電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山形弦楽四重奏団第42回定期演奏会でハイドン、グラス、ベートーヴェンを聴く

2012年01月18日 06時03分33秒 | -室内楽
ちょうどアレルギー性副鼻腔炎の薬がなくなりそうでしたので、早々と休みをとって通院を済ませ、山形市の文翔館にかけつけました。幸いに雪は止み、道路は黒くアスファルト面が出ています。久しぶりにプレコンサートに間に合いました。今日は、茂木智子さんと菊地祥子さんのお二人によるヴァイオリンの二重奏で、フランスの作曲家ルクレールの「二つのヴァイオリンのためのソナタ第2番」です。3つの楽章からなる曲で、茂木さんのヴァイオリンを菊地さんが追いかける?形で始まる、チャーミングな曲でした。

そして、当夜は今井東子(はるこ)さんの初プレトークでした。山形の冬の寒さに対応してか、黒い長袖の上衣とロングスカートのドレスで、メガネの奥にキラリと知性が光ります。今回の曲目について、プログラムノートを見ながらの説明でした。ハイドンは、均整のとれた曲、というイメージだとか。同感です。P.グラスの「MISHIMA」は、死に向かうおだやかな面も感じられるとのこと。ベートーヴェンは、聴覚異常が出てきていた時期にもかかわらず、そんな気配は出ていないことに、強い精神力を感じる、とのこと。とてもわかりやすい説明でした。少しはずかしそうで、比較的前の方に座ったのでよく聞こえましたが、客席の一番後ろのお客様には聞こえたかどうか、ちょいと心配になりました。

さて、第1曲めは、ハイドンの「弦楽四重奏曲ホ長調Op.17-1」です。
第1楽章:モデラート。第1ヴァイオリンが美しく伸びやかな旋律を歌い、第2ヴァイオリンとヴィオラ、チェロが響きを加える形や、二本のヴァイオリンの重奏、あるいはヴィオラも加わって、などの多彩な響きとリズムを堪能します。安心して聴けるハイドンの音楽ですが、第1ヴァイオリンはけっこう難しそうな印象あり。
第2楽章:メヌエット。基本的に明るく楽しい音楽です。二曲目にメヌエット?と変な気もしますが、まあ、固いことは言わないことに(^o^)。なにせハイドンさんは、さまざまな楽曲の形式を作った張本人なのですから(^o^)/
第3楽章:アダージョ。とても印象的な哀愁の音楽。とても美しい音楽です。今井さんのプログラムノートによれば、当時はやっていたオペラやオラトリオの「シシリアーノ」の形式をとるそうな。その今井さんの第2ヴァイオリンの細かい動きの音が、繊細に響きます。
第4楽章:フィナーレ、プレストで。二本のヴァイオリンから始まります。時折転調をまじえながら、充実したフィナーレです。

お客さんの入りは、そうですね、いつもよりも少なめでしょうか。厳冬期、有名曲を含まないプログラムの平日の室内楽演奏会ですので、まあやむを得ない面があります。P.グラスなんて、「誰?それ。」なんて感じでしょう。私の場合、珍しい曲目の場合は、この次という機会はない!とばかり出かけるようにしていますが(^o^)/



さて、そのP.グラスの弦楽四重奏曲第3番「MISHIMA」は、映画「MISHIMA」の音楽をもとにして弦楽四重奏曲に再構成したものだそうです。MISHIMAとはもちろん三島由紀夫のことです。この事件のことは、多少の記憶がありますが、ずいぶん違和感があったなあ、という程度のものでしかありません。三島由紀夫の良い読者ではありませんでしたし、もちろんこの映画も観たことはありません。さてどうか?
第1楽章、1957:Award Montage, 鎮魂と回想でしょうか。第2楽章、November 25-Ichigaya, ごく短い心象風景か。第3楽章、Grandmother and Kimitake, キミタケというのは三島由紀夫の本名だそうです。(知らなかった!) 威厳のある祖母の力か、ヴァイオリンらしい高音がほとんど登場せず、中低音のみで表されます。暗い印象、抑圧のイメージでしょうか。大人になってまでバアちゃんのトラウマってのも、なんかヘンですけどね~(^o^)。第4楽章、1962:Body Building, ヴィオラとチェロから始まり、はじめは中低音で表されますが、やがてヴァイオリンの高音も加わり、負荷がかけられる様子でしょうか、思いがけない中断で終わります。第5楽章、Blood Oath, 次第に昂揚する血の誓い。同様にプツッと終わります。第6楽章、Mishima/Closing, リズムの執拗な反復を特徴とする曲の中で、旋律らしいものが登場します。うーむ、執拗な反復からなるミニマル・ミュージックの手法による音楽は、たぶん映画には効果をあげたことでしょう。

ここで休憩です。先ほどの「MISHIMA」の音楽の後、若いベートーヴェンの音楽がどういうふうに聞こえるか、興味津津です。たぶん、すごく魅力的にきこえるだろうなあ、というのが予想。いや、評価する・しない ではなく、そういうタイプの音楽表現、ということです。

そのベートーヴェン、弦楽四重奏曲第5番、イ長調Op.18-5です。
第1楽章:アレグロ。第1ヴァイオリンが活気を持って登場します。ここは、いかにも若々しさが感じられます。ハイポジションの音程が難しい今日のハイドンと比べて、第1ヴァイオリンの難しさは同等と感じますが、他のパートは格段にベートーヴェンの方が充実しています。とくに、私にとってはチェロの役割の増大がうれしいところ。楽器としての進歩や、奏法の進歩もあったのかもしれません。四人が一緒に奏するときのリズム、息の合い方は、さすがに三回目の定期演奏会ならではと思います。
第2楽章:メヌエット。2本のヴァイオリンから。ヴィオラが加わり、チェロがそっと寄り添います。ハイドンよりも無理のない音域でヴァイオリンが歌いますので、安心感があります。ベートーヴェンは、アンサンブルの点でぐっと密度が増した感じです。
第3楽章:アンダンテ・カンタービレ。主題は甘くロマンティックなものではなくて、むしろのどかで開放的な感じのものです。これが変奏されていきますが、チェロの伸びやかな音が好ましい。ヴァイオリンがゆらゆらと、あるいはのびのびと奏でられ、ヴィオラが響きを補強します。ちょいとベーさんとは思えないところがあるアンダンテ・カンタービレ。多彩な変奏の展開と見事なコーダです。
第4楽章:アレグロ。速めのテンポで、四人がほとんど同等の重要性を担う、緊密な響きとアンサンブルの世界です。たぶん、ハイドンのようにアマチュア演奏家(貴族たち)が加わることも想定して易しめに書くのではなく、四人の演奏家の技量を前提に作曲できる点で、ベーさんは恵まれていたと言うべきでしょう。明朗な音楽の世界です。

うーん、やっぱり若いベートーヴェンの音楽はいいなぁ!Op.18の6曲は、第1番を筆頭に、どれも魅力的で見事な作品ばかりです。

アンコールは、そのベートーヴェンの第13番から、ゆっくりしたテンポで演奏されるカヴァティーナです。緊密で内省的で充実した響き。中年~初老の孤独な男の心情を思います。



次回の第43回定期演奏会は、4月28日(土)、18時45分開演予定とのこと。プログラムは、シューベルトの弦楽四重奏曲第13番イ短調「ロザムンデ」、壺井一歩「弦楽四重奏曲第2番」、ハイドンはお休みして、林光さんの弦楽四重奏曲「レジェンデレゲンデ」という予定だそうです。早々と前売券を購入してしまいましたが、予定が入らないことを祈りたいと思います(^o^;)>poripori
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