ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

勢い盛り返す「強欲」に規制を

2011-03-01 07:20:26 | 時事
 連載中の拙稿「日本復活へのケインズ再考」第11~12回に、次のような趣旨のことを書いた。
 大恐慌後に出されたケインズの提言は、よく生かされなかった。人間の欲望を抑える英知より、強欲の方が勝った。その結果、私たちは今日、大恐慌以来の経済危機を体験している。現在、人類は重要物資の不足により、資源・水・食糧等の争奪を繰り広げることになることが確実な状態にある。人類の生存と発展のため、ケインズの英知を再発見し、道徳をもって経済学を基礎づけ直す必要がある、と。
 平成20年(2008)9月15日のリーマン・ショック以後、ある程度、強欲資本主義への反省が行われた。しかし、大恐慌の時に比べて、法制度的な規制は進んでいない。G20などの国際的な会議でも、具体的な方策が決まっていない。その間に投機勢力は再び活動を活発化した。多額の資金が原油や鉱物、食糧等の市場に注ぎ込まれ、物価が高騰している。
 リーマン・ショック後、一部のエコノミストは、リーマン・ショックは第1段階にすぎず、第2、第3の危機が続くだろうと予測した。ギリシャやアイルランド等の財政危機が、じわじわと破壊的なエネルギーを蓄積しつつある。チュニジア、エジプトからリビアに拡大した北アフリカの反独裁運動の要因にはインフレがあり、産油国の政情不安が原油の価格を引き上げることにより、さらにインフレが高進する。先物取引や金融派生商品等への規制や監視の強化が進んでいない以上、投機行動による影響は、さまざまな形で噴出するだろう。
 世界の指導者は英知を集め、政治の力で強欲資本主義を抑制し、市場経済を国際的に管理する新たな仕組みを作り上げてもらいたいものである。また、わが国の指導者は、デフレを脱却することに全力を挙げ、日本経済を立て直して、世界の調和ある発展に寄与できるように努めてもらいたい。

 以下、産経新聞「日曜経済講座」の田村秀男氏の記事を転載する。

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●産経新聞 平成23年2月27日

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110227/fnc11022709200001-n1.htm
【日曜経済講座】
強欲が「世界」を崩壊 デフレ日本はどうなる 消費税10%以上相当の富を喪失
2011.2.27 09:07

 ニューヨークの金融街を舞台にしたオリバー・ストーン監督の映画『ウォール・ストリート~カネは決して眠らない』で主人公、ゴードン・ゲッコーはインサイダー取引罪による服役8年を終え、娑婆(しゃば)に復帰する。市場での金融商品の氾濫(はんらん)ぶりにあきれ、「強欲が合法化されたのだ」と喝破した。が、現実のドラマは次へと進む。金融バブル崩壊から2年余りの今、「強欲」が世界を壊し始めたのだ。デフレ日本はどうなるだろうか。

迫るインフレの津波
 昨年から高騰を続けている原油、穀物など国際商品の高騰は実際のモノの需要・供給関係とはほとんど関係がない。カネがなせるわざである。本欄2月13日付で述べたように、金融機関救済のために米連邦準備制度理事会(FRB)が垂れ流すドルは金融機関の投機資金と化して穀物や原油市場になだれ込み、相場をつりあげる。食料高騰の波を世界で真っ先に受けた中東・北アフリカで民衆が蜂起したが、独裁者に封じ込められていたイスラム諸勢力がパンドラの箱から飛び出した。インフレの大津波が押し寄せる共産党独裁の中国も内部で動揺が広がっている。

攻勢強める投機勢力
 商品相場を支配するのはウォール街やロンドン・シティ、スイス・チューリヒなど国際金融センターに巣くう大手金融グループである。英国の金融グループ、バークレイ・キャピタルによれば、これら投資ファンドによる商品投資残高は2009年から急増しており、11年は前年比で900億ドル増え、4200億ドルに達する見通しだ。
 商品市場の規模は商品指数先物で2千億ドル程度、原油が千数百億ドル程度で、穀物、金属など商品すべてを合計しても、株式や債券市場規模の1%にも満たないのだから、投資ファンドの手でいとも簡単に相場が跳ね上がり、荒稼ぎできる。
 ゴールドマン・サックス、J・P・モルガン・チェース、シティバンク、クレディ・スイスなどは、先物、スワップなど商品相場の変動を一種の保険商品にした金融派生商品(デリバティブ)取引を手がける。米金融監督機関(OCC)の報告では、穀物相場が再び急騰し始めた10年第3四半期の商品関係のデリバティブの収益は連結ベースで13億1200万ドル(約1100億円)と前期の5億2800万ドル(約440億円)の2・5倍に上った。デリバティブの大半は不透明で、金融資本や投資ファンドの仲間同士の相対で取引される。米商品先物取引委員会(CFTC)など各国監視当局は規制強化を試みるが、金融資本の反対を受けて頓挫している。先のパリでの先進国・新興国20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議でも監視強化の結論は出なかった。投機勢力はますます攻勢を強めるだろう。
 日本でもすでにガソリンや小麦などが値上がりし始めている。そこで物価が下がり続けるデフレが一転してインフレになるとの警戒論が政府や日銀内部にあるが、事態はそれほど単純ではない。日本全体が貧しくなり、経済のパイが小さくなるのだ。



 グラフは日米独3カ国の輸入と輸出の単価の推移である。08年前半にも余剰マネーが商品価格を高騰させ、どの国も輸入コストが急上昇した。値上がり分の富が輸出国に流出するのだが、ならばコスト上昇分を輸出価格に上乗せすれば取り返せる。ドイツはしっかりと輸出単価を引き上げ、奪われた所得を取り返している。米国も輸入コスト上昇後の1年以内には輸出と輸入の単価変動幅をバランスさせている。

日本は輸出価格上げよ
 日本はその点、とられっぱなしである。輸入コストが米独よりはるかに大きく増えたにもかかわらず、輸出価格はわずかに引き上がったあと横ばいで、最近の原材料輸入価格上昇に際しても、輸出品値上げに踏み切っていない。輸出、輸入の総額と単価をもとに計算すると、08年、日本は二十数兆円、消費税に換算して約10%相当の富を失ったことになる。今回は、このまま価格高騰が続けば08年をはるかにしのぐ所得が失われよう。
 具体的に言えば、家電や自動車業界などは原材料コストが上がっても製品輸出価格を抑える。コスト上昇分は賃金や雇用のカット、下請けや中小・零細企業への発注単価の切り下げで対応する。この結果、家計の所得はさらに減り、消費が縮む。見かけ上、物価が上がり不況が深刻化する「スタグフレーション」に陥る。新卒者の就職がますます難しくなるだろう。
 経済に疎い菅内閣は家計を追い込む消費税増税で自民党を抱き込むしか頭にない。野党側も景気対策よりも政局優先だ。商品高騰は対岸の火事ではない。国会は緊急事態との危機感に目覚めよ。
(編集委員・田村秀男)
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