北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

日本人の文字文化

2009-01-27 23:55:14 | Weblog
 2002年1月に共同通信は、「日本の識字率低いとNYタイムズ紙『60%の刊行物が漫画』という記事を載せたと報じたんだそう。当時の産経新聞はそれを受けてこんな記事を書きました。


 【ワシントン3日=共同】三日付の米紙ニューヨーク・タイムズは日本のアニメ文化を紹介する長文の記事で「日本では60%の刊行物が漫画だが、これは日本の識字率が低いためだ」と伝えた。

 東京発の記事は、宮崎駿監督のアニメ映画「千と千尋の神隠し」が大ヒットし、アニメや漫画は日本で世代を超えて親しまれていることなどを紹介。日本の識字率が低いのは「日本語の文字を学ぶのが難しいため」と説明している。

 米国務省の各国紹介資料によると、日本の識字率は99%で最高水準となっている。記事の筆者は 取材に対し「日本で漢字の多い長文の本を読む能力が落ちていることを言いたかった」と話している。【引用おわり】


 じゃあ、というので原典を探してみたところ、ありました!2002年1月3日付のNYタイムズ紙の記事がこれ。

http://query.nytimes.com/gst/fullpage.html?res=9B01E7DF1030F930A35752C0A9649C8B63&sec=&spon=&pagewanted=1

 お暇なら読んでいただいても良いのですが、記事の内容そのものは、日本のアニメ文化をうらやむということが中心で、日本の識字率を貶めることが主眼ではありません。話の展開上、日本は文字を学ぶのが難しいため(だとおもうんだけど)出版物の60%が漫画です…、ということになっているだけ。別にかみつくほどのものでもありません。

 実際、Wikipediaで国別の識字率を調べると、日本の識字率は99.8%(男性99.9%、女性99.7%)ということになっているらしくて、これは世界でも最も上位の国の一つ。

 国民のほとんどが文字を読めるということをしごく当たり前にしている基礎教育の充実に感謝せずにはいられません。

    ※    ※    ※    ※

 前振りが長くなってしまいましたが、奈良県立博物館長にして文学博士の中西進さんが日本文化に関する読みやすいエッセイを書いてまとめたのが「日本人の忘れ物」という本です。

 

 この本の第二巻に「みる」ということに関するエッセイがあって、この枕に冒頭のNYタイムズ紙の記事がネタで振られていたわけです。

 中西さんはこの「みる」のなかで、漫画は最近になって登場したものではなくて、広くビジュアルなものを思い出せば、源氏物語絵巻や江戸時代の小説にも挿絵はあったのだ、と書いています。

 そして、「そしてビジュアルな物は解りやすいから、圧倒的に人気があった。むしろ昔の人たちはこの方で作品に親しんできたといっていい。だいたい『源氏物語』のような長編小説をたくさんの人が読むわけがない。絵巻物があってこそ、大衆化したのである」と。

 中西さんは、仏像だってそのありがたさを姿形で表した物で、そのありがたさを口で伝えるより何倍ものわかりやすさをもっているではないか、とおっしゃいます。

 ところがいつしか、情報発信の主役を文字が占めるようになってしまい、逆に文字だけの書物が出現し、さらにはそれがたった一つの発信の姿になってしまった。

 憂国の士は漫画が増えて活字離れが起きると憂うところだけれど、文字ができるまでは画を見てきたんだし、むしろ文字だけの書物で情報が授受される方が不自然なのだ。

 中西さんは「とにかく一概にコミックを否定するのは、自然な人間の欲求を忘れた結果である。識字率が高いのはそれ自体悪くはないが、高すぎる識字率は文字変調の結果であることも、日本人は忘れてはいけない」と、このエッセイを締めくくります。

 これを日本の碩学がおっしゃるのだからなんと幅の広い感性をお持ちな事か。

 とにかく、文字偏重すぎるのも問題としつつ、文字のありがたみを存分に味わい、理解を深め楽しむために漫画さえ縦横に使う、というのが日本人の文字に対するアプローチであって、どれかに偏らないそのバランス感覚が必要なようです。

    ※    ※    ※    ※

 奇しくも今日は、文化審議会の国語分科会が日常使う常用漢字表に新しい文字を追加するという案をまとめたという記事がありました。

    ※    ※ 【以下引用】 ※    ※
http://www.47news.jp/CN/200901/CN2009012701000503.html

文化審、191字追加案を了承 新常用漢字表、来年答申へ 
 文化審議会国語分科会は27日、社会生活で使う目安となる常用漢字表に新たに「岡」「俺」など191字を追加し、「匁」「錘」など5字を削除する新常用漢字表(仮称)の試案を審議し、了承した。3月と秋ごろにそれぞれ意見公募をし、修正を検討して来年2月の答申を目指す。

 パソコンなど情報機器の急速な普及に伴う漢字の多用化を踏まえた見直しで、「鬱」といった難字や「籠」「麓」など筆画数が多い字も入れた。1981年告示の現行表1945字から約1割、186字増え2131字になる。

 現行表と同様、固有名詞にしか使われない漢字は原則除いたが、都道府県名の「茨」「埼」「阪」「岡」や近畿の「畿」、韓国の「韓」などは公共性が高いとして追加。

 「挨」「拶」は熟語としての使用頻度が調査で高かったため含めた。

 案は、漢字小委員会がまとめ、常用漢字の意義を「現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安」とこれまで通り定義。ただ、漢字を取り巻く環境の変化が激しくなったとし、今後は定期的な見直しが必要としている。

    ※    ※ 【引用おわり】 ※    ※

 どうやら日本人の識字率は下がるどころか、識字の対象となる文字の数を増やしていく必要に迫られているのです。

 そしてそれもパソコンの漢字変換のお陰で簡単に漢字が打ちこめるようになった現代文明のお陰だとのこと。

 現代社会は数多ある漢字を楽々駆使して、微妙なニュアンスを文字で表現し理解出来る能力をもった国民がどんどん増えているのが実態だと言うこと。

 これは外国メディアでは余程漢字文化に詳しくないと報道出来ますまい。

 やっぱり日本人は未来に生きている。 これも一つのクールJapan! 
コメント (2)
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