電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

高橋義夫『日本大変~三野村利左衛門伝』を読む

2010年01月22日 06時23分18秒 | 読書
『風吹峠』で印象的な女医の姿を描いた作家の作品(*1,*2,*3)を続けて読んでおりますが、こんどはビジネス書のダイヤモンド社から刊行された、高橋義夫著『日本大変~三野村利左衛門伝』を読みました。

荘内藩士から浪々の身となった父と共に放浪の生活を送った経歴を持つ紀伊之国屋利八は、養子に入った商家を身一つで立て直すために、金平糖売りの行商をしています。しかし、幕末の世情の中で、一夜にして分限者となり、その才覚が注目を集めます。出入りの小栗家の部屋住みの書生・剛太郎が勘定奉行として出世していくのにあわせて、三井家に雇われることになり、両替商として、外国貿易や為替などの商売に辣腕をふるい、やがて三野村利左衛門として明治維新後に実権を掌握します。

明治維新とはいうものの、実際は中身のない大雑把な議論だけがはばをきかせ、数字を伴う実質的な経済政策などなく、目を付けた他人の資産を無理矢理奪っていくようなやり方だったことがよくわかります。そりゃ、テロリストの集団が政治家として通用する時代ですから、当時の商人たちは度胸を据えてかからねばならなかったのでしょう。それだから、三野村利左衛門のような、雪の越後で寒さと空腹で死線を彷徨った記憶を持つ者の出番だったのかもしれません。

ビジネスを、人の面から描いてはおりますが、三井の店の商売のどんぶり勘定のプロセスを改革するところなどは、けっこうリアルなところもあります。このあたり、作者は相当に経済的な視点から研究したようです。

(*1):高橋義夫『風吹峠』を読む~「電網郊外散歩道」
(*2):高橋義夫『御隠居忍法』を読む~「電網郊外散歩道」
(*3):高橋義夫『かげろう飛脚~鬼悠市風信帖』を読む~「電網郊外散歩道」
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