電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ベートーヴェン「弦楽四重奏曲第1番」を聴く

2012年01月29日 06時05分34秒 | -室内楽
若いベートーヴェンの音楽(*1)は、溌剌としたリズムや魅力的な旋律・響きなど、たいそう魅力的なものです。ただし、現代の私たちは、中期から後期における、この作曲家の偉大な作品群の影に、その魅力が隠れてしまい、充分に触れることなく過ごしてしまう面があるのでしょう。若い時代には持っていても、年をとると失われてしまう魅力や価値がたくさんあるということは、私たち中年世代は実感として気づいていることです。若いベートーヴェンには、晩年には失われてしまう独自の魅力や価値がある(*2)ことに気づかせてくれたのは、たとえばこの弦楽四重奏曲Op.18の6曲、とりわけこの第1番でした。

弦楽四重奏曲第1番Op.18-1は、1801年に完成されており、全6曲中第2番目に作られた曲であるのに、第1番とされたものだそうです。このあたりも、自信作を第1番にするというベートーヴェンの流儀が、やっぱり踏襲されているようです。

第1楽章:アレグロ・コン・ブリオ、ヘ長調、4分の3拍子、ソナタ形式。ターラララッタッターという始まりから、四人の緊密なアンサンブルの音楽となっていきます。ハイドンの弦楽四重奏曲では、ソリストのような第一ヴァイオリンに対して、他の三人が伴奏をするような形から次第に進化していきますが、ベートーヴェンの場合は最初から四人とも忙しく活躍する形になっています。チェロのパートなどは、ベートーヴェンのほうがずっと重視しているように聞こえます。
第2楽章:アダージョ・アフェットゥオーソ・エ・アパッショナート。ニ短調、8分の9拍子、ソナタ形式。ベートーヴェン自身は、「ロメオとジュリエット」の墓場の場面を考えていたとされていますが、たしかに悲劇を感じさせるものがあります。ただし、晩年の音楽のような厳しさではなく、しだいに穏やかな表情も現れます。中ほどに、三度の全休止を置き、劇的な効果も与えます。印象的な緩徐楽章です。
第3楽章:スケルツォ、アレグロ・モルト、ヘ長調、4分の3拍子。三部形式。前の楽章の暗い気分からはだいぶ抜けだし、軽妙なスケルツォとなっています。優雅なメヌエットでなくて、活発なスケルツォの採用も、若いベートーヴェンらしさなのかも。
第4楽章:アレグロ、ヘ長調、4分の2拍子。始まりからして、晴れ晴れとした解放感を感じさせる音楽です。やわらかな優しさもあり、モーツァルトやハイドンに連なる伝統の響きはしっかりと持っておりますが、四人の奏者の緊密な響き合いは、たしかに革命児ベートーヴェンの工夫と労作でしょう。

演奏は、スメタナ四重奏団。本当は、もっと若々しい団体で聴きたい(*3)ところですが、残念ながら録音はこれしか持っていないので、仕方がありません(^o^;)>poripori

(*1):ベートーヴェンの「第1番」~「電網郊外散歩道」2005年2月
(*2):ベートーヴェンのピアノソナタ第1番を聴く~「電網郊外散歩道」2009年2月
(*3):山形弦楽四重奏団第31回定期演奏会を聴く~「電網郊外散歩道」2009年4月
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