アメリカでずいぶんと際どい航空機事故が起きましたね。ボーイング777に搭載されているP&W、プラット・アンド・ホイットニー社製造のエンジンが破損して火災を起こしている動画は、実に衝撃的でした。
ボーイング社はこのところ多くの欠陥による事故を起こしています。一番ひどかったのは18年、19年に起きた新型機737MAX型機2機の墜落で、コンピュータプログラム上の欠陥でした。それ以前にも新型機787ドリームライナーの構造上の欠陥でデリバリーが遅れたり、同機のリチウムイオンバッテリーの発火事故があり、世界中の同型機の運航停止という非常事態になりました。今回の事故でも、もちろん同型機で同じエンジンを搭載している機材は運航停止になっています。
しかし私は今回の動画を見てとても大きな疑問を抱きました。それは何故エンジンが停止せず燃え続けたのかです。航空機の専門家ではない私ですが、航空会社社員であった者の常識として、エンジンには自動もしくはマニュアル消火機能が備わっていることを知っています。何故それが機能しなかったことがとても不思議なのです。いまのところそれに関する専門家の意見や報道もまだ見ていません。
そもそもエンジン火災はあり得るため、何重にも安全装置がついています。まず異常な高温を検知すると警報が鳴り、パイロットは燃料ポンプから燃料の供給を絞り、さらに火災が収まらなければ燃料供給を完全にストップします。さらにジェットエンジンに必要な圧縮空気の供給を止め、最後には消火剤の散布をします。しかしあのエンジン火災の動画や部品がボロボロ落下しているのを見ると、どの安全装置も働いていないように思えるのです。燃料が止まっても吸気が止まってもエンジンは停止し、消火剤で火が消える可能性は高いはずです。
今回の事故の原因はエンジンの吸気口にある扇風機の羽のようなブレードが破損し、それがエンジン内に入り込んでエンジンを破損させたようで、それ自体は時々起こる事故です。そんなこと時々起こるかって?起こります。それは今回言われているブレードの劣化だけではなく、バードストライクがあるからです。離着陸時に低空で飛ぶと、鳥を巻き込みブレードが壊れることは時々起こりますが、それらは上に述べた安全装置でエンジン停止をさせ、大事には至りません。
今回の事故は私が見るととてもラッキーな事故だと思われるフシがあります。それは壊れた部品が機体の後方に飛んでも、自分の機体を傷めることがなかった点です。たとえば家の庭先に落ちたカウリングとよばれる巨大なエンジンカバーがもし垂直尾翼や水平尾翼に当たって破損すると、機体を制御することができなくなり、飛行場に戻れなくなりますし、一気に失速し墜落の恐れもあるからです。カウリングは大きくてもジュラルミンでとても軽いため、スピードを出していると簡単に下には落下しません。後方に飛ぶはずです。その他の小さな部品もばらばらと飛んでいましたが、どれもが機体をいためてはいなかったようです。
そしてもう一つは、飛行機の翼に積まれている燃料がエンジン火災により引火しなかったことです。燃料パイプを伝って火がタンクに達すれば、大爆発が起こりますが、それがなかったのもとてもラッキーでした。
今回の事故がラッキーだとしても、エンジンの製造をしているプラット・アンド・ホイットニーと機体を製造したボーイングの責任はとても重く、今後業績が落ち込むのは避けられないでしょう。
旅客である我々は予約の際に機材はどこ製かまでは聞けても、その機材のエンジンはどこ製かまでは回答してもらえない可能性が高いと思います。それでなくともコロナ禍にあって、JALとANAが厳しい状況にある中、両社とも10数機の機材が使用できなくなっています。もっとも今は需要が枯渇している時期のため、フライトを間引くにはちょうどよい言い訳になるかもしれません。
世界の旅客機のほとんどはボーイングとエアバスのたった2社で作られ、エンジンの供給メーカーもP&W、GE、ロールスロイスの3社しかありません。選択肢が狭くなると、こうした機体の欠陥などが大きな障害になることが懸念されます。早く事故原因の究明が行われ、安全の確保に努めてほしいと思います。
以上、元航空会社社員のつぶやきでした。