ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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キリスト教213~キリスト教徒の激増と中国共産党による弾圧

2019-06-17 10:45:08 | 心と宗教
●キリスト教徒の激増と中国共産党による弾圧

 中国では、1978年から鄧小平理論による改革開放政策が進められた。それによって国家資本主義的な発展を続ける中国社会は、マルクス=レーニン主義、毛沢東思想とは、大きく乖離した。また社会主義市場経済によって共産主義の原則を曲げているため、共産主義思想では、もはや国民を統合できなくなった。1993年に国家主席になった江沢民は、その思想に替わるものとして愛国主義を打ち出し、反日的な教育を徹底した。
 こうしたなかで、共産主義思想に替わって心の支えとなるものとして宗教が浮上した。特にキリスト教に帰依する者が、都市部を中心に急速に増加した。さらに農村部や辺境地にまで、キリスト教が爆発的に浸透し、教勢を増している。ピュー・リサーチ・センターによれば、中国のキリスト教人口は、共産中国建国時の1949年には100万人程度とみられていたが、2010年には5800万人にまで急増した。ブリタニカ国際年鑑の2017年発行版は、中国のキリスト教徒は、公認教会と非公認教会の信者の合計で、9100万~9750万人としている。これは人口の7~7.5%に相当する。海外に在住する中国人の人権活動家やジャーナリストなどによると、信者総数の実態は、人口の10%を超え、1億3000万人以上にのぼるという。これら複数のデータをもとに推計すれば、2010年から2017年までの7年間で、キリスト教徒は1.5倍から2倍以上へと増加したことになる。米ニュースサイトのハフポストによると、カトリックを含む中国のキリスト教徒は2030年までに2億4700万人となり、米国を抜いて世界最多になるとの試算があるという。
 信者急増の傾向に対し、共産党政権は、キリスト教への対応を強化している。特に政府が公認していない中国国内のローマ・カトリック教会の信者に対して、2010年11月より弾圧を強めた。これに対し、同年12月25日、ローマ教皇ベネディクト16世は、ヴァチカン市国サン・ピエトロ広場でのクリスマスの説教において、異例の声明を出した。「宗教と良心の自由に対する制限があっても心を失うことなく、キリストと教会への忠誠を保ち、希望の炎をともし続けるように」と信者に訴え、また「政治・宗教指導者に、信教の自由を尊重する考えがもたらされることを願う」と述べた。この教皇の声明に対して、中国国家宗教事務局は「極めて無礼で根拠がない」と反論した。また、中国天主教愛国会の劉柏年名誉議長もヴァチカンを非難した。
 中国では共産党員は宗教に入ることを禁止している。しかし、近年、共産党員でありながら宗教に入る者が増加している。しかも、キリスト教への入信は、幹部級の党員やその家族の間にも広がり、勢いを増しているため、共産党政権は統制を強化している。
 2012年に樹立された習近平政権は、宗教への弾圧を強めている。2016年(平成28年)10月に「改正宗教事務規定」を出して、「愛国心、平和、中国の夢、穏健、道徳、そして良いふるまい」を盛り込んで、宗教活動への新たな規制が開始された。この規定により、次の事項が禁止された。海外での宗教的訓練、会議、活動に参加するよう市民を組織すること、説教、宗教的活動を組織すること、宗教的施設の設立、学校内に宗教的な場所を設けること、インターネット上で宗教的なサービスを提供すること、不認可の宗教的場所で宗教活動を組織することーーである。
 こうした禁止事項は、宗教活動を厳しく規制するものである。「改正宗教事務規定」の施行以後、キリスト教の地下教会の集会のほか、イスラーム教徒のメッカへの巡礼などが監視されるようになっている。
 華東中部に位置し、東シナ海に面する浙江省では、2016年2月、政府当局がキリスト教会の屋根に取り付けられた十字架を強制撤去し、撤去に抗議する信徒を相次ぎ拘束するという事件が発生した。同省の温州市は、人口の15%をキリスト教徒が占め、「中国のエルサレム」と呼ばれている。同市では、2017年に入って、市内のキリスト教会から、ヴァチカンが任命した司教が失踪した。ローマ教皇庁は、この司教について「何者かに無理やり連れ去られて行方不明になっている」と深刻な懸念を示した。ヨーロッパのマスメディアは、「外国の影響力を嫌う中国政府がこの司教を拘束した」と報道している。習政権は、2017年に各地の教会に監視カメラの設置を要求した。これを拒否したため、破壊された教会が出ている。
 共産党の支配に幻滅したり、心の満たされない者がキリスト教に入る。聖書やイエスの教えを学ぶことによって、共産党に背を向け、批判的になる者が増える。その拡大を恐れる政府が厳しい締め付けを行う。この傾向が高じれば、やがて人々の不満が爆発することになるだろう。 以下は、キリスト教に関することではないが、中国共産党は、1950年(昭和25年)にチベット侵攻を開始し、ナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺以後最大のジェノサイド(民族大虐殺)が行ってきている。チベット人は仏教徒であり、唯物論的共産主義による宗教弾圧が行われている。また、新疆ウィグル自治区でも、弾圧・虐殺を行っている。ウィグル人はイスラーム教徒であり、ここでも宗教弾圧が行われている。
 非宗教的な気功団体である法輪功にも、激しい弾圧が行われている。法輪功は、1992年以降、爆発的に学習者が増えた。これを警戒した江沢民は、法輪功を「邪教」だと断じて弾圧を開始した。法輪功の学習者は、当時7000万人以上に上っていて、彼らが結託して、共産党の支持者を上回る集団となって政治的な関与を行うことを恐れたものとみられる。法輪功は、中国国内での活動が禁止されている。学習者は投獄され、虐待。拷問を受け、多数の死者が出ている。また生きたまま臓器移植用に臓器を取り出されたという事例の告発が絶えない。
 こうした弾圧がキリスト教徒にも向けられるようにならないとは限らない。中国のキリスト教徒は、チベットや新疆ウィグルや法輪功を他人事とせず、宗教・宗派を超えて、信教の自由を確保する取り組みをする必要があるだろう。

●共産主義から宗教へ

ここまで共産主義とキリスト教について書いてきた。20世紀の世界を席巻した共産主義は、西洋物質文明を極度に進めたものだったが、その共産主義が矛盾を暴露し、ソ連や東欧諸国では共産党政権が崩壊した。それによって、共産主義は世界的には大きく後退した。共産党の支配から脱した国々では、人々の多くは宗教に心の渇きの癒しを求めている。また、中国では、強固な共産党支配が持続する中で、宗教に心の支えを求める人々が激増している。そうした人々の多くの向かうところが、キリスト教となっている。
 しかし、物質科学文化が発達し、近代化・合理化の進んだ今日の社会において、キリスト教は、現代の人々が求めるものに応えることができるだろうか。欧米で人々のキリスト教離れが進んでいることは、キリスト教には、これに応える力のないことを示している。悩める人々は、とりあえず既存の宗教に拠り所を求めているにすぎないと言わざるを得ない。

 次回に続く。

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 細川一彦著『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

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