電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

J.S.バッハ「音楽の捧げもの」を聞く

2006年02月16日 20時39分08秒 | -オーケストラ
ここしばらく、通勤の音楽にJ.S.バッハの「音楽の捧げもの」BWV.1079を聞いている。ジャン=フランソワ・パイヤール指揮パイヤール室内管弦楽団ソリストたちの演奏、デンオンの My Classic Gallery シリーズの1枚、GES-9203 というCDである。

この作品は、(1)三声のリチェルカーレで始まり、(2)王の主題による各種のカノンとして、逆行・同度・反行・反行の拡大・螺旋カノンの五つのカノンが続き、(3)トリオ・ソナタ、(4)上方五度のフーガ・カノニカ、(5)王の主題による無限カノン、(6)無限カノン、(7)二声のカノン、(8)四声のカノン、(9)六声のリチェルカーレ、で終わる。

新潮文庫のカラー版作曲家の生涯シリーズ、樋口隆一著『バッハ』によれば、本作品の作曲年代は1747年、バッハ62歳、亡くなる三年前のものであるという。この年、プロシアのフリードリヒ大王に招かれたバッハは、ポツダム宮殿にてフォルテピアノの即興演奏を所望され、見事にこれに応えたという。ところがバッハは、翌日再び宮殿に招かれ、同じ主題による六声のフーガの即興演奏を所望された。本書には「これにはさすがの彼もとまどい、自作の主題を用いることによって切り抜けた」と説明がある。バッハは、たぶんこのことが自分の名誉の問題だと考えたのかもしれない。どう考えても、不思議な緊張感を持ったこの曲が「音楽の喜びに満ちた平和で楽しい」ものには感じられない。ましてや、王の権威に恭しくへりくだる要素など微塵も感じられない。むしろ、フルートをよくし音楽的才能もあったと考えられるフリードリヒ大王に対して、自分の力はあれだけのものではありませんよ、と示したかったように思える。一つの主題が見事に展開され変奏される有様は、王の主題をもとに作曲され献呈された音楽という形を取りながら、きわめて抽象的ではあるものの、音楽の世界ではあなたの意のままではありませんよ、と言っているようにさえ感じられる。
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