御神楽少女探偵団その20
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■第七話『蜃気楼の一族』後編 捜査編1
中庭花壇では野上糸が花の手入れをしている。
そして「でも片岡さんが捕まっちゃったら、奥様が悲しんじゃいますからねぇ。やっぱり丸木戸さんが犯人だといいなぁ。」などと、おだやかならぬことを言う。
片岡はこの屋敷にちょくちょく出入りして、喜久子夫人とも会っていたらしく、資金援助を受けているようだ。
小野寺家別館の203号室では、鏡進一が荷造りをしている。
日向の様子を聞くと、大金が手に入るとかでご機嫌だったそうだ。
大金が手に入るとはどういうことなのだろうか。
丸木戸貞蔵は、奥様は芝居にはあまり興味なかったらしいと言う。
そして、喜久子が片岡を援助していることは知らなかったそうだ。
小野寺家本館で話を聞こうと思ったのだが、女中頭のおシゲ婆さんは頑なに拒む。
そこへ小野寺一郎太が表れ、機転を利かせて「この方達は僕が捜査を依頼したんだ」と言ってくれたので、中に入り聞き込みができるようになった。
夫人室へ行くと、木原シゲがそそくさと入っていくのが見えた。
ここでは二人の話を立ち聞きするという形になる。
すると小野寺喜久子が、「なんという事なの・・・。またあの悪魔の子と関わる事になるなんて・・・。」と呟くのが聞こえてきた。
そして、悪魔の子は小野寺家を恨んでいるだろう、とも言うのである。
悪魔の子?
また大時代的な言葉だが、どういう意味なのだろうか。
念のため使用人室1でシゲに聞いてみると、片岡は以前書生として住み込んでいたので、その縁で援助しているとのことだった。
■捜査編2
翌日、演劇界について調べる為に、巴たちは浅草の劇場街を訪れた。
桔梗館で片岡に話を聞くと、日向は元は銀星館にいたのだが、給金が安いって飛び出したのだそうだ。
しかし日本館の河村須美子の楽屋で本庄に話を聞くと、あの年頃にしてはかなりの額を支払っていたそうだ。
そして「あの娘はどうも金銭に卑しいところがありまして、いつも不満をこぼしてばかりいたのでございます。」などと言う。
浅草署に行くと栗山刑事がぼやいた。
捜査資料の台本「蜃気楼の一族」を、片岡から仕事に必要なものだから、早く返してくれとせっつかれているので、返しておいてくれと頼まれた。
桔梗館の事務室で鏡と話すと、台本は完成していて既に読み合わせに入っているとのことなりてである。
蜃気楼の一族は日向の代役を立てて上演する予定らしい。
台本は完成しているのに、なぜ片岡は警察署に返却をしつこく頼むのだろう?
三角館で丸木戸に聞いてみると、日向は部屋を205号室から206号室に移ることを嫌がっていたらしい。
片岡の話では、日向は自ら望んで206号室に部屋を移った筈なのだが・・・
どうも片岡は嘘をついていたらしい。
小野寺家に行くと、糸が大量の新聞を処分していた。
それは、全てシゲが読んで、切り抜きの後が大量にあるそうだ。
そしてシゲは妙に瓢箪池のことを気にしている。
瓢箪池に行くと、一郎太と守衛が話していた。
盗み聞きしてみると、どうやら兄に会いに出かけた一郎太を、守衛が咎めているらしい。
三角館でもぎりの男に丸木戸のことを聞くと、「兄弟に会うために」先程出かけたそうである。
その夜、片岡を詰問すると、片岡はひどく動揺し煙草に火をつけた。
すると突然苦しみだし、そして唐齦嘯オた。
最後に一言、「金庫」と言う言葉が聞き取れた。
■捜査編3
諸星警部に聞くと、やはりタバコに毒が入れてあったようだが、しかし毒が入っていたのは1本だけとのことである。
鏡の話では、金庫は文剣狽ノあるそうだ。
早速文剣狽ノ行くと、確かに大きな金庫があるが、鍵が壊れているというのに金庫は開かないのだ。
鏡に聞いても確かに鍵は壊れていたそうだ。
そこへ事務員が現れて、あれは片岡が修理させたという。
そのため、ダイヤルロックの番号も片岡以外は知らないだろうとのことである。
三角館で丸木戸に聞いても、「あれは子爵夫人にせっせと貢いでもらった金が、ごっそり詰まっているだけじゃねぇのか?」と言うだけである。
久御山多聞に聞いても、子爵夫人の浮気など有り得ないと言う。
もともと、二人の結婚は喜久子の方が強く望んでのものらしい。
小野寺子爵家で野上糸に話を聞くと、「まったく・・・片岡さんといい、旦那様といい、どうして男の人って愛人なんか作りたがるのかなぁ。」と、口を滑らせた。
問い詰めると、倉庫の聡恍?ノ、守衛宛の恋文が紐でくくられて長持の中に隠してあるのを見つけたそうだ。
相手は「とき」さんという人だという。
となると、一郎太がいう「兄」とは、守衛とときとの間の子供かも知れない。
その時期は、二葉亭四迷の「浮雲」が発表された直後らしい。
となれば、明治20年頃でおよそ30年ほど前のことになり、「兄」の年令像にも合致するのだ。
桔梗館では、踊り子と脚本家を立て続けに失った鏡が落ち込んでいた。
彼の話によると、『蜃気楼の一族』の台本には、モデルが居たらしい。
ただ、片岡が具体的に誰をモデルにしていたのかまでは知らない、という。
片岡の殺された部屋では、栗山刑事が検分を行っていた。
彼によると、片岡は呼吸器系に病を抱えていた為、煙草は一日二本と決めていた、という。
片岡は普段一箱20本入りの煙草を吸っており、遺留品となった煙草入れには12本の煙草が残っていた。
片岡の喫煙行動を知る人間が、まだ彼が小野寺子爵邸に居る間に煙草に毒を仕込んだ可能性が出てきた。
つまり、日向まき殺害当時子爵邸に居た人間全員が、片岡芳郎殺害の容疑者にもなるのだ。
すっかり捜査に行き詰った二人が日本館に行くと、河村須美子と出会う。
彼女は二人に気分転換をさせようと、ある暗号をパズル感覚で出題する。
暗号には
・C+○
・N×△
・◇÷Z
・□-V
と記されている。
須美子いわく、この四つの式はある日付について表しており、CやNは英語でなくただの図形らしい。
また、+や×は単純に数学記号と考えていいそうだ。
日付ということは、この暗号は0101から1231までの4桁の数字のうちどれかを表していることになる。
そのため、最初のC+○は0か1かのどちらかの数字を表していることになる。
同様に、◇÷Zは1か2か3のうちのいずれかだ。
ここでCと○には図中に折れ曲がりが一切存在しないが、その他Nや◇には折れ曲がりが存在することに注目する。
すると上記の4式は
・C+○=0+0=0 (折れ曲がり数がそれぞれ0の為)
・N×△=2×3=6 (Nの折れ曲がり数は2、三角の折れ曲がり数は3)
・◇÷Z=4÷2=2 (◇の折れ曲がり数は4、Zの折れ曲がり数は2)
・□-V=4-1=3 (□の折れ曲がり数は4、Vの折れ曲がり数は1)
となり、暗号は0623、つまり6月23日を表していることがわかる。
二人が見事暗号を解くと、この暗号は彼女が後輩と一緒に遊びで考え付いたもので、
今では浅草の演劇関係者間で広くブームになっていると須美子は教えてくれた。
殺された片岡も、この暗号遊びを大変気に入っていたという。
二人は、片岡の遺した台本に記されていた演出記号もこの暗号だったのではないか、と気づく。
御神楽少女探偵団その21へ続く