電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形弦楽四重奏団第31回定期演奏会を聴く

2009年04月12日 05時09分29秒 | -室内楽
ぽかぽか暖かな陽気、一斉に花開く山形の春です。11日の土曜日、山形弦楽四重奏団第31回定期演奏会を聴くために、文翔館ヘ向かいました。プライベートでの課題に一歩前進が見られた後ですので、気分も爽やかです。
プレコンサートは、アンサンブル・ともズ(Ensemble Tomo's)のお2人。ヴァイオリンの茂木智子さんと、ヴィオラの田中知子さんです。ハイドンの「6つのヴァイオリンとヴィオラのためのソナタ」から、第6番。春らしく、暖かな音楽です。

続いてプレ・コンサート・トークは、中島光之さん。さすがは元国語の先生ですね。簡潔に的確に曲目を紹介するトークは、一語の無駄もありません。ハイドン、シュターミッツ、服部公一、ベートーヴェンの四人の作曲家の、ほぼ30代の作品を取り上げたプログラムは、カルテットの四人のメンバーも同世代の親近感を持って演奏できるもの、とのことです。

さて、ステージ左から右へ、第1ヴァイオリンに中島さん、第2ヴァイオリンに駒込さん、ヴィオラが倉田さんでチェロが茂木さんと、楽器の配置も少々変更がありましたし、そもそも第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの交代を行わず、役割を固定しての試みです。駒込さんは黒のロングドレス、男性三名は同じく黒の略式服でしょうか、それともダークスーツなのでしょうか、蝶ネクタイではなくふつうのネクタイです。髪を切ったらしい茂木さんの黄色いネクタイがよく似合います。中島さんと倉田さんは紺系のネクタイなのでしょうか、照明の関係でネクタイも黒に見えてしまい、一瞬、喪服スタイルかと錯覚(^o^)/

最初の曲目、ハイドンの弦楽四重奏曲ト長調、Op.17-5「レスタティーヴォ」、第1楽章、モデラート。出だしから素敵なアンサンブルに、なんだか一皮むけたみたいな感じがします。第2楽章、メヌエット:アレグレット。第1ヴァイオリンの後ろで、第2ヴァイオリンとヴィオラとチェロが奏する響きのすてきなこと!第3楽章、アダージョ。ほんとにオペラのレシタティーヴォのように、声と言葉の代わりに、弦楽で表現しようとしたかのような音楽です。第4楽章、フィナーレ:プレスト。なかなかいい曲、そしていい演奏!春の日らしい、前向きな音楽でした。

続いてシュターミッツのクラリネット四重奏曲です。ステージ左から、ヴァイオリンの中島さん、ヴィオラの倉田さん、チェロの茂木さんに、右側にクラリネットの郷津隆幸さんが座ります。第1楽章、アレグロ。弦楽三重奏にクラリネットが加わったような編成で、ヴァイオリンとヴィオラが組んでクラリネットと掛け合い、チェロがピツィカートを交えつつ低音を支えるような感じです。流れるように歌う、楽しい曲です。チェロの茂木さんが調弦を確かめ、第2楽章、ラルゴ。クラリネットが、甘い高音と、意外なほど低い低音との間を行き来しながら。第3楽章、Allemande これはアルマンドと読むのかな?くるりくるり回り踊る、陽気な舞曲のようです。

三人目は、服部公一さんの「弦楽四重奏のための二楽章」。作曲者37歳の、1970年の作品だそうです。郷津さんが退き、駒込さんが加わって、オリジナルメンバー4人に戻ります。第1楽章、モデラート・エスプレッシーヴォ。ずらしのテクニックなどを多用し、ピツィカートが四人の奏者の間を行き来します。この楽章は、やや不安気な要素がありますが、第2楽章も同じモデラート・エスプレッシーヴォの指示にもかかわらず、時折日本の伝統音楽あるいは民謡風の節回しも登場し、なかなかかっこいい音楽です。エネルギッシュなフィナーレに、聴衆から大きな拍手が送られ、作曲者の服部公一さんがステージに近づき、中島さんと握手を交わします。なかなか気合の入った音楽で、当方もたいへん気に入りました。

15分の休憩時に、次回、第32回定期演奏会の前売券を購入しました。客席を見渡すと、地味な曲目のわりにお客さんの入りも多く、90人は越えていそうです。人口20万人規模の地方都市、周辺人口を入れても40万人規模の地域で、コアな室内楽の定期演奏会にこの聴衆というのは、けっこう多いのではないかと感じます。もともと、厳本真理弦楽四重奏団の時代から室内楽の素地のあった地域とはいえ、山形弦楽四重奏団の活動の成果であることは疑いのない事実でしょう。当方のような一音楽ファンにとっては、実にありがたいことです。

さて、後半はベートーヴェンの弦楽四重奏曲第1番、ヘ長調Op.18-1。当方のお気に入りの曲目でもあり、今回のプログラム中、もっとも期待を持っているものでもあります。第1楽章、いかにもベートーヴェンらしいアレグロ・コン・ブリオ。ヴィオラの刻みが、いつも聴いているCDよりずっといい音に聞こえます!たいへんに緊密なアンサンブルです。第2楽章、アダージョ・アフェットゥオーソ・エ・アパッショナート。開演前の中島さんの解説によれば、シェークスピアの「ロミオとジュリエット」にインスピレーションを受けて作曲されたという、緊張感に満ちた緩徐楽章です。悲痛な表情の中にも甘美さがあります。第3楽章、スケルツォ:アレグロ・モルト。ふっくらとした柔らかさのあるスケルツォです。第4楽章、アレグロ。すでに貴族のアマチュアが演奏して楽しむための音楽ではなくなっているようです。飛ぶような速さのパッセージがあるかと思えば四者の緊密なバランスも求められ、しかもフィナーレの解放感も必要になってきます。気力、体力ともに要求される音楽を、山形弦楽四重奏団は十分に表現していたと思います。

なんだかエラそうな物言いですが、今回の定期演奏会は、一段と成長し、一皮むけたような印象を受けました。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンの固定も成功しているのではないかと思います。もう次の定期演奏会が楽しみです。第32回は、7月26日(日)、夕方18時の開演、ハイドンの「皇帝」やメンデルスゾーンの6番など、これも楽しみな曲目です!



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8 コメント

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御来場ありがとうございました。 (らびお)
2009-04-12 06:15:37
おはようございます。
本番後というのは興奮していてなかなか寝つけません。今日は仙台の方で演奏会があるのでそのせいかもしれませんが・・・。

いつもあたたかい演奏会評をありがとうございます。演奏者としても実は楽しみにしています。

今回は新しい事が沢山ありました。ヴィオラとチェロの位置を交換したこと(これは今後も検討を重ねていく予定)、ヴァイオリンパートを固定したこと(これも今後検討していく予定)などは、いつも聴きに来て下さっている方々は気づいた方が多かったように思いました。

メンバー側からで言うと今回~駒込が新しい楽器を手に入れまして、めでたくメンバーの楽器が同じ国出身者になりました。今まではイタリア語とフランス語が入り交じっていましたが、今回から全員イタリア語を話す楽器です。もう少し書きますと私と茂木の楽器は同作者。駒込の楽器はその作者の息子の作品。中島は唯一オールドのイタリア楽器を所有しています。

アンサンブルのやり方も今までと根本的発想が違う方法を試しました。音程を合わせてリズムを合わせて、縦の線を合わせてという方法ではないのです。その後音楽を作っていきますが、結局本番に間に合わなくて、消化不良のまま演奏会になってしまったり。最近はなくなりつつなってましたけど。合っている事が第一という方法です。

そして今回は周りの音を聞きつつ、タイミングをとりにいかないで(さぐらないで)一人一人が音楽を発する事に重点を置きました。音楽さえあっていれば、タイミングはずれていいという方法です。日本人的発想では無い方法かもしれません。

この方法は音楽が生き生きしてくるなどリターンは大きいのですが、そのぶんリスクも大きいみたいです。

今後、この方法をとるかどうかはこれからの反省会で決まります。笑。


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ありがとうございます (中爺)
2009-04-12 07:22:26
 いつもありがとうございます。いつもこの演奏会評を読むのを楽しみにしております。
 ただいま軽い二日酔い中ですが、起きてまっ先に拝読しました。次回もよろしくお願い致します。
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続けて・・・ (だちゅ)
2009-04-12 08:53:05
本当にありがとうございました。
色々と変化があった山形Qですが、一皮剥けた、とおっしゃっていただけて本当に嬉しいです!!

どうかどうか、今後ともよろしくお願い申し上げます。
ぜひとも会場でご挨拶をと思うのですが・・・
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らびお さん、 (narkejp)
2009-04-12 09:48:23
コメントありがとうございます。おかげさまで、とても良い時間を過ごしました。楽器の件、当方がテキストエディタにこだわるように、やはり演奏家の方々には、大きな要素なのでしょうね。ラモーやクープランの時代なら、フランスとイタリアの楽器の優劣論争が勃発していたのかも(^o^)/
仙台での演奏会のご成功をお祈り致します。
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中爺 さん、 (narkejp)
2009-04-12 09:56:24
コメントありがとうございます。演奏のほうも素晴らしかったのですが、音楽以外では、なんといっても中爺さんのプレ・コンサート・トーク。ほんとにお見事でした。原稿なしであの内容を、と思わず感心してしまいました。
軽い二日酔いとのこと、仙台での演奏会では、復活!して素晴らしい演奏会になりますように、お祈りいたします(^o^)/
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だちゅ さん、 (narkejp)
2009-04-12 10:03:28
コメントありがとうございます。昨夜の定期演奏会は、室内楽の醍醐味を堪能いたしました。私の大好きなベートーヴェンの第1番は、ほんとに良かったです!若いベートーヴェンの魅力が十分に伝わりました。
仙台での演奏会も、素晴らしい時間になりますようにお祈りいたします。
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Unknown (委員長)
2009-04-14 00:57:48
いつも応援していただき、ありがとうございます!!
遅ればせながら、ようやくネットにカムバックいたしました。

次回演奏会は、濃厚なプログラムとなっておりますで、どうぞ御期待ください。
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委員長 さん、 (narkejp)
2009-04-14 07:22:29
コメントありがとうございます。素人音楽愛好家のレポートに、演奏家の方々から直接にコメントをいただけるなど、山形ならではと、ただ感謝であります。
次回の定期演奏会も、楽しみです。すでに妻と二人分、前売チケットを入手しております(^o^)/
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