さてさてさて、今回もゲームともS.T.A.L.K.E.R.ともstalkerともストーカーとも、はたまたMODとも全く関係ないお話し。
近未来、ある法令が制定されたら、ある種の「ストーカー」が存在するようになる・・・ そして「スモークイージー」とは?
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この仮想妄説シリーズは、フィクションであるという保証はありません。
煙福亭奇譚 その3
煙福亭の中は十数人の先客がいた。 思い思いに椅子に座りくつろいでいた。 紫煙が漂い、芳ばしいヴァージニア葉の芳香が立ちこめている。
奥にはお定まりのカウンターがあり、バーテンの源さんがシェーカーを振っている。 このあたりは普通の酒場と全く同じだ。 ただ、酒以外に煙草を出す所は全く異なる。
ここの客達は皆強い連帯感を持っている。 それはそうだろう。 全員が見つかればすなわち死に至るという、重罪を犯しているのだ。 連帯感がない方が不思議だ。 もっとも、俺達には重罪を犯しているという意識はないのだが・・・
ともあれ煙福亭はのどかだった。 俺は手近の椅子に座り、煙草に火を付けて深々と吸い込んだ。 喉への軽い刺激と痺れるような陶酔感。 至福の一時とは正にこのことだ。
隣の席の話し声が聞こえてくる。
「柴田さんも昨日やられたそうだよ」
「えっ! 柴田さんもやられたのか」
「ああ。 見事な最後だったそうだ。 射殺される直前に、摘発員に向かって堂々と持論を叫んだそうだ。 それだけじゃない。 撃たれた直後には、内ャPットに入れていた煙草を取り出して、摘発員に見せたということだ」
「それは凄い。 私にもその位の覚悟があればなあ・・・」
これは・・・ 俺が昨日目撃した紳士のことだ。 あの時手にしていたのは煙草だったのか。 確かに凄い。 筋金入りのスモーカーだ。
俺は席を立ち、隣席の二人の客に挨拶した。 二人共前に何度か見たことのある人達だが、話を交わしたことはなかった。
「失礼します。 実は私、昨日その柴田さんという方の最後を目撃した者です」
「えっ! あなた目撃されたのですか。 是非その時の様子を教えてください」「さ、どうぞこちらへ」
俺は隣の席に移った。 そして俺の目撃した始終を語った。 二人共感無量といった様子だった。
「そうでしたか・・・ 私らにはとてもまねの出来ないことです」
「柴田さんは肝が据わっていたからなあ・・・」
話はこのご時世のことに移り、慨嘆と郷愁の言葉が積み重なり、暫しの時が流れていった。
「静かに!」
俺達は一斉にその声の方角を注視した。
バーテンの源さんの声だった。
「手入れかも知れない。 皆さん、ご用意を」
俺達は一斉に動いた。 ドアにテーブルをもたせかけ、つっかい棒にする者、戸棚の銃を取り出す者、非常脱出口をチェックする者、それぞれが無駄なく素早く無言で動いた。
このような事態に備えて、何度か演習をしていたのだ。 できるなら無用のものであって欲しかった演習を。 その演習が役に立つ時は、俺達の人生の最後の時なのだから。
やがて荒々しい足音がドアに向うから聞こえ、声がした。
「喫煙者摘発所の者だ。 ここを開けろ!」
「開けられるもんなら開けてみな」
誰かが叫んだ。
返事はアサルトライフルの一斉射撃だった。 こちらも一斉に発砲した。
室内は煙草の芳香の替わりに硝煙の臭いが充ち満ちた。
源さんが叫んだ。
「ここは私が食い止めます。 皆さんは非常口から脱出してください。
さあ、早くっ!」
非常口は外のマンホールへと続いているのだ。 緊急事態に備えての避難路だった。
その声に客の一人が非常口のドアノブに手をかけた。 その瞬間ドアが爆発し、客は吹っ飛ばされた。 そして非常口の奥からはフルオートの乱射。
しまった! こちらにも手が回っていたのか・・・ 銃口をそちらに向けようとした瞬間、俺は胸に衝撃を感じた。 床がゆっくりと近づいてくる。 俺は手近の椅子につかまり、辛うじて唐黷驍フをふせいだ。
室内にはもう立っている者は誰もいないようだ。 それを見届けた瞬間床が更に近づいた。
ドアが開き誰かが入ってきたようだ。
「監査官殿、全員制圧いたしました」
「うむご苦労。 ここはもう用もなさそうだな。 お前達全員引き上げてよろしい」
この声は・・・
「はっ! しかし、まだ危険があるのでは・・・」
「なに、もう手向かう気力のある奴などいないだろう。 現場検証は警察がやってくれるし、俺達のすることはもうない。 さっさと行け」
まさか、あの人が・・・
「はっ! では失礼します」
足音が去ってゆく。
そうか、そうだったのか・・・ やはり奇跡などこの世には存在しないのだ。 信じられない程の幸運などあるわけがない。 これは全てシナリオ通りの進行だったのだ。
大原という人物は、恐らくは摘発所直轄の監査官、又はそれに似たような機構の者だろう。 彼は俺に目を付け、泳がせていた。 だから他の摘発所の摘発員が、俺をしょっぴこうとしたのは迷惑千万なことだった。
俺を張っていれば、後少しで新たなスモークイージーを発見できるのに、ここで摘発されては元も子もない。 だから彼は俺を助けたのだ。 俺はお人好しにも大原に感謝し、そして煙福亭迄奴を連れてきてしまったのだ。 しかし、どうやってあのセキュリティをクリアしたのだろう?
足音が俺に近づいた。
「こやつのおかげでセキュリティも楽に突破できた。 あの時こいつに解析器を貼り付けたとは、お釈迦様でも気がつくめえ。 道案内はしてくれるは、セキュリティ解析はしてくれるは、お前はほんとに役に立ってくれたよ。 もっとも、死んでしまってはいくら感謝されてもしょうがないだろうがな」
あの時・・・ 俺に手を貸して立たせてくれた時か・・・ 俺の軽率さ故に、自分だけでなく同志達迄破滅に陥れてしまった。 今更謝ってすむことでもないが、もう全てが終わる。 だんだんあたりが暗くなってきた。 床の木目ももう見えない。
そしてかすかな金具の音と煙草の匂い。 微かに聞こえる遠い声。
「ふふ 一仕事終わった後の一服はこたえられんな。
これでここの煙草も全て俺のもの。 大分ストックが増えたな」
@ケ
近未来、ある法令が制定されたら、ある種の「ストーカー」が存在するようになる・・・ そして「スモークイージー」とは?
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この仮想妄説シリーズは、フィクションであるという保証はありません。
煙福亭奇譚 その3
煙福亭の中は十数人の先客がいた。 思い思いに椅子に座りくつろいでいた。 紫煙が漂い、芳ばしいヴァージニア葉の芳香が立ちこめている。
奥にはお定まりのカウンターがあり、バーテンの源さんがシェーカーを振っている。 このあたりは普通の酒場と全く同じだ。 ただ、酒以外に煙草を出す所は全く異なる。
ここの客達は皆強い連帯感を持っている。 それはそうだろう。 全員が見つかればすなわち死に至るという、重罪を犯しているのだ。 連帯感がない方が不思議だ。 もっとも、俺達には重罪を犯しているという意識はないのだが・・・
ともあれ煙福亭はのどかだった。 俺は手近の椅子に座り、煙草に火を付けて深々と吸い込んだ。 喉への軽い刺激と痺れるような陶酔感。 至福の一時とは正にこのことだ。
隣の席の話し声が聞こえてくる。
「柴田さんも昨日やられたそうだよ」
「えっ! 柴田さんもやられたのか」
「ああ。 見事な最後だったそうだ。 射殺される直前に、摘発員に向かって堂々と持論を叫んだそうだ。 それだけじゃない。 撃たれた直後には、内ャPットに入れていた煙草を取り出して、摘発員に見せたということだ」
「それは凄い。 私にもその位の覚悟があればなあ・・・」
これは・・・ 俺が昨日目撃した紳士のことだ。 あの時手にしていたのは煙草だったのか。 確かに凄い。 筋金入りのスモーカーだ。
俺は席を立ち、隣席の二人の客に挨拶した。 二人共前に何度か見たことのある人達だが、話を交わしたことはなかった。
「失礼します。 実は私、昨日その柴田さんという方の最後を目撃した者です」
「えっ! あなた目撃されたのですか。 是非その時の様子を教えてください」「さ、どうぞこちらへ」
俺は隣の席に移った。 そして俺の目撃した始終を語った。 二人共感無量といった様子だった。
「そうでしたか・・・ 私らにはとてもまねの出来ないことです」
「柴田さんは肝が据わっていたからなあ・・・」
話はこのご時世のことに移り、慨嘆と郷愁の言葉が積み重なり、暫しの時が流れていった。
「静かに!」
俺達は一斉にその声の方角を注視した。
バーテンの源さんの声だった。
「手入れかも知れない。 皆さん、ご用意を」
俺達は一斉に動いた。 ドアにテーブルをもたせかけ、つっかい棒にする者、戸棚の銃を取り出す者、非常脱出口をチェックする者、それぞれが無駄なく素早く無言で動いた。
このような事態に備えて、何度か演習をしていたのだ。 できるなら無用のものであって欲しかった演習を。 その演習が役に立つ時は、俺達の人生の最後の時なのだから。
やがて荒々しい足音がドアに向うから聞こえ、声がした。
「喫煙者摘発所の者だ。 ここを開けろ!」
「開けられるもんなら開けてみな」
誰かが叫んだ。
返事はアサルトライフルの一斉射撃だった。 こちらも一斉に発砲した。
室内は煙草の芳香の替わりに硝煙の臭いが充ち満ちた。
源さんが叫んだ。
「ここは私が食い止めます。 皆さんは非常口から脱出してください。
さあ、早くっ!」
非常口は外のマンホールへと続いているのだ。 緊急事態に備えての避難路だった。
その声に客の一人が非常口のドアノブに手をかけた。 その瞬間ドアが爆発し、客は吹っ飛ばされた。 そして非常口の奥からはフルオートの乱射。
しまった! こちらにも手が回っていたのか・・・ 銃口をそちらに向けようとした瞬間、俺は胸に衝撃を感じた。 床がゆっくりと近づいてくる。 俺は手近の椅子につかまり、辛うじて唐黷驍フをふせいだ。
室内にはもう立っている者は誰もいないようだ。 それを見届けた瞬間床が更に近づいた。
ドアが開き誰かが入ってきたようだ。
「監査官殿、全員制圧いたしました」
「うむご苦労。 ここはもう用もなさそうだな。 お前達全員引き上げてよろしい」
この声は・・・
「はっ! しかし、まだ危険があるのでは・・・」
「なに、もう手向かう気力のある奴などいないだろう。 現場検証は警察がやってくれるし、俺達のすることはもうない。 さっさと行け」
まさか、あの人が・・・
「はっ! では失礼します」
足音が去ってゆく。
そうか、そうだったのか・・・ やはり奇跡などこの世には存在しないのだ。 信じられない程の幸運などあるわけがない。 これは全てシナリオ通りの進行だったのだ。
大原という人物は、恐らくは摘発所直轄の監査官、又はそれに似たような機構の者だろう。 彼は俺に目を付け、泳がせていた。 だから他の摘発所の摘発員が、俺をしょっぴこうとしたのは迷惑千万なことだった。
俺を張っていれば、後少しで新たなスモークイージーを発見できるのに、ここで摘発されては元も子もない。 だから彼は俺を助けたのだ。 俺はお人好しにも大原に感謝し、そして煙福亭迄奴を連れてきてしまったのだ。 しかし、どうやってあのセキュリティをクリアしたのだろう?
足音が俺に近づいた。
「こやつのおかげでセキュリティも楽に突破できた。 あの時こいつに解析器を貼り付けたとは、お釈迦様でも気がつくめえ。 道案内はしてくれるは、セキュリティ解析はしてくれるは、お前はほんとに役に立ってくれたよ。 もっとも、死んでしまってはいくら感謝されてもしょうがないだろうがな」
あの時・・・ 俺に手を貸して立たせてくれた時か・・・ 俺の軽率さ故に、自分だけでなく同志達迄破滅に陥れてしまった。 今更謝ってすむことでもないが、もう全てが終わる。 だんだんあたりが暗くなってきた。 床の木目ももう見えない。
そしてかすかな金具の音と煙草の匂い。 微かに聞こえる遠い声。
「ふふ 一仕事終わった後の一服はこたえられんな。
これでここの煙草も全て俺のもの。 大分ストックが増えたな」
@ケ