電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

文翔館で「チェロ・カルテット」山形公演を聴く

2015年05月04日 06時06分41秒 | -室内楽
晴天続きのゴールデンウィーク前半、5月3日の憲法記念日は、午前中に果樹園で桃の花摘み作業に精を出し、午後からは文翔館議場ホールで、「チェロ・カルテット」山形公演を聴きました。恩師と弟子たちの四人がカルテットを組み、これに弟子の一人が編曲で参加するという形で、早くから興味深く楽しみにしていたものです。



恩師というのは、桐朋学園大学で井上頼豊氏に師事し、東京都交響楽団の首席チェロ奏者をつとめ、現在は東京音楽大学教授である苅田雅治(Kanda Masaharu)氏です。
弟子たちというのは、山響の久良木夏海(Kuraki Natsumi)さん、読響の芝村崇(Shibamura Takashi)さん、日本センチュリー響の渡邉弾楽(Watanabe Dangaku)さんの三人。そして、同じく苅田先生の下でチェロを学んだ伊藤修平(Ito Shuhei)さんが編曲を行っています。今回は山響の久良木夏海さんのご縁で、文翔館における山形公演が実現した、というものらしい。




本日のプログラムは、14:00開演で、

  1. ポッパー 演奏会用ポロネーズ Op.14 ニ短調
  2. リャボフ フィンランドの森の歌
  3. ハイドン ディベルティメント ニ長調
  4. チャイコフスキー ロココ風の主題による変奏曲 Op.33 イ長調
  5. ガーシュイン 「ポートレート」
  6. 日本の四季メドレー(編曲:伊藤修平)
  7. ストラヴィンスキー プルチネルラ組曲(編曲:伊藤修平)

となっています。会場北側にステージを置いて横長に座席を配置し、およそ百席もあったでしょうか、おおよそ埋まっていたのはすごいです。

第1曲:ポッパーの演奏会用ポロネーズは、ステージ左から、1番チェロ:久良木さん、2番チェロ:苅田先生、3番チェロ:渡邉さん、4番チェロ:芝村さん、という順序です。曲はなかなかカッコいいもので、19世紀後半から20世紀初頭のヴィルトゥオーゾ時代に生きた人らしく、素人目には難しそうですが、難なく演奏されているようで、けっこうインパクトがありました。
※余談:誤植を一つ発見。プログラムノートには「作品16」となっていますが、左側のプログラムには「Op.14」とあるナッシー(^o^)/

第2曲:リャボフ「フィンランドの森の歌」。作曲者はほぼ同世代。没年不明ということは、まだ存命? 1番チェロ:久良木さん、2番:渡邉さんに交代し、3番:苅田先生、4番:芝村さんです。第1楽章:でいいのかな? Andante cantabile は、チェロの旋律の魅力を生かしたもので、どことなく民謡風の要素があります。第2楽章:Allegro risoluto、第3楽章:Adagio religioso、第4楽章:Andante tranquilo となります。3番チェロのソロがいいなあ。終わりの音が、ホールに好ましく響きます。

第3曲:ハイドンのディヴェルティメント。苅田先生が退き、若い三人によるチェロ三重奏です。1番チェロ:渡邉さん、2番:芝村さん、3番:久良木さんという配置です。ごくシンプルな構成ですが、高域で旋律を受け持つのと、内声部と、低音域というように、チェロという楽器の多能さがよくわかります。あと、苅田先生に休憩が必要という配慮は、当方の年代にはヒジョーに痛切に感じますですよ(^o^)/
第1楽章:アダージョ、第2楽章:アレグロ・ディ・モルト、第3楽章:メヌエット、第4楽章:フィナーレ、ヴィヴァーチェ。

第4曲:チャイコフスキーの「ロココ風の主題による変奏曲」。Wikipediaによれば、この曲には「フィッツェンハーゲン版」と「原典版」の二種類があるそうですが、今回は演奏効果を考えた「フィッツェンハーゲン版」による演奏です。独奏チェロ:苅田雅治、1番チェロ:芝村さん、2番チェロ:久良木さん、3番チェロ:渡邉さん。本来はチェロ協奏曲風の曲なわけですが、独奏チェロと、3本のチェロがオーケストラ部を受け持つ形で円奏されます。昭和のアニメ「森は生きている」の世界です(^o^)/
苅田先生のソロは、説得力があり、素晴らしいものでした。

ここで、20分の休憩です。



第5曲:ガーシュイン「ポートレイト」。本来はトロンボーン四重奏のための曲だそうです。「ラプソディ・イン・ブルー」や「サマータイム」「アイ・ガット・リズム」「ス・ワンダフル」など、おなじみのガーシュイン・メドレーを楽しみました。1番チェロ:渡邉、2番:芝村、3番:苅田、4番:久良木の各氏。渡邊さんのパートは、難しそうなのですが、洒脱に演奏していました。総じて、ピアノの軽いスウィング感よりも、チェロの多彩な音色を楽しむことができました。

第6曲:「日本の四季メドレー」。1番チェロ:苅田、2番:芝村、3番:久良木、4番:渡邉の各氏。「この道」「茶摘み」「浜辺の歌」「赤とんぼ」「小さい秋」「最上川舟唄」「雪の降る街を」「花」と、日本の四季を順に巡るメドレーです。唱歌の中にいきなり「最上川舟唄」が出てくるのにはビックリ(^o^)/

ここで、「日本の四季メドレー」の編曲を担当した伊藤修平さんを紹介します。次の第7曲も伊藤さんの編曲です。

第7曲:ストラヴィンスキー「プルチネルラ」組曲。シンフォニア、セレナータ、スケルツィーノ、タランテラ、トッカータ、ガヴォッタ・コン・デュ・ヴァリアツィオーニ、ヴィーヴォ、メヌエット~フィナーレ。楽器配置は、1番:芝村、2番:久良木、3番:渡邉、4番:苅田となります。
昨年夏のアフィニス音楽祭で、この曲の演奏を聴いた記憶があるとはいうものの、あいにくCDも持っていませんので、お馴染みの曲目とは言い難い。でも、コメディア・デラルテの伝統を生かそうとしたという軽みのある音楽を四本のチェロで表現する試みを、大いに楽しみました。これは、演奏もさることながら、編曲の貢献も大きいようです。

聴衆の拍手に応えて、アンコールはモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」でした。

休憩を入れれば二時間半近い演奏、若いお弟子さんたちはともかく、苅田先生のスタミナは大丈夫だったのでしょうか。でも、こういう形で師弟がともに演奏をすることができるというのは、本当に幸せなことでしょう。ある範囲の年代でないと実現できない、多忙さの中でいつでもできると思っていると、いつのまにか時を逸してしまうものだろうと思います。学生時代の恩師の年齢をとうに過ぎ、大学とのご縁も薄らいでしまっているこの頃、お弟子さんたちの若さがまぶしく感じられるとともに、音楽を通じた師弟のご縁をいささかうらやみながら帰路につきました。

コメント (2)