ほそかわ・かずひこの BLOG

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人権279~婚外子の相続均等化で、日本の家族を揺るがす民法改正

2016-03-09 08:49:25 | 人権
●婚外子の相続均等化で、日本の家族を揺るがす民法改正

 家庭において個人主義を徹底しようとする動きは、他にもある。その中で重要なのが、摘出子・非嫡出子の相続の均等化である。既に民法の改正が行われた。
 平成25年(2013)年9月、最高裁は、結婚していない男女の子供、いわゆる「婚外子」が、結婚した男女の子供である「嫡出子」の半分しか相続できない、とする民法の規定について、違憲と判断した。判決は、嫡出子と婚外子の相続を、従来の2:1から1:1つまり均等にすることを命じるものである。判決は、理由として「婚姻や家族の形態が著しく多様化し、国民意識の多様化が大きく進んでいる」こと、「国連も本件規定を問題にして、懸念の表明や法改正の勧告などを繰り返してきた」ことを挙げた。
 違憲と判断されたのは、民法第九百条四項のただし書きである。

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第九百条(略)
四  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
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 違憲判決によって、国会は法律の改正を迫られた。その結果、にわかに民法の改正がされた。25年12月、第九百条四項のただし書きが削除され、嫡出子と非嫡出子(婚外子)の相続分が均等化された。明治民法以来の規定が、115年後に改正されたのである。
 民法改正案とともに、民主党等が出生届に嫡出子かどうかを記載するとした規定を削除する戸籍法改正案を提出した。公明党が賛成したが、自民党が反対して否決された。だが、戸籍法の改正を求める動きは今後も続くだろう。
 上記の民法改正は、本人の意思にかかわらず婚外子の立場にある人にとっては、権利が拡大され、相続を受ける権利が嫡出子と平等とされ、出生の事情にかかわらず、「法の下の平等」が得られたことになる。だが、その一方、嫡出子は相続分が減少し、権利を侵害される結果となった。嫡出子の親にとっても、財産を婚外子に多く与えなければならないので、嫡出子に多く相続する権利を侵害される結果となった。婚外子個人の権利が拡大したが、法律婚による家族の権利は縮小された。家族という集団の権利より、家族外の個人の権利が優先されたわけである。集団より個人、家族より個人を重視する個人主義の考え方が、民法上でより強くなった。
 違憲判決は、嫡出子と非嫡出子につき、「日本以外で差別を設けている国は欧米諸国にはなく、世界でも限られた状況だ」というが、非嫡出子の割合は、欧米主要国では、フランスが52.6%、アメリカが40.6%(2008年アメリカ商務省調査等)など、40~50%台であるのに対し、日本では2.1%である。歴史・文化の異なる欧米の立法例を根拠にした違憲判決は、妥当性を欠く。
 また違憲判決は「国民意識の多様化」を理由の一つに挙げるが、平成24年の内閣府による世論調査では、嫡出子・婚外子について「現在の制度を変えない方がよい」が35.8%、「相続できる金額を同じにすべきだ」が25.8%であり、国民の多くは均等相続を求めていない。
 判決は「昭和22年から現在に至るまで、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかだ。そして、認識の変化に伴い、父母が婚姻関係になかったという、子自らが選択や修正する余地のない事柄を理由に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきである、という考えが確立されてきている」とする。だが、そのような考え方は、国民の間で多数意見とはなっていない。最高裁が「確立されてきている」という考え方は、親子や夫婦、家族の関係よりも、個人の権利を優先する個人主義の考え方である。それを、嫡出子・婚外子の間の相続の問題において、当てはめたものである。だが、今日わが国では、個人主義の行き過ぎによる弊害が、家庭から社会、国家の全体に蔓延し、その対策こそが求められている。

●均等相続と子供の権利条約との関係

 均等相続を求めた最高裁の違憲判決は、わが国が締約している子どもの権利条約と関係がある。その点が重要なのだが、当時マスメディアの報道はそのことに触れなかった。また保守の政治家・有識者も触れていないようだった。わが国では国際法及び国際人権法についての関心が薄く、人権に関する国際条約が日本の社会にどのような影響をもたらすかについて、よく理解していない知識人が多い。そのため、国際人権法との関係でわが国が直面している問題が国民に広く認識されていない。
 子どもの権利条約は、国家報告制度を持つ。条約の実施監視機関である子供の権利委員会は、わが国の第1回報告を平成10年(1998)5月に審査し、同年6月に総括所見を採択した。この総括所見で、わが国は相続や出生届をはじめ婚外子に対する差別は条約違反なので是正されるべきとの勧告を受けた。また委員会は平成16年(2004)、日本の第2回報告審査の結果、総括所見を出し、婚外子に対する差別について、法律改正を勧告するとともに非嫡出子という用語を使用しないように要請した。また委員会は日本人父と外国人母の間に生まれた子どもが日本国籍を取得できないケースがあることに懸念を表明し、わが国は日本で出生した子どもが無国籍者にならないよう国籍法を改正するよう勧告を受けた。これに対し、わが国政府は、婚外子差別の一つと指摘された出生登録(戸籍の父母との続柄欄の記載方法、戸籍法第13条)については、同年11月の戸籍法施行規則の一部改正により、嫡出でない子についても嫡出である子と同様に「長男(長男)」等と記載するよう改めた。
 平成20年(2008)6月、わが国の最高裁は、準正(非嫡出子が嫡出子の身分を取得すること)による国籍取得について定めた国籍法第3条が、婚内子と婚外子を国籍付与の点で不合理に差別しており、遅くとも平成17年(2005)当時において憲法第14条1項に違反すると認定していた。こういう経緯がある。
 国際法において、条約の第一次的な解釈適用権限は、締約国が有する。ほかの国際人権条約と同じく子供の権利条約において、子どもの権利委員会を条約の有権的解釈機関と認めた条文は存在しない。形式的には委員会の解釈が締約国に対して何らかの拘束力を持つことはあり得ない。しかし、条約の締結国は、条約の要請に従い、また委員会の勧告を受けて、法律を制定・改正したり、行政実務を改善したりする必要がある。また、国内の裁判所は、条約の規定や委員会の勧告を考慮に入れて判決や決定を下すことになる。
 条約は政府が締約し、国会が承認して批准している。発効しているものは、遵守する義務がある。またわが国には憲法裁判所がなく、最高裁判所が終審裁判所として憲法判断を行う。最高裁が法律の規定を違憲と判断すれば、法律を改正せざるを得ない。
 わが国は、憲法、条約、法律には、「憲法>条約>法律」という優劣関係があるとしている。政府も最高裁も見解が一致している。条約の締約による弊害を除くには、優位にある憲法から改正する必要がある。裁判所は、現行憲法を基準にして、判決を下す。その憲法に欠陥があれば、欠陥を助長する判断を裁判所はしてしまう。特に国連の懸念表明や法改正の勧告が出されると、裁判所はそれをもとに判断をする。そこに大きな問題があると私は考える。

 次回に続く。