ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

イスラーム32~ISILがシャルリー、ケンジ、中尉らを殺害

2016-03-25 10:00:54 | イスラーム
●ISILが各国で連続テロ

 2014年(平成26年)8月以来、米国を中心とする有志連合によるISILへの空爆は、2015年初頭の時点で、2000回以上に及び、打ち込まれたミサイルは7000発以上に上った。ISILは拠点を攻撃され、戦闘員が数千名死亡し、戦闘員の士気が低下したり、残虐な行為に疑問を感じて離反する者が出たりしているとみられた。空爆で原油関連施設が破壊されていることにより、資金源である原油の輸出量が減少した。石油市場での原油の値下がりも、資金獲得にマイナスになった。追い込まれたISILは、外国人を人質にとって脅迫したり、有志連合の結束を乱そうと揺さぶりをかけたりする新たな行動を起こした。
 2015年(平成27年)1月から2月にかけてISIL及びそれに繋がりがある者によるテロ事件が世界を震撼させた。1月7日のフランス風刺週刊紙襲撃事件、1月20日の日本人人質斬首事件、その後明らかになったヨルダン軍中尉焼殺事件である。

●フランス風刺週刊紙襲撃事件

 2015年(平成27年)1月7日フランスの風刺週刊紙「シャルリー・エブド」のパリ市内の本社が銃撃され、同紙の編集者や風刺画家を含む12人が死亡、20人が負傷した。
 「シャルリー・エブド」は、たびたびイスラーム教の預言者ムハンマドの風刺画を掲載し、イスラーム教徒の反感をかっていた。事件当日発売された最新号は、イスラーム教の聖戦を風刺する漫画と記事を掲載していた。また襲撃を受ける直前には、ISILの指導者バグダーディーを風刺する漫画をツイッターに掲載していた。
 犯人らはフランス生まれのイスラーム教徒で、アルカーイダ系武装組織が事件に関与しているとともに、犯人らはISILへの忠誠を表明してもいた。
 フランスは、米国を中心とする有志連合の一員としてISILへの空爆に参加している国の一つである。それがイスラーム教過激派の襲撃を受ける理由の一つである。
 風刺週刊紙銃撃事件によって、宗教への批判を含む表現の自由を重んじる欧米諸国の価値観と、神や預言者のあらゆるものへの優先性を認めるイスラーム教の価値観の対立が、改めて鮮明になった。事件によって、テロの連鎖的な発生、報復に継ぐ報復、キリスト教とイスラーム教との文化的摩擦等の増大、EU諸国における移民政策の見直し等が起こった。

●日本人人質斬首事件

 続いて、2015年(平成27年)1月20日、ISILのグループが日本人2人の殺害を警告するビデオ声明を発表した。人質の身代金として、3日間の期限で日本国政府に2億ドルを要求した。わが国政府は、人質の解放を目指して努力したが、ISILは湯川遥菜氏、次いで後藤健二氏を斬首して殺害した。残念な結果となったが、日本国政府はテロに屈しない姿勢を貫いた。身代金の要求を拒否し、友好諸国の協力を得ながら人質解放のために可能な限りの努力をしたと評価できる。
 2月1日に公開した映像で、ISILは、日本国民へのテロ攻撃宣言を行った。この宣言は、極めて独善的かつ激しく狂信的なものだった。破壊衝動、殺戮願望に取り憑かれた異常な集団心理の表現と思われる。わが国は、仏教やヒンズー教の教えと全くかけ離れた思想でテロを正当化したオウム真理教の事件を経験している。宗教的な文言によって破壊・殺戮を説く指導者と、それに同調して集合し、サリンを撒くなどして無差別大量殺人を行う者たち。私はISILにオウム真理教と同じ異常心理を感じる。人間の心の中に潜む悪魔性が活動しているとも言える。

●ヨルダン軍中尉焼殺事件

 わが国は、先の日本人人質事件の際、ヨルダンに協力を求めたが、そのヨルダン軍のパイロット、カサスベ中尉が生きたまま火を付けられて殺害された映像が、2015年(平成27年)2月3日に公開された。
 ヨルダンは、米国を中心とするISILへの空爆に参加し、ISILの殲滅を図っている。その空爆に参加したカサスベ中尉は、ISILの人質にされていた。ISILは、中尉とテロリストの交換を求めていたが、中尉は既に約1か月前の1月3日に殺害されていたことが判明した。
 中尉の殺害は、欧米や日本等の異教徒ではなく、敬虔なムスリムを処刑するものだった。ISILの戦いは米欧の西洋文明に対する戦いとして、アラブ諸国をはじめ世界各国のイスラーム教徒の一部に共感を呼んできた。だが、カサスベ中尉の焼殺は、多くのイスラーム教徒の反感を買った。生きたまま焼殺するという方法は、アッラー以外に火あぶりの刑を認めないイスラーム法に反する。
 ヨルダン政府は、ISILへの報復を行うことを発表し、ヨルダン空軍は、2月5日から3日間集中的に空爆を行い、「復讐」を実行した。アブドゥッラー国王が自ら空爆に参加した。国王はヨルダン軍の特殊部隊のコマンダーの経験もあり、また攻撃ヘリのパイロットでもある。
 ヨルダンでは、「アラブの春」の影響でムスリム同胞団による反王制デモが起こり、その後もデモが頻発している。ISILへの断固たる処置は、国内の統治のためにも必要とみられた。
 ヨルダンは、イスラエル、パレスチナ暫定自治区、サウディアラビア、イラク、シリアと隣接しており、中東の心臓部ともいえる地政学的位置にある。中東の国ではあるが、石油は少量しか産出していない。経済は、リン鉱石やカリ鉱石の輸出、海外からの送金等に多くを負っており、米国・日本・EU等の財政支援なしには、国力を維持できない。最大の援助国である米国の意向を無視することはできない。空爆への参加には、そうした事情もあるだろう。
 ヨルダンは、ハーシム家の王制国家だが、人口の7割近くを王家と関係のないパレスチナ人が占めている。さらに、この人口約630万人の小国に、近年イラクから約40万人、シリアから約70万人、合わせて100万人を超える難民が流入している。政権は民主化を求めるパレスチナ人の宥和を図りながら、統治の安定を目指している。それに失敗すれば、王制が揺らぐ可能性がある。
 ISILは内政不安定な国を狙って戦略的にテロを行っている。ヨルダンは、そのような国の一つあり、テロの標的にされかねない。もしISILの攻撃で穏健親米国のヨルダンが崩れれば、ISILは、次にヨルダンの西側に位置し、長い国境で接するイスラエルに攻撃を仕掛けるおそれがある。

 次回に続く。