北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

「土地を売る」っちゅうこと

2009-01-09 22:09:07 | Weblog
 ある地方都市の大学の先生たちがわが組織を訪ねてきました。

 趣旨は、地方都市の区画整理事業で生み出された土地を処分するにあたって留意すべきことはどういうことか、についての意見交換をしたいというものです。

 私も誘われてその場に立ち会いましたが、『土地を売る』ということの意味とわかりづらいノウハウとその見えざる能力について考えさせられました。

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 そもそもわが国では高度成長期に、国全体の人口増加と都市部への集中を背景に、住む【土地】、仕事をする【土地】、商売をする【土地】が強く求められました。

 そのため都市部では希少価値となった土地の値段が上がり、地方都市では郊外に住宅地を開発し、従前は安い原野が一坪何万円もの価値を生み出しました。

 それはそのまま固定資産税として自治体の税収増に繋がったのです。この安い土地が高い土地になって資産価値が上がって税収増になり、しかもそこに住む人や商売をする人が増えれば住民税も増えるというサイクルが長く自治体の財政に大きな効果を与えてきたことは過去の成功体験として今でもなお心に強い成功イメージを残しています。
 ど真ん中にきた甘い直球は場外にホームランを打てました。

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 それがやがて日本も日本経済も、そして都市も老いが襲ってきました。

 個々人へのモータリゼーションの波と物流の劇的な改善、ネット時代など時代が変革をし、便利で価値あったはずの土地が多様化し分散をし始めました。かつては地価の高い土地で営業されそこへ移動して行かなければ得られなかったモノも、サービスも、愉快な楽しみも郊外の安い地価の場所で提供されたり自宅に居ながらにして享受出来る社会が到来しました。

 かつてホームランに出来たはずのど真ん中の直球はこなくなり、おかしな変化球ばかりが来るようになりました。かつての成功イメージは再現できなくなりました。


 【土地を欲しがる機能はなにか?】
 漠然と「土地が売れない」というときには、誰が土地を買ってくれるのかということを考えます。

 土地を必要とする機能は、突き詰めれば商業・業務・住宅の三つに分類されます。なんだかんだ言っても、モノの売り買いか、サービス業か、住むというニーズのどれかだに行き当たるのです。

 そしてそれぞれの機能は今どういうことになっているでしょうか。

①商業
 商業立地はGMS(ゼネラル・マーチャンダイジング・ストア)という郊外型大型ショッピングセンターが主流を占めてきましたが、最近ではNSC(ネイバフッド・ショッピング・センター=低層のショッピングセンター)という形態が増えてきました。

 しかしまちづくり三法の改正により、1万㎡を超えるようなこれら大型の商業立地は郊外に立てることが難しくなった反面、既成市街地内にも都市計画用途地域の問題や中心市街地商店街との調整など難しい課題も多く、しかも土地を買うということを考えません。商売が下降気味になればいつでもたためるように、定期借地によって長期に借りられれば良いという考えが主流になってきました。

 今日、単体で1ha以上を買ってくれる業種と言えばホームセンターか、家電量販店くらいしかなさそうです。

②業務系
 地方都市では事務所などの新しいオフィス需要はほとんどないでしょう。車を使わないと商売にならないような自動車販売やハウスメーカーなどの広域営業系くらいがわずかな光明です。
 住宅が近いと工場などは難しいですが、郊外ならば物流分野はあるかもしれません。

 医療・福祉系のサービスは病院の耐震改築や統合などが一つのチャンスといえそうですが、こういう社会のニーズには敏感でなくてはなりません。福祉は介護保険が自治体の大きな負担になっており、また老人福祉の施設増床も負担が大きくなるため認められにくい方向で、なかなか土地を買ってくれるというのは難しそうです。 

③住宅系
 一つのまちで一年間に売れるマンションの戸数は人口を考えれば自ずから分かります。そこに既にどれくらいの数のマンションが出来つつあるかを考えれば、あとどれくらい新しく建てても売れるかは明らか。むやみに建てれば売れ残るのは当たり前です。
 ケアつきマンションなど、新しい分野にどれくらいお年よりがお金を出す気になってくれるかは興味のあるところ。

 戸建住宅はいまなお堅調なニーズがあるものの、土地の卸し先のハウスメーカーはサブプライム以降余程条件が良くない限り、今は仕入れをやめて篭城状態。近くにスーパーなどの商業サービス機能があるかどうかも鶏と卵で、住人とサービスはどちらが先にできるかで先行きが変わります。

 一度住宅で住民が住み始めると周りにおかしな物が建つことに対しては拒否反応が出てきがちで、後から立地するものに制約がでることがあります。

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 そして土地の販売は、景気に大きく左右されますが、最近では土地そのものも、使えれば良いのであって敢えて買う必要はないというやり方も増えてきました。ホテルなどは、土地や建物は金融ファンドが所有して、ホテル業者はそれを賃料を払って借りて管理運営を行いビジネスをするという専門領域の分化が始まっています。

 不動産証券化の動きはそうした役割分担をかなり推し進め、外資系ファンドなどによる不動産投資で経済活性化につながってきましたが、昨今の金融恐慌では外資が逃げ出すことで逆に急速に縮み上がる要因にもなっています。

 さてさて、今後土地は誰が買ってくれるのでしょうか。

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 区画整理などで新しく生み出された土地は、黙って持っていれば負債がどんどんつみあがりますから、早くに売り抜けなくてはならない状況が発生します。

 とにかく売るだけでも大変なのに、実はその前段にはしばしば「こうしたい、こういうまちづくりをしたい」という計画や規制というハードルがあります。

 いくらなんでもパチンコ屋には売りたくない!宗教法人?うーん、悩むなあ・・・。なかなか思い通りには行かないものです。計画屋と販売屋がいつもケンカになるのはこのあたりの思惑の違いです。

 最後はどこまでモラルを掲げて頑張っていられるでしょうか。

 結局は人口増を背景としなくても、土地を使ってお金を払うに値すると思わせる新しいニーズを生み出せば良いのですが、これからの世の中の人たちは一体何にならお金を使っても良いと思ってくれるのでしょうか。

 しかし、そしてそんな中でもやはり同業他社との競争に打ち勝つために、新しい生活をするために住むところを探して新しい土地を求めている人たちはいるわけで、そういうニーズ情報に的確に、しかも出来るだけ早く到達しなくてはなりません。

 そこにまさに「蛇の道は蛇」の、目には見えない能力が求められるわけがここにあります。

 まちづくりも黙っていてうまくいく時代はとっくに終わりました。能力のある人がその能力を存分に発揮してゆかなくてはならないのです。

 そして誰がその能力を持っているかを見極めるのがまた難しい。

 それでも土地を売っているスタッフに訊きました。
「その難しさの中でどうやって売れる相手を探すのですか」
「うーん、やっぱり歩いてますからね」

 最後は現場を足で稼いでいる人間が一番信頼できそうです。 
コメント
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