電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

ディケンズ『大いなる遺産(下)』を読む

2006年02月05日 12時07分56秒 | -外国文学
ディケンズの『大いなる遺産』の下巻、眠る前に少しずつ読み、今日ようやく読み終えた。
見知らぬ人から思いがけない遺産が入ることになり、ロンドンでの生活を始めたピップの周囲にいる人々は、なんだかヘンな人ばかり。ポケット夫妻にしろ弁護士のジャガーズにしろ、成長のお手本としてはかなりヘンだ。友人となったポケット夫妻の息子ハーバートだけは友情で結ばれるが、借金はどんどん増えていく。
ミス・ハヴィシャムの奇怪な復讐心は不変で、それをじっと辛抱するエステラの冷酷な美しさは増すばかりだ。エステラはピップにだけは警告するなど、すこしだけ真情を見せているところもあるが、こともあろうにドラムルが彼女に熱を上げている。
やがて、遺産の贈り主が、実は幼い日に逃亡を助けた脱獄囚だったことや、ミス・ハヴィシャムがなんの力も持たない、単なる亡霊のような存在に過ぎないことも判明する。ミス・ハヴィシャムの前で、エステラに愛する心を表明しても、エステラはドラムルと結婚するつもりだと言う。
ピップとハーバートがかくまっているプロヴィスこと哀れな男マグヴィッチを密告した男・コンペイソンこそ、ミス・ハヴィシャムを裏切り人間不信に陥らせた詐欺漢アーサーだった。マグヴィッチが弁護を依頼した男がジャガーズ弁護士であり、彼のもとで家政婦をしている女はエステラの母親であり、エステラはマグヴィッチの最愛の娘だったことが判明する。コンペイソンがマグヴィッチを脅迫し、悪の手先に使ったこと、幼い日に見た二人の囚人の闘争は、それをうらむマグヴィッチとコンペイソンの姿だったのだ。
川から舟でプロヴィスを逃がそうとした矢先、謎の手紙でピップはおびきだされる。犯人は年上のオーリック、そしてその背後にはコンペイソンがいた。ハーバートらの助けでかろうじて難を逃れ、プロヴィスを逃亡させようとしたが、密告者コンペイソンを見つけたマグヴィッチはボートから川に転落、死の淵をさまようが、逃亡囚として投獄され、死刑を宣告される。ピップは連日獄中に通い、彼の最後にあたり最愛の娘が生きていること、自分は彼女を愛していることを知らせる。哀れな男マグヴィッチは、神に感謝して逝く。
マグヴィッチが逃亡先で懸命に働き、ピップに与えようと作り上げた財産は、犯罪者の財産として国家のものとなり、ピップには借財のみが残る。衰弱したピップのもとへビディと結婚しているジョーがやってきて看護にあたる。没落したピップに故郷は辛く当たるが、ハーバートは彼を事務員として迎え入れ、借財の返済にあてる。ミス・ハヴィシャムの屋敷跡でのエステラとの再会と別離には、年月の影が落ちている。

前半の辛い物語がウソのように、後半の急展開が見事。単なる脇役にすぎなかった人々が思いがけない役割を演じる、物語の醍醐味が感じられる。なるほど、ディケンズの傑作と呼ばれるだけのことはあり、思わずストーリーに引き込まれる。本作品は、ピップの成長の物語であると同時に、意に反して逃亡囚となった不幸な男の哀れな半生が陰画として同情を持って描かれ、もう一人の主人公となっているように思う。『大いなる遺産』と題した作者の意図が、なんとか理解できたような気がする。
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