電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

山響第202回定期演奏会~大作曲家の青春時代~を聴く(2)

2010年01月18日 20時59分55秒 | -オーケストラ
山形交響楽団第202回定期演奏会~大作曲家の青春時代~の後半は、第2回「山響作曲賞21」受賞作品、壺井一歩さん(*1)の「はるかな祭と海」から。まずは、飯森さんが作曲者をステージにて紹介し、選考経過などを話します。続いて、作曲者御本人が作品の中で特徴的なところを紹介し、それを山響が実際に音にします。たとえば、第1楽章のほら貝のような音や、第2楽章の汽笛のような響き、あるいは民謡風の二つの旋律などです。ほら貝のような音は、なるほど、合戦のような勢いがありますし、長く響く汽笛の音は、次第に音色が変わっていきます。

第1楽章は、「祭」を連想させるテンポの速い音楽です。A Festival Far Past and The Sea という英語の題名から想像するに、現代の祭ではなく遠い過去の祭なのでしょう。ほら貝だけでなく、ピッコロはひちりき風の鋭い音を発します。犬伏さんのヴァイオリン・ソロが民謡ふうの旋律を奏で、しだいに盛り上がるうちに、静寂が訪れます。
第2楽章、「海」のイメージだと作曲者自身が述べているように、静かな雰囲気の音楽です。汽笛が長く響くように音色が微妙に変わりゆくさまを、聴き取ることができました。また、鉄琴なのでしょうか、オルゴールみたいな澄んだ音がステージの向かって左側からも聞こえ、実に効果的です。岩手県の「さんさ踊り」の旋律を背景に、バスドラムが大砲か巨人の足音のように腹に響きます。鋼鉄のムチのような音も印象的ですし、チューブラー・ベルは弔鐘のように響きます。再び汽笛が鳴り響き、ヴァイオリンがキィーッと真珠の粒をまき散らすような音も実にきれいです。犬伏さんのヴァイオリンソロが再び出てきます。いろいろなイメージの音を、静かに楽しむことができます。できればもう一度聴いてみたい!と思わせる、素敵な音楽でした。

続いて、合唱団の登場です。山響アマデウス・コアのみなさんを中心に、合唱指導にあたっている佐々木正利先生や渡辺修身先生の教え子の、岩手大学と山形大学の学生さんが加わっています。男声が25人、女声が39人、総勢64名と数えました。合唱と管弦楽による、ブラームスの「運命の歌」です。
音楽の始まりは、オーケストラにより、幸福で平和な気分が示されます。やがてフリードリヒ・ヘルダーリンの詩による、至福の精霊と天上の者たちへの憧れが歌われます。前回のモーツァルトでも感じました(*2)が、合唱の発音が極めて明瞭、ハーモニーはふわっと実に気持ちの良いもので、実にレベルの高いものだと感じます。学生、社会人を問わず、いろいろな合唱を聴いていますが、合唱の盛んな山形で、さらにエポックメイキングな合唱団になっているようです。
そして、Doch uns gegeben に続く、苦悩する人間たちの嘆きと絶望の訴えは心を揺さぶります。ここでも、飯森さんは、ヴィオラやチェロを生々しく強調し、ブラームスの苦悩を表現するようです。しかし、やがて音楽はオーケストラだけとなり、再び心の平安をもたらすように平和な調べに変わっていきます。

ああ、いい音楽を聴きました。



終演後、ファンの集いにちょこっとだけ参加し、インタビューを聞きました。壺井さんは、全部で四日間、山形に宿泊されたそうで、雪国の寒さに辟易されたのでしょうか、それとも雪国もいいもんだと感じられたのでしょうか。できれば、もう一度山形においでいただいて、何らかの形で「はるかな祭と海」の再演を期待したいものです。



コルネリア・ヘルマンさんは、ずっとブラームスを弾きたいというのが念願だったそうで、チャンスをくれた飯森さんに感謝!だそうです。ブラームスとともにバッハを研究しているそうで、今はゴールドベルグ変奏曲を並行しているとか。今年はシューマンとショパンの記念年なので、このリクエストも多そうだ、ということでした。実は私もその一人で、トップの写真のように、コルネリア・ヘルマンさんのCD、シューマンの「幻想小曲集」とブラームスの「六つの小品」の録音を、購入してきてしまいました(^o^)/

(*1):Composer/Ippo TSUBOI 作曲家/壺井一歩 さんのWEBサイト
(*2):山響モーツァルト交響曲全曲演奏会で、初期交響曲と戴冠式ミサ曲を聴く~「電網郊外散歩道」
コメント (2)

山響第202回定期演奏会~大作曲家の青春時代~を聴く(1)

2010年01月18日 06時27分42秒 | -オーケストラ
新年初の演奏会は、山形交響楽団第202回定期演奏会の2日目、日曜午後の回を聴きました。今回のテーマは「大作曲家の青春時代」というもので、要するにブラームスの若い頃の作品を取り上げたものです。すなわち、ピアノ協奏曲第1番と「運命の歌」というプログラム。それだけではなく、新年にふさわしく「山響作曲賞21」を受賞した作品、壺井一歩(Ippo TSUBOI)さんの「はるかな祭りと海」を演奏します。楽しみです。

開演前のプレトークでは、飯森さんがブラームスの若い頃の話を説明します。ステージに高木和弘さんも呼ばれ、ブラームス談義。高木さん曰く、ドイツに行って初めてブラームスがしっくりと感じられるようになった、とのこと。それは、言葉(ドイツ語)を習得したことで、なぜここでヴィヴラートをかけるのか、歌詞(言葉)との関連で、理解できるようになったことがおおきいそうです。飯森さんは、ブラームスの協奏曲のソリストにコルネリア・ヘルマンさんを起用したことについて、クララ・シューマンがこの協奏曲を演奏して、価値を認めさせた歴史を踏まえた、と意図を話します。な~るほど!

さて、今回のオーケストラの配置は、対向配置ではありませんで、左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスと弦楽セクションが並びます。中央後ろに木管、その後方に金管、向かって右手奥にティンパニ、という配置です。コンサート・マスター席には犬伏亜里さんが座り、その横に高木和弘さんがいます。なるほど、今回は山響作曲賞入賞作品の発表もありますので、今後の演奏機会を考え、犬伏さんが仕切っているのでしょう。

ソリストのコルネリア・ヘルマンさんは、2007年5月の第181回定期演奏会で、グリーグのピアノ協奏曲で登場(*)しています。今回は、黒を基調とし、黄緑色や赤色などを配したドレスに、あれは何というのでしょうか、洗濯ばさみの親分のような(失礼!)黒い髪飾りを付けて登場。黒褐色の髪の色によく似合っています。
さて、1859年に初演されたブラームスのピアノ協奏曲第1番ニ短調Op.15、作曲者25歳頃の作品です。ブラームス、若いなあ。憧れと自信と野心はあるがためらいも気おくれも感じられる、シンフォニックであり、かつ叙情的な音楽。
第1楽章:マエストーソ。オーケストラが堂々と演奏を始めます。ピアニストはじっとオーケストラの音楽に耳を傾けます。やがてピアノが入ってくると、二管編成とはいえ分厚いオーケストラの響きに負けないような、力感あふれる演奏ですが、なにせこの楽章は、きわめてシンフォニックな音楽です。ともするとピアノでさえオーケストラに埋没しそうになりがちなところを、そこはさすがに指揮者がバランスをコントロールし、ピアノを引き立て、なんとも緊張感がありますね~。第2楽章、好きなんですよ~、この楽章。憧れと詩情があふれる静かな音楽は、なんとも幸せな時間です。言葉もありません。そして第3楽章、ロンド形式というのでしょうか、活発な音楽です。オーケストラとピアノのバランスが難しい面がありますが、飯森さんは、時おりヴィオラをやや強めてブラームスらしい音色を作ります。大曲を聴いた満足感に浸りました。
コルネリア・ヘルマンさんに大きな拍手がおくられ、何度もステージに呼び出されます。大役を果たし、ソリストもうれしそうです。満面の笑みです。老大家のブラームス演奏も味がありますが、それとはまた別に、ためらいや気後れも現在進行形の、若い演奏家による若いブラームスの音楽表現もあってよいだろうと思います。いい演奏でした。

演奏会は、ここで15分の休憩となります。当方の記事も、続きはまた夜に。

(*):山形交響楽団第181回定期演奏会を聴く~「電網郊外散歩道」
コメント (4)