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日本の財政赤字問題

2021年02月16日 | 大丈夫か日本財政

  株式相場がすごいことになってきましたね。株式投資をされている方へは、ご同慶の至りです。年末年始には各方面から今年の相場予想が出されていましたが、どなたも大外れ。それでも良い方への外れなので、不問に付されることでしょう。さて持続性はあるのか、私の見方は次の機会にお知らせします。

 

  今回はコロナ危機への対処による巨額の政府支出は大丈夫なのかの話の続きです。まずアメリカを中心とした前回のおさらいをしておきます。日米とも政府のコロナ対策による財政赤字が巨額になっていて、計画通り実施されるとアメリカの累積債務はGDPの128%になりますが、日本はその倍の258%にもなってしまうと指摘しました。コロナ対策は実行せざるを得ないので、私はそれを批判するつもりはありません。ただその結果、従来からの巨額の累積債務にさらに債務が積み上がってしまうという絶望的な数字をお示ししました。

  そうした債務の返済は経済の成長により税収が上がり返済原資を確保することになるので、「成長なくして返済なし」との指摘もしました。そしてこの10年間の経済成長がアメリカは34%、日本はたった5%しかなかった。アベノミクスとバズーカクロちゃんのやりたい放題の緩和にしてこの結果でした。日本の累積債務の絶対額は政府発表で1,125兆円です。日本人の総人口は少しずつ減り続けて現在1億2,300万人です。割り算すると一人当たり915万円にもなります。新しく生まれてきた赤ちゃんは、小さな肩にいきなり9百万円の借金を背負って生まれてくるので、本当にかわいそうですね。

 

  返済するための税収は基本的には経済の大きさと成長に依存します。例えば人々が消費をすれば消費税が国に入ります。ではいったい日本の将来の成長力がとの程度あるのかをアメリカと比較しながら見てみましょう。今後の成長率を予想するうえで大事なのはその国の経済が持つ潜在成長力です。

 

  潜在成長力とは労働力人口、生産性、資本の3要素がどう伸びるかに依存しています。アベノミクス3本の矢の一番重要な矢であったはずの成長戦略は、特に生産性向上がポイントでしたが不発に終わりました。潜在成長力の値は推計方法によって多少の幅があり、数字としてこれだという決定打はありません。そこで、よく引用されるOECDや日銀の推計を参考にします。今回のコロナ禍で不確定要素が増えたため推計のやり直しをする必要がありますが、従来から言われているおよその値をお知らせしますと、アメリカは1.7%~2.0%。日本は0%~0.5%です。

 

  日米の差は労働人口の伸び率がプラスであるアメリカとマイナスである日本の差がまずあり、その上生産性にも大きな格差があるため、今後日本がアメリカに接近あるいは逆転する可能性はほぼありません。水を掛けるようですが、例えば少子化対策をいくら実行したところで、うまくいったとして生産人口に寄与するのは20年~30年後。生産性の格差にしても、コロナ下で日本がデジタル化で世界に大きく後れを取っていることが白日の下に晒され、生産性上昇の必須条件の欠如が明らかになりました。

 

  特に保健所と病院などのコミュニケーションをファックスでやり取りしているという前時代的業務プロセスにはあきれましたね。保健所がパンクするわけです。今年9月にデジタル庁ができるとしても、政府・自治体のデジタル化の大きな遅れは2・3年で取り戻せるほど甘くはありません。役人のマインドの変化と技能向上だけでそれくらいかかります。とにかく今頃ハンコが必要か否かの議論をしているのですから(笑)。

 

  民間企業でのデジタル化は大企業では相当進んでいますが、中小企業ではまだまだです。一般消費者も実は大切な要素で、金融機関や飲食業、販売業でのデジタル化は消費者が追い付いてくるかに依存します。団塊の世代の我々の間でも、いまだにガラケイ依存率は2割近くありますし、そうした方々はパソコンも使用していない方が多いのです。

  というわけで、今後の経済成長率については日米を比較すると悲観的にならざるをえません。それを無理やり引き上げようとするのが政府日銀の強引な政策です。まず日銀の検証をしておきましょう。

 

  中央銀行が経済を引き上げるためにできることは第一に金利の引き下げです。これはすでにゼロ金利政策を導入しているので、これ以上はできません。マイナス金利という奇策もありますが、副作用が大きいため実行できないでいます。厳密には13年に黒田総裁の就任後、政策金利はゼロとされ、16年にはマイナス0.1%にはなっていますが、ほぼゼロ近辺です。

  この最重要な政策が限界に達していることは、次の景気後退局面では空手で立ち向かわなければならないことになるので、要注意です。

  それ以外に現在も必死に黒田氏が続けているのが量的緩和で、市中の日本国債や株式の購入によりカネをばらまく政策です。その額はすでに570兆円に達し、日本のGDP539兆円を超えています。それほど市中から債券や株式を吸い上げているのに、我々国民は日銀から一銭ももらっていません(笑)。ではいったいそのお金はどこに消えたのでしょう。

 

  日銀が買っている国債は、もともと発行済みで機関投資家保有が保有していた国債でしたが、それらはほぼ買い上げられてしまったため、今は政府が毎年巨額の財政赤字を埋めるために発行する赤字国債と、過去に発行された国債を償還するために発行される借換国債を買っているのです。もっとも国債の直接引き受けは法律で禁じられているため、いったんは市中銀行などが形の上で引き受け、それを買うという姑息な手段で違法ではないとしています。といっても金融関係者は誰もが実質違法行為であると認識していますし、国際的にも違法だというのが常識です。

 

  ではそもそも何故政府発行の国債を中央銀行が直接買うのがいけないかと申しますと、政府の支出に歯止めが利かなくなり、戦後のように大インフレを起こす可能性があるからです。世界を見回すと、国債発行など面倒なので、中央銀行が札を刷って政府に渡し、それを政府がそれを使うという簡単な方法が取られます。そこまでいくとジンバブエやベネズエラ、アルゼンチンなどひどいインフレに見舞われます。戦後の日本やドイツも同じような状況でした。

 

 現在の日本に戻ります。じゃ、金融機関は発行された国債を買うオカネはどうしているのか。それはありあまる我々の預金です。それを使って買いますが、買った国債を売って得たオカネをどうしているか。日銀にある自分の当座預金に置いてあるだけです。それを「ブタ積み」と言います。なので、日銀はオカネをバラまいたつもりでも、自分に跳ね返るだけで、我々には回ってきません。日銀の金庫はブタだらけです(笑)。ちなみに当座預金は現在なんと486兆円もあります。本来であれば銀行がその資金を企業に貸出し、企業は設備投資をして人を雇い市中におカネが回るはずなのですが、消費者による需要が高まらないため企業は投資を控え雇用も控えます。そのため資金需要につながりません。

 

  では何故消費需要が高まらないのか。それは消費者の自己防衛本能です。それについては次回に。

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