

 モルモットの鼠が小さい輪の中を走って走ってと言う風景を余り見なくなった。
 どれだけ走っても同じところで果てしがないあの残酷な玩具みたいなものの事である。
 私のこの一年を振り返って見るとさながら同じことが言えるような、毎年同じ事の繰り返しで通って来た。
 繰り返しの日常茶飯事の内旅行だけが変化であった。旅は感覚的な欲望である。
「吉野の桜」「赤倉」「昼神温泉郷」「中国大連」「軽井沢山荘」「東北六県」「ミステリー日帰り旅行」と二ヶ月に一回は出かけていたことになる。
 あとで思い返すとそれぞれが楽しかった。
私のこの一年は流行の一字にすると「騒」とでも言うところか。 年齢のせいでいつまでもそれは許されず来年は雲行きがあやしくなってきた。
 九月の東北旅行の折に痛めた足が治りきっていないのである。腰と膝のレントゲンを撮り「悪くなっていますねー」との先生の所見で月水金とその整形外科で電気とマッサージの治療を受けてゲートボールに行くと言うどちらが欠けても怠けそうな相関関係を保っている。
 ある日はっと気がついて骨密度を測ってもらうと五年の間に吃驚するほどの数値のダウンで原因はこれだったとばかりにカルシュームを含んだ食品ばかり調理しているが一朝一夕には治らない。
 新年を迎えようとしている此処に至って泣き言はいっておられないので、早くから我が家の新年会の会場の設営に努めている。 最終的には娘の車のヘルプに頼るとして今日から電動自転車で買い物に周る。
 困ったことに今年は例年買っている冷凍の三キロ入りのたらば蟹の箱入りが無いとのこと世場にたらばがすくないのだそうな。小分けで良いから蟹の買いあさりをしなくては。
 百八の悩みや苦しみの煩悩を除夜の鐘で解き放ち無病息災と繁栄を祈った新しい命で果たして私の家族は何人集まってくれるだろうか。
 おせち料理は今年も外で頼んだから比較的に楽である。

  俳句 煤逃げとならぬ温泉しばしの間
     冬の空流星を待ち立ち尽くす

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正 月 の 餅 事 情

2010-12-23 07:21:12 | Weblog

 毎年暮れになると思い出すことがある。子供の頃の二十七、八日の朝、起きると何か騒々しい。
 裏の勝手場を覗くと毎年頼まれてやってくるKさん一家が我が家の両親もまじえて三和土の真ん中に持ち出した臼で餅つきを始めている。
 
せいろで蒸した湯気、むんむんの餅米を臼に引っくり返すと桶の水につけて置いた杵を男盛りのKさんが、力強く振りかざしてぺったんこと音をたてる。小母さんの手返しも堂に入ったものである。 
 三升臼を一人に一枚八人の家族の頭数と、ぼろ餅(もち米を入れたもの)や黍餅があがってくると、座敷二間にならべられる。  子供達は出来たての餡ころ餅をほほばって幸せであった。
 終戦後都会には浮浪者が溢れ食料事情が悪かった一時期、母と私は一枚の田圃に正月の餅に備えて稲を植えたことがあった。その手順は勤労奉仕で覚えてきた子供の私の采配でおぼつかなく母と二人で笑えるような、泣ける話であった。。
 母のお雑煮は大根、人参、里芋、餅菜、かまぼこ、鶏肉やしいたけなどを盛り合わせ、椀によそうと鰹節削りでけずった厚い鰹節をたっぷりかけてくれる美味しいもので、子供達は齢の数だけ食べる事を競ったりしていた。
 雑煮は住む地域によって風習や家族の好みなどでまちまちであることを、結婚して始めて知った。
 餅菜だけ入れた名古屋の雑煮には正月なのにと大層がっかりした。
 ろくに花嫁修業もしてこなかった私に「郷に入っては郷に従え」と姑は昆布と花かつおをたっぷり入れて水から煮てだしをとることを教えてくれた。
 二、三年も経つとそのあっさり味が気に入ってそれでなくてはならなくなってしまった。
 舅の実家が米屋で餅は毎年そこでたのんでいたが子供が育つ頃餅つき機がはやりだして各家庭でつくれるようになった。日本人の食事情も急速に変化をして子供達は正月三日にはもうラーメンが良いと言いだす始末で雑煮も人気がなくなって行った。
 しかし私はせめて三が日は日本人の心のふるさとだからと、雑煮を炊いて子供を育てた。
 今では餅つき機も倉庫に眠りスーパーで袋入餅がオールシーズン買えるようになって、日本人の嗜好が幅広く変わってしまった。
 正直私も御餅は胃に重いからとか何とか理屈をつけて直にパンとコーヒーの正月になる。
          俳句 青青と葉物盛んな十二月
             湖の家族増えしようなり鴨渡来          

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雪の日の思い出

2010-12-11 18:06:56 | Weblog

 十二月八日と言えば私達の年代の者は第二次大戦の開戦日と思うのであるが、私のとっている新聞には最早一行も書かれてはいなかった。が今日はそれを書こうとしているのではない。
 小学校三年生のその日「戦争だ、戦争が始まった」と大人達の異口同音の不穏な空気の中を初雪に見舞われながら登校した。
 それから四年近く「鬼畜米英」などと戦意をあおる教育を受けたあげく戦いに敗れた。
 女学校一年の私達は軍需工場から帰ってくる先輩を迎え標準服から伝統のセーラーカラーの制服に変わり、英語も習って次第に落ち着きを取り戻して行った。
 私は机を並べている電車通学のC子と本の貸し借りをしたり部活のコーラスで「美しき碧きドナウ」を歌ったりして仲良くしていた。
 二年生の冬休みに彼女の家に遊びに行く約束をした。
 後に「私鉄沿線」でヒットした野口吾郎の育った町より一、二区手前の田舎である。
 教わった道を昨夜来のどっさり降った雪の中を玲瓏とした気分で歩いていった。
 百人一首でもして遊ぶのかなあと自分の境涯から一歩も出ない発想で彼女の家に着くと出てきた彼女が言うには「父がまともに上ってもらえるような家ではないのでとお断りをせよ」と言うのですと門前払いをされてしまった

 かと言って外は綿帽子をかぶったように一面の銀世界で散歩をするわけにもいかず「白雪降りたり、ああ、ああ夜の内に白雪、雪降りたり」とハモッテ駅まで送ってもらって帰った。
 彼女は当時既に母がなく妹と父との三人で親戚の納屋を借りて疎開してきたままで住んでいた。
 
私を帰した事を暫く気にしていたが今風に言えば私がKYだったのである。
 それからクラスも変わり名古屋へ引揚げて行ったので卒業名簿にも名前がなかった。
 慌ただしい青春が過ぎて私は名古屋に嫁ぎ二児の母で商店主婦をしていた時、商用で栄の東海銀行本店に行くと彼女が銀行員として窓口に居たので吃驚した。
 
一瞥以来の挨拶をこそこそ交わしCAを出て銀行員になったのを父が一番喜んでいると言っていた。
 暇を見つけて一度逢いたいと言っていたのに果たせぬまま余りに早い彼女の死であった。
 
二十代の終わりで勿論未婚であった。
 名古屋は雪があまり降らないが、あの美濃の雪の日のことは戦争の名残りと共に忘れられない思い出である。

  俳句 霜降りて湯治場に来る村の衆
     霜の朝駅へのブーツ足早に

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桜 紅 葉 の あ る 風 景

2010-12-02 14:17:12 | Weblog

 ゲートボールをしている最中に、ふとその位置から目を西前方に転じた。
 とそこに広がっている風景にはっとした。写真家は気にいる被写体を求めてあちこち移動するし、画家も此処ならではと言う風景を選んで脚立を立てるのであろう。
 それを私は目にしてしまったのである。
 春には桜の満開を誇り、終われば空を覆うように沢山の葉を拡げていた桜並木が、殆ど裸木になり数本だけが落ちきらぬ葉を深紅に染めて眩しく風にゆられて
いる。
 二面のコートと保育園の間のこの桜並木は、市の管轄であるが北に閂をつけた行き止まりの道である。
 フエンスの向うの保育園では先ほどから一生懸命にあそんでいる園児達の様子が手に取るように見える。
 
つばのある帽子を前後ろにして被り後ろに垂れた長いつばがそのしぐさとともに何とも可愛い。ちょっと小粋に見えるこのデザインは首の日焼けを気にするゲートボールの小母さんたちが探してでも被りたいショットものである。
 さらに男の子は淡いグリーンの、女の子はピンクのスモックでカラフルな三輪車をこいだり、逆上がりの鉄棒で頭を下にしたまま二人ずれで話をしていたり、砂場に埋めた車のタイヤに飛び移って歓声をあげたりと、なごやかな小春日とあいまってさながら一幅の絵を見るようで見とれてしまった。
 このあたりは池を埋め立てている造成途中のまま放置されているので十三本だけの桜並木なのである。
 帰りにフエンスに寄って行って見ると運動場でビニールを敷いて年中組年長組さんらしき一群が弁当を食べているので 「今日はお外でお弁当?」と声をかけるとその中の一人が「紅葉をみながらピクニック」と答えてきた。
 なるほどまばらなグラデーションの葉っぱが陽に照り映えている。保育士さんも味なことをするものだと感心して、明日にはこの桜紅葉は散って終わりになると思い虫食いも混じえた
三枚を自転車の前籠に入れて帰途に着いた。

  俳句  霜の朝園児の靴の赤きかな
      冬蝶の薄日の中を土塀越ゆ

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