電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ブラームス「ピアノ協奏曲第2番」を聴く

2012年01月08日 06時01分52秒 | -協奏曲
若いころは、2曲あるブラームスのピアノ協奏曲のうち、第1番を好んで聴いた(*1)ものでした。これは、全体に流れる青年期の詩情のようなものが好ましく感じられたことと、第2番のほうは、力作であることは認めるけれど、ちょいとうっとおしかった(^o^;)>poripori
ところが、中年を過ぎて、ブラームスのピアノ協奏曲第2番Op.83の良さがしみじみと感じられます。成熟期、全盛期の作曲者の、力と技術と経験を注ぎ込んだ、代表的な傑作と言えましょう。

完成したのは1881年の5月で、初演はブダペストで、同年の11月9日、ブラームス本人の独奏だったとのことです。Wikipedia(*1)の解説によれば、「最も難しいピアノ曲の一つ」だそうですから、自身が初演したという史実からみて、ブラームスのピアノ演奏技術の高さを推測できるのだそうです。若い頃は、ヴァイオリニストのレメニーと組んで演奏旅行をしたり、クララ・シューマンが激賞したりしていますから、演奏家として十分にやっていける技量を持っていたのでしょうが、様々な理由で、彼は作曲のほうを選んだのでしょう。興味深いところです。

楽器編成は、独奏ピアノとオーケストラは Fl(2)、Ob(2)、Cl(2)、Fg(2)、Hrn(4)、Tp(2)、Timp、弦5部となっています。構成は、通常の協奏曲のスタイルである三楽章形式ではなくて、交響曲のように全四楽章からなります。
第1楽章:アレグロ・ノン・トロッポ、変ロ長調、4分の4拍子。ソナタ形式。深々としたホルンの響きによる第一主題が始まり、じきにピアノ独奏が分散和音でこれに答えます。木管と弦がこの動機を追いかけ、独奏ピアノのカデンツァがあります。そこからオーケストラの響きは力強く、かつ柔らかに変化していきます。ヴァイオリンによる第二主題以降も、音楽は大きなスケール感と繊細な感情とが共存し、しかも見事に統一されていると感じます。本当に立派な音楽です。
第2楽章:スケルツォ、アレグロ・アパッショナート。ニ短調、4分の3拍子。少し暗めの第一主題がピアノ独奏で始まる、パワフルな音楽です。中間部のピアノの歯切れの良い活躍も印象的で、ブラームスご本人は、「とっても小さなスケルツォつき」の「とっても小さな協奏曲」と手紙に書いたそうですが、これは明らかに冗談でしょう(^o^)/
第3楽章:アンダンテ、変ロ長調、4分の6拍子。ヴィオラと低弦を伴い、まるでチェロ協奏曲の緩徐楽章のように始まります。チェロの音が好きだからという理由だけでなく、当方お気に入りの音楽です。ピアノがゆったりと登場し、美しい旋律を奏で、管弦楽とともに展開されたのちに、夢のような美しい中間部!クラリネットとヴァイオリンとピアノとが奏でる音楽は、ほんとうに素敵です。そして始まりの主題が再現され、静かに曲が閉じられます。
第4楽章:アレグレット・グラツィオーソ、変ロ長調、4分の2拍子。ロンド形式。ドイツ風の重厚さだけでなく、イタリア風の明るさ、軽やかさのある見事なフィナーレです。イタリア旅行の影響が色濃く反映されている楽章かと思います。トランペットとティンパニはお休み。ジョージ・セル盤では、Cbのリズムがきわめて精確で、まるで一本のようで、驚いてしまいます。

当方、若いころは、翳りを帯びた暗めの曲調の音楽を好む傾向がありました。闇夜の中の灯火が美しく見えるように、暗さの向こうに明るい希望があると期待する辛抱強さも時間もたっぷりありましたが、ハイドンのような明るさの価値は、正直言って、よく理解できなかった。中年以降には、自分の残り時間が見えてきます。明るく快活でありたいというダンディズムは、人生の残り時間を意識したためであろうと推測します。
その意味で、この音楽の持つ力強い明るさ、リズム感、民謡風な素朴さ、舞踏的な運動感、独奏ピアノの技巧性、主題と変奏の緊密な構成感などに、強くひかれます。



これまで、もっぱら聴いてきたのは、ジョージ・セルとクリーヴランド管がバックをつとめたルドルフ・ゼルキン盤です。これは、アナログ録音時代の代表的名盤ですが、シンフォニックな堂々たる見事さに、思わず脱帽します。いっぽうギレリス盤のほうは二種類あり、私の持っているのは新星堂の RCA Essential Collection というシリーズ中のCDで、チャイコフスキーの第1番のピアノ協奏曲と組み合わせ(SRC-1012)。こちらは、たぶんライナーの意図だろうと思いますが、速いテンポで、胸のすくような快演です。1958年の録音ですので、音源はすでにパブリックドメインになっているのではないかと思います。もう一枚はLP(G,20MG-0399)で、オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィルハーモニー管との録音(1972年)です。こちらは相手がヨッフムですので、ぐっとテンポを遅くとり、堂々たる演奏になっています。ギレリスが再録音した意図は、例えばこのテンポの問題のように、かつて「鋼鉄の」と形容された自分の音楽への誤解に対する、積年の不満があったのかもしれません。

■ルドルフ・ゼルキン(Pf)、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管
I=17'05" II=8'35" III=12'37" IV=9'34" total=47'51"
■エミール・ギレリス(Pf)、フリッツ・ライナー指揮シカゴ響
I=15'52" II=8'02" III=11'55" IV=8'43" total=44'32"
■エミール・ギレリス(Pf)、オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・フィル
I=18'04" II=9'21" III=13'59" IV=9'42" total=51'06"

(*1):ゼルキンとセルのブラームス「ピアノ協奏曲第1番」を聴く~「電網郊外散歩道」2011年5月
(*2):ブラームス「ピアノ協奏曲第2番」~Wikipediaの解説
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