電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宮城谷昌光『新三河物語(中)』を読む

2012年10月02日 06時03分36秒 | -宮城谷昌光
新潮文庫の宮城谷昌光著『新三河物語』(中巻)を読みました。この巻は、東三河から今川の勢力を一掃し、力をつけてきた家康に対して、甲斐の武田信玄が動きます。織田信長も、武田信玄に対しては、真っ向から対戦しようとはしません。三方原で一蹴された家康でしたが、信玄が病に倒れ、息を吹き返します。

大久保一族では、前巻で器の大きさと渋い味を見せた常源が後方に退き、忠員の子・忠世と忠佐が中心となって奮戦しますが、平助が成長し、器量の大きさを見せ始めます。この平助こそ、本書の中心的な主人公と言ってよいのでしょう。

小説としての陰影をもたらしているのが、一向一揆の際に家を去った妻と娘を探し続ける忠佐の姿でしょうか。変名を用い、怪しげな法体の男の姿がちらつく妻に、割り切れない思いを持ちつづける壮年の男の姿は、ドラマティックです。実父か養父かわからぬ父・忠佐を慕って、ともに暮らすことを望んだ娘おやえの存在が、貴重です。

武田勝頼の描き方は、なんともお気の毒。武田家を滅ぼした人ですから、後世の人には厳しく評価されるわけですが、まあ、若気の至りでしょうなあ。

コメント