ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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キリスト教221~米国キリスト教徒の中での変化

2019-07-06 13:45:35 | 心と宗教
●米国キリスト教徒の中での変化

 先ほどのPRCの調査結果において、プロテスタントは、主流派(mainline)と福音派(evangelical)に分けられていた。西方キリスト教の歴史では、宗教改革の立場を採る立場を福音主義(evangelicalism)という。それがプロテスタントの本来の主流である。ところが、この調査結果では、主流派、福音派とも、米国独自の意味でつかわれている。ここで主流派というのは、米国のメソディスト、パプテスト、福音ルター派、USA長老派、監督派等の伝統的なプロテスタントをいう。これに対する反主流派が福音派であり、南部バプテスト、アッセンブリーズ・オブ・ガッド、チャーチズ・オブ・クライスト、ルター派ミズーリ教会会議、アメリカ長老派等の新しい教派をいう。福音派は、新興宗教的な教派といわれることがある。
 これら米国のプロテスタントの二つの集団の違いの一つは、進化論に関する意見である。主流派プロテスタントは進化論に肯定的な傾向があるが、福音派プロテスタントは進化論に否定的な傾向がある。福音派は進化論をめぐる論争で主流派と袂を分かち、都市部から郊外に出て、そこに住む富裕層を中心に勢力を拡大してきた。「公立校で進化論を教えるなら創造科学も合わせて教えるべきだ」と説くキリスト教団体が州の教育委員会を相手取り論争を起こした例が数件ある。
 本件に関わる世論調査として、PRCの2014年の調査は、人間の進化に関して、「自然の過程で進化してきた」「神の計画ないし意思によって進化してきた」「人間はずっと現在と同じ」という三択の質問をした。「自然の過程で進化してきた」「神の計画ないし意思によって進化してきた」という二つは進化論を肯定する意見、「人間はずっと現在と同じ」は進化論を否定する意見となる。
 この質問に対する回答は、「自然の過程で進化してきた」が、キリスト教徒全体で21%、主流派プロテスタントで28%、福音派プロテスタントで11%だった。カトリックは31%だった。次に「神の計画ないし意思によって進化してきた」は、全体29%、主流派31%、福音派25%、カトリック31%だった。次に「人間はずっと現在と同じ」は、全体42%、主流派30%、福音派57%、カトリック29%だった。合計して100%に足りないのは、わからないという回答である。
 これらの回答を主流派について見ると、「自然の過程で進化してきた」28%、「神の計画ないし意思によって進化してきた」31%、「人間はずっと現在と同じ」30%である。つまり、進化論に肯定的が59%、否定的が30%、残りはわからないとなる。これに対し、福音派では、「自然の過程で進化してきた」11%、「神の計画ないし意思によって進化してきた」25%、「人間はずっと現在と同じ」57%である。つまり、進化論に肯定的が36%、否定的が57%、残りはわからないとなる。この調査結果にも、米国の主流派は進化論に肯定的な傾向があるが、福音派は進化論に否定的な傾向があることがわかる。
 過去20年ほどの間に、米国社会でリベラリズムが衰退するとともに、プロテスタント主流派は社会的な指導力と活力を失い、保守主義的な目標を掲げて積極的な活動を展開する福音派に次第に圧倒されてきたと伝えられる。主流派は、信者が高齢化し、青年層の信者を獲得できなくなっていることに、衰退傾向が顕著に表れている。2008年の時点の調査で信者の28%が65歳以上で、31歳から44歳の信者は17%に止まった。この傾向はさらに進んでいる。一方、福音派は成長を続け、プロテスタントの半数を超え、信徒の数の上では主流派を上回り、こちらが主流になっている。2014年時点で、福音派は米国民全体の25.4%と4分の1を占め、人口で言えば、7千万~8千万人に上ると推計される。そのため、福音派プロテスタント諸教派の政治的・文化的な影響力は、目立って大きくなっている。それは、政党については、共和党への支持者が増加傾向にあることを意味する。
 本件に関わる与論調査として、PRCの2014年の調査は、政党と政治思想について質問した。主流派プロテスタントでは、政党は「共和党か共和党寄り」44%、「民主党か民主党寄り」40%、「どちら寄りでもない」16%だった。政治思想は、保守37%、中道(moderate)38%、リベラル20%だった。福音派プロテスタントでは、政党は「共和党か共和党寄り」56%、「民主党か民主党寄り」28%、「どちら寄りでもない」16%だった。政治思想は、保守55%、中道27%、リベラル13%だった。この回答から、主流派より福音派の方が保守的な傾向があることがわかる。なお、カトリックでは、政党は「共和党か共和党寄り」37%、「民主党か民主党寄り」44%、「どちら寄りでもない」19%で、・政治思想は、保守37%、中道36%、リベラル22%で、主流派プロテスタントよりやや民主党・リベラル寄りの傾向がある。ただし、キリスト教のどの教派に所属するかということと、どの政党を支持するかということには、一対一対応のような関係はない。ここに書いたように、一つの教派の中で、共和党・民主党、保守・中道・リベラルが分かれているからである。ここに書いたのは、大まかな傾向であるに過ぎない。
 なお、米国では、妊娠中絶、同性愛、同性結婚を認めるかどうかということが、大きな社会的問題となっている。これらに関する意見と支持政党・政治思想との間にはある程度の相関関係がある。中絶・同性愛・同性結婚の問題は、キリスト教の教義と大きな関係があるので、後の項目で主題的に述べる。

 次回に続く。

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