トラピストビールというものを知ってから、私の人生は変わった。 というのは流石に少し大げさだが、少なくとも人生の大きな楽しみが一つ増えた、ということは確実に言える。
ベルギービールを飲み始めてから、もう十数年になる。 その間に味わい覚えたビールの幾つかを番付にしてみた。 勿論これは完全に私個人の好みによるもので、普遍的な意味での格付けでは全くない。
先日亡くなった友人がトラピストビールを飲んだ感想。
「トラピストビールというのは、普通の大量生産のビールとは、同じビールと言っても全く別のものですね。」
その通りで、トラピストビール或いはベルギービール全体で言えるのは、大量生産ビールと違い、「味が濃い」或いは「コクがある」という点だ。 それも並みのコクではなく、重量感のある濃い感じのまろやかで芳醇な味と舌触りで、ビールというよりワインに近い感じである。
アルコール度も高く、通常8-10%、高いものは12.3%もある。 これもワイン並みである。 従ってガブッととのど越しで味わうのではなく、少量を口に含み舌でころがすように味わう。 これもワインに通じるところがある。 第一、普通のビールの2倍以上のアルコール度だから、ごくごくと飲んだらたちまち酔っぱらってしまう。
ベルギーというのは、ことビールに限って言えばとてつもなく凄い国だと思う。 九州位の土地に醸造所が数百社、ブランドは600種を越えるという。 トラピストビールも世界で7つのみで、その内6つ迄がベルギー内にある。 この「トラピストビール」の呼称はベルギーでは法的に保護されていて、勝手に用いることはできない。 修道院内の設備を使用しなければならないとか、収益事業としてはならないとか、色々と法的な制限があるそうだ。
このトラピスト修道院のレシピを用いて、民間で生産されるビールは「アビイ」と呼ばれる。 他にも「セゾン」という季節限定のビールや、「ランビック」という自然の酵母のみを使用した伝統的な製造法のビール、コリアンダーやオレンジピールなどを入れたもの、更には蜂蜜を入れたもの、イチゴやベリーをつけ込んだものなど、実に様々で個性的なビールがある。 だから数百の銘柄があっても、一つとして似たような味というのが無いのである。
A+ 特級 A 優 B 良 C 可
というランク付けだが、無論私個人の好みによる、多分にいい加減なものである。
ブランド タイプ 醸造所
A+ ウェストマールトリプル トラピスト 聖心ノートルダム修道院
A シメイ ブルー 〃 スクールモン修道院
アヘル ブラウン 〃 アヘル修道院
グリムベルゲン・トリプル アビイ ウニヨン醸造所
マレッツ トリプル アビイ デュベル-モルトガット醸造所
キャスティール・ブリューン その他 ヴァン・ホンスブルック醸造所
グーデン・ドラーク その他 ヴァン・スティーンベルグ醸造所
B
オルヴァル トラピスト オルヴァル修道院
ロシュフォール8 トラピスト サン・レミ修道院
ラ・トラップ ブロンド トラピスト コニングスホーヴェン修道院
ラ・シュフ その他 ダシュッフ醸造所
マック・シュフ その他 ダシュッフ醸造所
シント・ベルナルデュス・トリペル アビイ
キュヴェ・ド・レルミタージュ その他 ウニヨン醸造所
C
ベルジャン・ホワイト にごり白生缶 その他 マルテンス醸造所
この中で私が最も好むのは、ウエストマーレトリペル(ウェストマールトリプルという発音もあるようだ)で、淡い琥珀色が美しい。 すっきりとしたフルーティな感じが強いが、特にオレンジピールなどの果皮は使っていないようだ。 味は上品で高貴、透明な味わいで、正にトラピストビールの女王。
シメイの青もおなじみのビールで、こちらもフルーティさはかなりある。 アヘルは独特の味と香りでくせになる。
グーデン・ドラークは独特の非常にコクのあるビールで、アルコール度は11%以上12%以下という、かなりあいまいな表示。
ベルジャン・ホワイト にごり白生缶は、価格が非常に安い(国産のプレミアタイプより安い)にも関わらず、ベルギービールの美点を備えたお買い得のビール。