電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

池上彰『そうだったのか! 中国』を読む

2015年05月15日 06時05分28秒 | -ノンフィクション
集英社文庫で、池上彰著『そうだったのか! 中国』を読みました。いかにテレビを観ないとはいえ、著者が「週刊こどもニュース」のお父さん役で解説を担当していたことくらいは承知しています。そのときの解説がわかりやすいことに強い印象を持っており、文庫本で現代中国の背景を手っ取り早く知りたいという軟弱な動機で手にしたものです。

本書の構成は、次のとおりです。

第1章 「反日」運動はどうして起きたのか
第2章 毛沢東の共産党が誕生した
第3章 毛沢東の中国が誕生した
第4章 「大躍進政策」で国民が餓死した
第5章 毛沢東、「文化大革命」で奪権を図った
第6章 チベットを侵略した
第7章 国民党は台湾に逃亡した
第8章 ソ連との核戦争を覚悟した
第9章 日本との国交が正常化された
第10章 小平が国家を建て直した
第11章 「一人っ子政策」に踏み切った
第12章 天安門事件が起きた
第13章 香港を「回収」した
第14章 江沢民から胡綿涛へ
第15章 巨大な格差社会・中国
第16章 進む軍備拡張
第17章 中国はどこへ行くのか
21世紀の中国の光と影

この中で、私の世代ではいわゆる「ニクソン・ショック」の記憶が鮮明です。同盟国・日本の頭越しの訪中がどういう意味を持っていたのか、本書では中ソ対立を背景に、「敵の敵は味方」という考え方で米中の接近が起こったこと、ベトナム戦争を続けるアメリカ側からは、中国の直接介入がないことを確かめたこと、などを指摘しています。なるほど! そうだったのか!

また、アマルティア・センの著書『貧困の克服』(集英社新書)で指摘されていたように、中国の「大躍進政策」によって大量の餓死者が出た経緯や理由が、本書では具体的に説明されており、迫力があります。権力の中枢にある毛沢東には、地方の惨状について情報が届いていないだけでなく、そもそも独裁者は地方のリアルな情報など欲していない。貧困や飢餓は、たんに食料や物資が不足するからというよりも、足りない地域と余っている地域に関する情報が交流しないこと、端的に言えば、政府が無策なことによる。ベンガル地域におけるセン教授の指摘が、1950年代の中国にも当てはまります。

そのほか、文化大革命とは何だったのか、二回の天安門事件の意味など、眼からウロコがぼろぼろと落ちました。この文庫本シリーズはけっこう好評なようで、他にも増刷を重ねて書店に平積みになっているものがあるようです。高校の歴史の授業ではついに到達しなかった現代史、自分が同時代に経験した様々な出来事の意味を示唆し、あるいは解き明かすものとして、良いシリーズを見つけたと思います。

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