●アメリカ及びそれ以外のユダヤ教徒
ここでアメリカのユダヤ人社会の信仰ついて捕捉する。アメリカでは、ユダヤ教の正統派・超正統派が合わせて約1割、改革派が約3割、保守派が約3割いるといわれる。うち最も政治的・経済的に活躍しているのは、改革派である。ユダヤ教徒の信仰は、キリスト教徒に比べて、しっかり世代間の継承がされているように見える。しかし、アメリカのユダヤ教徒全体では、シナゴーグの礼拝に参加するユダヤ人は人口の約4分の1にとどまるという報告がある。このことは、ユダヤ人社会でも世俗化が進んでいること、またアメリカ社会への同化が進んでいることを意味する。
アメリカのユダヤ人社会で、超正統派は、正統派よりやや少ない。超正統派は、多産を神の御心にかなうことと考え、避妊を一切行わない。そのため、年間約5%の人口増加率という猛烈な勢いで、その数を増やしている。一方、改革派や保守派は、異宗教間結婚が多く、また出生率が低下しており、今後大幅にその数を減らしていくと見られる。
1990年に実施された全米ユダヤ人口調査によると、既婚ユダヤ人の52%が非ユダヤ人を配偶者としていた。非ユダヤ人の配偶者が結婚を機にユダヤ教徒に改宗するケースはせいぜい5%に満たない。その多くはユダヤ人男性と結婚したキリスト教徒の女性である。また、ユダヤ教徒同士ではない結婚によって生まれた子供のうち、ユダヤ教徒として育てられるケースは28%に過ぎない。約7割の子供は、伝統的なユダヤ教徒として育てられていない。この調査以後、この傾向は一層進んでいると見られる。こうした趨勢が続くと、将来、アメリカのユダヤ人口は激減するだろう。その懸念が、アメリカのユダヤ人にとってホロコーストに代わる最大の脅威になっているという。
●その他の地域のユダヤ人
世界の81.1%(2010年現在)のユダヤ人は、イスラエルとアメリカに居住する。アメリカ=イスラエル連合の動向は、これら2国以外の国家・地域にいるユダヤ人に強く影響を与える。今後もその構造は続くだろう。
世界のユダヤ人口の残り約19%のうち、居住者が多い国は、順にフランス、カナダ、イギリス、ロシアである。また、他の欧州諸国、インド、中国、東南アジア、南米など、世界各地にユダヤ人は居住している。そして、彼らはその集団の特徴であるネットワークを広げ、経済的・政治的・科学的・芸術的等に優れた能力を発揮して活躍している。
ユダヤ教の各宗派の傾向は、先に書いたイスラエルとアメリカにおける長期的な傾向と、それ以外の国家・地域における傾向は共通していると見られる。すなわち、正統派は人口を増やし、次世代に厳格な信仰を継承する一方、改革派や保守派の多くは結婚や世代交代を通じて脱ユダヤ教化していくと見られる。
イスラエルとアメリカ以外の国で、ユダヤ人の状況が最も注目されるのは、ロシアである。
ソ連解体後、1990年代のロシアで、エリツィン政権は、国家財政立て直しのため、国際通貨基金(IMF)の支援を受けた。国営企業の民営化を進めるために、バウチャー方式が採られた。これは一種の民営化証券のようなもので、一部の者がバウチャーを買い集めて企業を立ち上げた。そこから民間銀行家が育っていった。彼らは財政赤字に悩む政府に融資を申し出た。政府は天然資源の国営企業を融資の担保として取られた。こうして国営企業を手に入れた銀行家たちは、新興財閥「オルガリヒ」として、経済社会の様々な分野を支配するようになった。オルガリヒの多くは、ユダヤ人である。IMFの支援を受けるということは、欧米の巨大国制金融資本のロシア市場への大規模な参入を認めるということである。その動きの中で、欧米のユダヤ人資本家とロシアのユダヤ人資本家が連携してきたと見られる。
2000年にボリス・エリツィンの後を継いで大統領になったウラディミール・プーチンは、オルガリヒに政治的圧力を加えた。これは、プーチンの欧米・ロシアのユダヤ人コネクションへの反攻と見られる。
当時オルガリヒには7財閥あり、そのうち6つがユダヤ系だった。ユダヤ系オルガリヒの中で、石油大手シブネフチのボリス・ベゾレフスキーは、イギリスに亡命した後、自宅で自殺体として発見された。メディア王ウラディミール・グシンスキーは、横領詐欺等の容疑で逮捕・釈放された後、スペインに亡命した。他のオルガリヒも、プーチンの反攻を受けた。
最後までプーチンに抵抗した石油大手ユーコスのミハイル・ホドルスキーは、大統領選に出馬を表明した。ホドルスキーは、欧米のユダヤ系の指導者たちと親しい関係にある。ジェイコブ・ロスチャイルド卿と組んでロンドンに「オープン・ロシア財団」を設立し、キッシンジャーを理事に招聘した。プーチンはホドルスキーを逮捕・投獄し、ユーコスを解体した。
ロシア国家とユダヤ人資本家の国際ネットワークの攻防は、19世紀前半のアレクサンドル1世の時代から続いている。ユダヤ系の巨大国際金融資本にとって、ロシアの徹底的な市場開放と金融的従属化は、世界単一市場、世界統一政府の実現という目標に向けた重要な課題の一つだろう。それゆえ、今後の世界において、ユダヤ系の巨大国際資本とロシア政府との関係がどのように展開するかは、国際社会の変動の重要な要素となっていると見られる。プーチンと首領とするロシア政府のユダヤ系巨大国際金融資本への挑戦は、プーチンがユダヤ的価値観の問題点を理解し、それを超克しようとしているが故のものではない。ユダヤのエスニシズムに対するロシアのエスニシズムの反発とそれによる主導権争いである。この点で、ロシアに過度の期待を抱くことは危険である。
次回に続く。
ここでアメリカのユダヤ人社会の信仰ついて捕捉する。アメリカでは、ユダヤ教の正統派・超正統派が合わせて約1割、改革派が約3割、保守派が約3割いるといわれる。うち最も政治的・経済的に活躍しているのは、改革派である。ユダヤ教徒の信仰は、キリスト教徒に比べて、しっかり世代間の継承がされているように見える。しかし、アメリカのユダヤ教徒全体では、シナゴーグの礼拝に参加するユダヤ人は人口の約4分の1にとどまるという報告がある。このことは、ユダヤ人社会でも世俗化が進んでいること、またアメリカ社会への同化が進んでいることを意味する。
アメリカのユダヤ人社会で、超正統派は、正統派よりやや少ない。超正統派は、多産を神の御心にかなうことと考え、避妊を一切行わない。そのため、年間約5%の人口増加率という猛烈な勢いで、その数を増やしている。一方、改革派や保守派は、異宗教間結婚が多く、また出生率が低下しており、今後大幅にその数を減らしていくと見られる。
1990年に実施された全米ユダヤ人口調査によると、既婚ユダヤ人の52%が非ユダヤ人を配偶者としていた。非ユダヤ人の配偶者が結婚を機にユダヤ教徒に改宗するケースはせいぜい5%に満たない。その多くはユダヤ人男性と結婚したキリスト教徒の女性である。また、ユダヤ教徒同士ではない結婚によって生まれた子供のうち、ユダヤ教徒として育てられるケースは28%に過ぎない。約7割の子供は、伝統的なユダヤ教徒として育てられていない。この調査以後、この傾向は一層進んでいると見られる。こうした趨勢が続くと、将来、アメリカのユダヤ人口は激減するだろう。その懸念が、アメリカのユダヤ人にとってホロコーストに代わる最大の脅威になっているという。
●その他の地域のユダヤ人
世界の81.1%(2010年現在)のユダヤ人は、イスラエルとアメリカに居住する。アメリカ=イスラエル連合の動向は、これら2国以外の国家・地域にいるユダヤ人に強く影響を与える。今後もその構造は続くだろう。
世界のユダヤ人口の残り約19%のうち、居住者が多い国は、順にフランス、カナダ、イギリス、ロシアである。また、他の欧州諸国、インド、中国、東南アジア、南米など、世界各地にユダヤ人は居住している。そして、彼らはその集団の特徴であるネットワークを広げ、経済的・政治的・科学的・芸術的等に優れた能力を発揮して活躍している。
ユダヤ教の各宗派の傾向は、先に書いたイスラエルとアメリカにおける長期的な傾向と、それ以外の国家・地域における傾向は共通していると見られる。すなわち、正統派は人口を増やし、次世代に厳格な信仰を継承する一方、改革派や保守派の多くは結婚や世代交代を通じて脱ユダヤ教化していくと見られる。
イスラエルとアメリカ以外の国で、ユダヤ人の状況が最も注目されるのは、ロシアである。
ソ連解体後、1990年代のロシアで、エリツィン政権は、国家財政立て直しのため、国際通貨基金(IMF)の支援を受けた。国営企業の民営化を進めるために、バウチャー方式が採られた。これは一種の民営化証券のようなもので、一部の者がバウチャーを買い集めて企業を立ち上げた。そこから民間銀行家が育っていった。彼らは財政赤字に悩む政府に融資を申し出た。政府は天然資源の国営企業を融資の担保として取られた。こうして国営企業を手に入れた銀行家たちは、新興財閥「オルガリヒ」として、経済社会の様々な分野を支配するようになった。オルガリヒの多くは、ユダヤ人である。IMFの支援を受けるということは、欧米の巨大国制金融資本のロシア市場への大規模な参入を認めるということである。その動きの中で、欧米のユダヤ人資本家とロシアのユダヤ人資本家が連携してきたと見られる。
2000年にボリス・エリツィンの後を継いで大統領になったウラディミール・プーチンは、オルガリヒに政治的圧力を加えた。これは、プーチンの欧米・ロシアのユダヤ人コネクションへの反攻と見られる。
当時オルガリヒには7財閥あり、そのうち6つがユダヤ系だった。ユダヤ系オルガリヒの中で、石油大手シブネフチのボリス・ベゾレフスキーは、イギリスに亡命した後、自宅で自殺体として発見された。メディア王ウラディミール・グシンスキーは、横領詐欺等の容疑で逮捕・釈放された後、スペインに亡命した。他のオルガリヒも、プーチンの反攻を受けた。
最後までプーチンに抵抗した石油大手ユーコスのミハイル・ホドルスキーは、大統領選に出馬を表明した。ホドルスキーは、欧米のユダヤ系の指導者たちと親しい関係にある。ジェイコブ・ロスチャイルド卿と組んでロンドンに「オープン・ロシア財団」を設立し、キッシンジャーを理事に招聘した。プーチンはホドルスキーを逮捕・投獄し、ユーコスを解体した。
ロシア国家とユダヤ人資本家の国際ネットワークの攻防は、19世紀前半のアレクサンドル1世の時代から続いている。ユダヤ系の巨大国際金融資本にとって、ロシアの徹底的な市場開放と金融的従属化は、世界単一市場、世界統一政府の実現という目標に向けた重要な課題の一つだろう。それゆえ、今後の世界において、ユダヤ系の巨大国際資本とロシア政府との関係がどのように展開するかは、国際社会の変動の重要な要素となっていると見られる。プーチンと首領とするロシア政府のユダヤ系巨大国際金融資本への挑戦は、プーチンがユダヤ的価値観の問題点を理解し、それを超克しようとしているが故のものではない。ユダヤのエスニシズムに対するロシアのエスニシズムの反発とそれによる主導権争いである。この点で、ロシアに過度の期待を抱くことは危険である。
次回に続く。