ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

尖閣~政府は都に上陸を許可せよ

2012-08-27 08:55:24 | 尖閣
 平成22年(2010)9月7日、尖閣沖で中国漁船衝突事件が起こった。わが国政府の対応は実に弱腰で、世界に恥をさらした。政府は事件後も、尖閣諸島防衛のため、周辺での船舶の安全航行・漁民の安全操業を確保できる対策、外国漁船の違法操業への警備強化、領海侵犯罪の制定、自衛隊の領域警備等の積極的な対策を実施していない。このままでは、尖閣の略取を図る中国の侵攻を防ぐことは難しい状況である。
 そうしたなか、本年、4月17日石原都知事が尖閣諸島を購入する計画を発表した。尖閣を守るための英断である。尖閣を守ることは、沖縄を、そして日本を守ることにつながる。知事の発表後、間もなく東京都庁に電話やメールで多数の賛成意見が寄せられ、現金書留等で寄付金が次々に送られた。都がこれに応えて、4月27日「東京都尖閣諸島寄附金」の口座を開くと、わずか6日間で寄付金が1億円を超えた。その後、現在まで国民から寄せられた寄付金は、約14億円、約10万件にも上っている。これまで尖閣の国有化に消極的だった民主党政権は、7月尖閣の国有化方針を発表した。だが、地権者は、以前から政府に売ると中国にわたる恐れがあるとして、政府には売らない意思を明らかにしている。地権者は石原都知事であれば信用できると判断し、都に売ることを決めている。国民の多くは、都の購入を支持している。
 石原都知事の尖閣購入計画に対し、中国では反発が起こっている。反発の現れの一つが、8月15日香港の中国人活動家による尖閣上陸である。沖縄県警等が現行犯逮捕すると、わが国の尖閣領有に反対するデモが中国各地で行われた。一方、わが国政府の対応を批判する地方議員ら10名が19日に魚釣島に上陸した。この行動は同日中国に伝わり、反日デモは上海等20都市以上に拡大した。暴徒化した者たちが日本車を破壊したり、日本料理店を襲撃したりした。デモはその後も拡大を見せている。
 東京都は現在、政府に対し、尖閣購入の調査のため、上陸許可を申請している。不動産の購入には、物件の現地調査が必要である。報道によると、都は早ければ8月29日の上陸を目指しており、2千トン級の民間船をチャーターし、財務、港湾、環境などの担当職員や不動産鑑定士ら約10人で調査する予定だという。政府は、これまで国会議員や石垣市長が上陸許可を申請しても、認めていない。都の許可申請について、野田首相は8月23日の衆院予算委員会で「平穏かつ安定的な維持管理」の必要性を強調し、明言を避けた。都の上陸を認めれば、中国の反発が強まるという懸念によるものだろう。だが、政府がそういう態度を取り続けることは、何の解決にもならない。むしろ、事態を悪化させるだけである。
 尖閣諸島はわが国固有の領土である。そのことを言葉だけでなく、行動で示すことが、中国への明確な意思表示となる。その意思表示として、政府はすみやかに都の上陸許可を認めるべきである。都が購入のための現地調査を行うことは、尖閣がわが国の領土であることを、国際社会にはっきり知らしめるものとなる。そうすることは、中国に対しては尖閣侵攻を抑止する効果がある。また同盟国の米国に対してはわが国が尖閣を守る意思があることを伝える効果がある。
 野田首相は、尖閣に関し「平穏かつ安定的な維持管理」の必要性を繰り返し強調している。この点について、東海大学教授・山田吉彦氏は、8月21日産経新聞「正論」に、次のように書いた。
 「野田佳彦民主党政権はこの7月に尖閣諸島を国有化する方針を表明し、野田首相は尖閣を『平穏かつ安定的に維持管理する』と述べた。しかし、そもそも『平穏』という言葉の解釈に誤りがある。この表現は、国際的な領土紛争の判例であるパルマス島事件仲裁判決でフーバー判事が『先占』する国の要件とした、『国家的機能の平穏かつ継続した発現』を意識したものだろう。平穏とは、複数の国家の主権主張行為により争われてはいない状態である。現在の尖閣周辺海域は、今回の件以外にも中国公船の領海侵犯が繰り返され、平穏とは言い難い。
 『国家的機能』としては、行政権、司法権、立法権の確立が挙げられる。このうち、司法権の確立には、的確に捜査したうえで裁判権を行使することが望まれる。今度のような処理(ほそかわ註 中国人活動家への対応)では、とても、司法権を行使したと胸を張って言えようはずがない。日本の従来の政策では、行政権もあいまいだ。政府は、地方行政権を持つ石垣市に対して、固定資産税調査のための上陸すら認めていないのである。これでは、日本の『先占』には国際的に疑問を持たれてしまう」と。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120821/plc12082103190005-n1.htm
 先占は他者より先に占有することであり、国際法上、国家が無主の土地を領有する意思で他国に先んじて占有することを先占取得という。わが国は、明治28年(18955)1月14日の閣議決定により、尖閣を沖縄県の所轄とした。大東亜戦争の敗戦後、米国施政下に置かれたが、沖縄返還協定により昭和47年(1972)、沖縄とともに日本に返還された。わが国の先占取得は明らかだが、山田氏の見解のように、わが国政府の現在の対応では、国際社会で疑問を持たれてしまう。取得した領土を維持する意思を行動で表さなければならない。国家主権は行政権、司法権、立法権の三権で構成され、各機関が分掌する。わが国は、尖閣において、これら行政権、司法権、立法権の確立が急務である。山田氏の見解では明確でないが、主権とは統治権であり、主権の発動を裏付けるものは力である。警察や国防に係る力の行使は、主に行政権に含まれる。
 私は、政府が都の上陸申請を許可することは、三権のうち行政権の確立をまず大きく進めるものとなり、非常によいチャンスだと思う。都は7月27日付の米紙「ウォールストリート・ジャーナル」に尖閣諸島購入への理解と支持を求める意見広告を掲載した。「東京からアメリカのみなさまへ」と題し、「成長著しい中国が東シナ海で、歴史的に日本の領土である尖閣諸島への圧力を強めている」「アジアの海域が不安定な状況になれば、アメリカにとっても経済的な面などに影響を及ぼす。この問題で中国と対峙するアジア諸国を支持しなければ、アメリカは太平洋の全てを失いかねない」と主張した。
 ここで首相と都知事が連携し、政府と都庁が協力するならば、知力と胆力で尖閣を守ることのできる道筋が開かれる。最も大事なことは、速やかに進めることである。
 以下は関連する報道記事。

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●産経新聞 平成24年7月28日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120728/plc12072800480000-n1.htm
都が米紙に意見広告 尖閣購入に理解呼びかけ「米国は太平洋の全てを失いかねない」
2012.7.28 00:46

 尖閣諸島(沖縄県石垣市)の購入を計画している東京都は、27日付の米紙「ウォールストリート・ジャーナル」に購入への理解と支持を求める意見広告を掲載した。石原慎太郎知事は先月末、訪問先のシンガポールで、ロンドン五輪前に広告を出す意向を示していた。
 広告は「東京からアメリカのみなさまへ」と題し、尖閣諸島の写真と地図を掲載。東日本大震災での支援に感謝を記した上で、「成長著しい中国が東シナ海で、歴史的に日本の領土である尖閣諸島への圧力を強めている」などと指摘した。購入計画に対して寄せられた意見の9割が賛成で、13億円以上の寄付が集まっていることも紹介した。
 同諸島沖での中国漁船衝突事件にも触れ、「アジアの海域が不安定な状況になれば、アメリカにとっても経済的な面などに影響を及ぼす。この問題で中国と対(たい)峙(じ)するアジア諸国を支持しなければ、アメリカは太平洋の全てを失いかねない」とした。

●産経新聞 平成24年8月21日

【正論】
東海大学教授・山田吉彦 尖閣「上陸」調査は待ったなしだ
2012.8.21 03:18

 日本政府は、尖閣諸島最大の魚釣島に不法上陸した香港の活動家らに対して、入管難民法違反の容疑で逮捕しながら、同法第65条に基づく刑事訴訟法の適用除外として強制送還する措置を取った。
 魚釣島灯台の破壊なども計画され、海保の巡視船に投石で抵抗する悪質な事案で、本来なら刑事処分の手続きを取ってしかるべきだったにもかかわらず、である。

≪弱腰対応の裏に甘い現状認識≫
 弱腰の対応というほかない。
 野田佳彦民主党政権はこの7月に尖閣諸島を国有化する方針を表明し、野田首相は尖閣を「平穏かつ安定的に維持管理する」と述べた。しかし、そもそも「平穏」という言葉の解釈に誤りがある。
 この表現は、国際的な領土紛争の判例であるパルマス島事件仲裁判決でフーバー判事が「先占」する国の要件とした、「国家的機能の平穏かつ継続した発現」を意識したものだろう。平穏とは、複数の国家の主権主張行為により争われてはいない状態である。現在の尖閣周辺海域は、今回の件以外にも中国公船の領海侵犯が繰り返され、平穏とは言い難い。
 「国家的機能」としては、行政権、司法権、立法権の確立が挙げられる。このうち、司法権の確立には、的確に捜査したうえで裁判権を行使することが望まれる。今度のような処理では、とても、司法権を行使したと胸を張って言えようはずがない。日本の従来の政策では、行政権もあいまいだ。政府は、地方行政権を持つ石垣市に対して、固定資産税調査のための上陸すら認めていないのである。これでは、日本の「先占」には国際的に疑問を持たれてしまう。
 今回の事態への対処の手ぬるさも一つには、こうした認識の甘さを映したものだといっていい。

≪トウ小平発言の呪縛今もなお?≫
 中国は尖閣諸島について、1992年制定の領海法で領土とし、2010年施行の海島保護法で国有地とし、最近では事実上の「核心的利益」(安全保障上、譲れない国益)とさえ位置づけている。10年夏からは、大漁船団が日本領海内で違法操業を繰り返すようになった。漁船団は、漁業監視船に統制されているとみられ、中国の海洋進出の先兵と化している。
 その漁業監視船、さらには海洋調査船による尖閣沖での領海侵犯も頻々として起きている。この7月に、領海を侵犯した3隻の漁業監視船に、海上保安庁の巡視船が退去を求めたところ、「妨害するな。直ちに中国領海から離れろ」と、逆に言い返されたという。
 中国の「尖閣盗り」の意図は明らかなのに、日本側はなお、「尖閣問題棚上げ」という、1978年のトウ小平発言の呪縛から解き放たれていないようにもみえる。
 尖閣諸島は、沖縄県石垣市の行政区域内にあるものの、個人所有の無人島だ。現在、海保の巡視船が通常は4隻ほどの態勢で周辺の領海警備に当たっているのみで、諸島の管理についても、無策といわれても仕方ない状況である。
 尖閣諸島というわが国固有の領土を防衛するには、そこを明確に管理し利用し警備する体制を築いて、絶対に付け入るすきを与えないことだ。実効支配がいかに重要かは、北方領土や竹島を見れば一目瞭然。相手の非道によるものであっても一度(ひとたび)手を離れた領土は、滅多に返ってこないのである。
 政府がなすべきは、現状よりもぐっと踏み込んだ対策である。

≪海上警備と社会空間の創設≫
 第一に、不審な船舶を尖閣に寄せ付けない海上警備体制の構築である。今回のように1隻の抗議船の領海侵犯も阻止できないようなありさまでは、仮に数百隻の漁船が点在する尖閣の島々や岩への上陸を目指し侵入してきた場合、対応不能に陥るのは間違いない。
 8月10日、衆院で海上保安庁法改正案が可決された。この法改正により、離島での海上保安庁の警察権の行使が可能になり、日本の領海に侵入し停留する不審船に対し退去を命令できるようになる。漁船をはじめ中国の船が領海内で不穏な動きを見せた際など、海保は速やかな対応を取れるのだ。
 次は、石垣市が行政権を持ち各島内を管轄する、社会システムを尖閣諸島に創設することである。実際に島に上陸して調査活動を行うことが、その第一歩となる。島の所有権の獲得を目指している東京都は、石垣市とともに、島に新しい社会空間をつくる方向だ。
 尖閣諸島をはじめとする国境の離島はいずれは国有化して管理すべきである、と筆者は考える。だが、今回の尖閣上陸への対応をみて、民主党政権による国境管理に不安を感じたのも確かである。
 中国の海洋進出はとみに加速し一刻の猶予もならない状況だ。尖閣諸島管理への着手を急がなければならない。地主との交渉が進んでいて世論の支援による購入資金集めが順調に推移する東京都との協力を、政府が強化していくことこそ、そのための近道となる。
 東京都は8月末の尖閣調査団派遣を計画している。政府が調査団の入島に許可を与えて、積極的に参画する必要性は、今回の上陸事件で一段と強まったといえる。(やまだ よしひこ)
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■追記

20120828
 この日記を書いた数時間後、政府は上陸申請を許可しないことを石原都知事に文書で通知した。都知事は「都は尖閣諸島の購入に向け、一般社会の商取引、経済活動の例にならって現地調査を求めたもので、立ち入りを認めないとの判断は到底理解できない」との談話を発表した。
 通知文書には、不許可の理由として「尖閣諸島の平穏かつ安定的な維持及び管理のため、上陸を認めない」と書いてあるが、都の上陸申請書に地権者の同意書がついておらず、政府は地権者が同意していないと判断したと報じられる。
 だが、中国を刺激したくないというのが、政府の本音だろう。地権者の同意書がないというのは、事務的な不備を理由に不許可にする常套手段ではないか。都は、地権者の同意を得て、同意書を添えて、再度上陸申請をしてほしい。