コロナウィルスの大流行で混乱する中国国内ですが、さすがに異変が起こっています。昨年12月の段階で最初にウィルスの存在を指摘した李分亮医師を懲戒処分としました。その処分や初期の政府による隠ぺい工作を大っぴらに指弾したり、指導部の体質を非難するネット上の書き込みなどが拡がっているのです。共産党による一党独裁に輪をかける習近平という終身独裁者による言論統制が、一時的にせよ国民の非難の的になり、世界の知るところにまで達するのは大きな変化と言えます。はたしてそのうねりは今後中国を変えていくことにつながるのか、それを見通してみたいと思います。
一方、中国国内で一貫して言論統制を非難してきた元弁護士で市民ジャーナリストの一人、陳秋実氏が姿を消しました。彼は香港の反中デモが激しかった最中も、現場を取材し多くの情報をもたらしました。彼やその他のジャーナリストの行方不明や言論弾圧の様子を2月8日にブルームバーグが報じていますので、まずそれを見てみましょう
引用
中国人市民ジャーナリストの陳秋実氏と方斌氏は、新型コロナウイルス流行の震源地である武漢から現地がどれほどひどいありさまかを、スマートフォンで撮影した動画を使って世界に発信してきた。動画の多くはツイッターに投稿され、ユーチューブにも転載されている。
このうち1人が行方不明となっている。陳氏は20時間以上、連絡が取れない状態だ。(林の注;彼は病気ではないのに当局により隔離されていることが確認されている。)
病院で遺体を撮影し当局に短時間拘束されたことがある方氏も7日、音信が途絶えたが、同日夕刻になって動画を投稿した。方氏を連行するため防護服を着た人々がアパートに押し入ってきた衝撃的な映像を同氏が撮影した際には、同氏の解放を当局に求める多数のコメントが集まった。
これらの投稿が米企業のプラットフォームで広がっているのは、偶然ではない。中国当局はインターネット上の取り締まりを強化しており、5日には微博(ウェイボ)やテンセントの微信(ウィーチャット)、バイトダンス(字節跳動)の抖音(ドウイン)など、中国最大級のソーシャルメディア・プラットフォームは厳重に制限すると発表した。すでに当局は多数のソーシャルメディアアカウントを凍結し、新型ウイルス流行を早くから警告した医師の死去を巡り当局に向けられる怒りの声を抑え込もうと躍起だ。
こうした中で、ウィルス感染の拡大状況に関する情報を求める中国の市民はツイッターに向かっている。ツイッターは中国で公式には禁止されているが、多くの人は当局のブロックをかいくぐり仮想プライベートネットワーク(VPN)経由でアクセスしている。
ヒューマン・ライツ・ウオッチの中国担当上級研究員マヤ・ワン氏は「ウェイボやウィーチャットと比べ、ツイッター上の活動ははるかに活発だ」と指摘。ツイッターは情報収集や、多くの人々が自らのひどい経験を記録する最後のとりでとなりつつある。
微信・ウィーチャットでは今週から、ウイルス流行に関する問題をチャットしたグループの参加者がアカウントを凍結され、ウィーチャットに登録した連絡先や電子マネーにアクセスできなくなった。
引用終わり
こうした言論弾圧に対する反対運動は、共産党と習近平には最大の脅威ととらえられていますが、ツイッターへのアクセスまでが制限されると、真実はますます闇の中に葬り去られる危険があります。
では一体この先中国はどうなるのでしょう。共産党独裁は続くのか、徐々に崩壊していくのか。私の大胆な予想を申し上げます。「習近平の時代に体制崩壊はない」、というのが私の見立てです。理由を紐解いていきます。
まず大きな目で見てみましょう。世界を俯瞰する時、いわゆる民主主義勢力の代表選手がアメリカで、それを欧州や日本がサポートし、その他の地域の民主主義勢力が追随するというのが従来の構造でした。ところが最近はまず盟主であるアメリカがトランプの登場で一気にその動きに背を向けてしまいました。そして一時民主化の嵐が吹きまくったアラブも東欧諸国も、かつて東欧の盟主であったロシアも全員がそっぽを向いています。アメリカは香港問題でも一国二制度をしっかりとサポートする様子を見せていません。発展途上国でも民主化を推進していた国々が経済的に行き詰ると独裁者に席を譲るようなっています。
かつてBRICSとしてもてはやされたブラジル、ロシア、インドなどがいずれも独裁方向へ舵を切りつつあり、経済的発展が民主化を要求するという従来の図式が完全に崩れ、逆向きに作用するようになってしまいました。
では中国の国内事情はどうか。時間はさかのぼりますが、香港デモの問題でみなさんに紹介したNHKBSのドキュメンタリー番組「激動の世界を行く」では、その問題を取り上げたことがあります。その時の報道キャスターも香港の時と同じ鎌倉千秋キャスターでした。半年以上前になると思いますので、細かな記憶はないのですが、もっとも記憶に残っているのは、今の共産党独裁政権をどう思っているかについて、彼女が何人かにインタビューした答えです。それらは以下のようなものでした。
「もちろん独裁はいやだ。でも反抗はできない。やっても無駄だし、捕まるだけ損なのでしない」というあきらめの回答でした。
多くの若者がこう考えているのが中国の実態なのでしょう。天安門の直接の記憶がない若者でもその事実は知っているし、天安門事件の海外報道がテレビで映り始めるとすぐブラックアウトするので、民主化運動とはヤバイ問題だということはよくわかっています。そしてインターネット経由の情報もほぼ完全にコントロールされていて、天安門を暗号めいた言葉で伝えようという試みも、ことごとくキャッチされ削除されています。それが日常化していることがあきらめの原因です。きっと今回の新型ウィルス問題を最初に指摘した医師が死に、武漢の実態報道を試みたジャーナリストが行方不明になることなどを見ていれば、誰もが口をつぐむでしょう。
新型ウィルス問題も香港問題も習近平の強権でいずれ黙らされるに違いありません。
こうしたネットの検閲も一昔前は人海戦術で行われていました。だいぶ以前に私は記事で、「第五の権力 グーグルには見えている未来」という本の紹介をしました。その本の中で中国内部のネット情報のコントロールがどのように行われているかが書かれていました。私の記憶では検閲を数十万人が人海戦術で常時行っていて、少しでも反政府的情報があれば即座に削除していると書いてありました。しかし今はきっとAIによる検閲が行われていて、もっと簡単かつ即時、そして有効な形で削除が行われていることでしょう。すべての反対運動は天安門に集まる前に潰されます。
ウィグル族は100万人程度が拘束されていると言われていますが、漢民族であれば数千万人でも拘束し収容してしまうのが中国共産党です。
ですので、「習近平の時代に体制崩壊はない」のです。
では中国や香港の若者はどうしたらよいのか。今できる唯一の道は海外への逃避です。最近の中国は若者が海外留学することを認めているし、海外旅行もひどく制限的だった過去から比べかなり自由化されています。もちろん海外旅行者が帰ってこない場合、家族や一族郎党への嫌がらせ、仕返しはあるでしょう。
最近のニュースですが、香港では海外脱出のためのビザに申請に必要な「無犯罪証明書」の発行数が前年対比で2倍になっているそうです。かつて香港返還時に見られた香港脱出がふたたび起こっているのです。
さてここまでNHKBSのドキュメンタリー番組の情報を中心に、天安門事件の真相からはじまり、香港の区議会選挙、台湾の総統選挙などについて書いてきました。中国共産党の独裁のひどさは、漏れ伝わるより現地取材によるほうが、よほどひどい実態を映し出すものだと思いました。
残念ですが、中国国内の変化の兆しは摘み取られる運命にありそうです。
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