前回は日本の金融機関は政府日銀の金融政策により追い詰められ、システミックリスクの懸念があるところにまで至っていると申し上げました。巨大金融機関といえども新卒採用を大幅に減少させざるを得ないところにそれが現れていると説明しました。今回は地銀についてです。
前回の記事の中で倒産しかかったスルガ銀行を、異業種の家電量販店ノジマが救済することになったとお伝えしました。おととい11月11日のニュースでは、やはり地銀の福島銀行に対し、証券会社であったSBIホールディングスが救済に入ったことが伝わりました。そのニュースでは、福島銀行の総資金利ザヤがなんと0.09%しかないとのこと。総資金利ザヤとは製造業などで言えば売上総利益、つまり売上から原材料費だけを引いた残りで、そこから人件費、管理費や減価償却費を差し引くことになります。0.09%しかなければ、営業利益段階で当然赤字になります。日銀の異次元緩和に加えて地方経済の疲弊や今後のキャッシュレス化の進展などを考えれば、地銀に将来性はほとんどないとまで言える厳しい状況です。
SBIホールディングスは、もともとソフトバンクグループが野村証券にいた北尾吉孝氏をスカウトして作った投資会社で、名前のIはソフトバンクInvestmentのIでしたが、買収などで証券会社に衣替えし、ソフトバンクから独立。さらに金融関係のあらゆる業務を取り込み総合金融企業になっています。
創業者というべき北尾吉孝氏は、私が大変評価する日本で数少ない本物のバンカーです。バンカーという言葉、日本では銀行家と訳され、銀行業を専門とするニュアンスが強いのですが、欧米では銀行業に加え証券業や投資事業を含む広い意味合いを持つ言葉です。北尾氏は実は「論語を知る論語読み」で、幼いころから論語を読んでいたそうです。彼はとても多くの著書を著わしていますが、金融業に関するものよりも論語や哲学的なことを扱う本のほうが多く、それも学者並みの立派な見識を有しているため、啓発本としても評価に値します。
北尾氏の名前を知ったのは、私がソロモンで債券の引き受けをやっていた90年代の半ばで、まだ野村證券で経営企画室長をされていた時だと思います。彼は企業が社債を発行する際に銀行、それもいわゆるメインバンクが介入し、発行体から大きな手数料を得られる仕組みである「社債管理会社」の不要論を唱えました。管理会社である銀行は実質的にたいした役割を果たしていなかったにもかかわらず、それによりショバ代を得ていたからです。
企業が社債発行により資金を調達すれば、その分銀行からの借り入れを減らすことになります。そこにイチャモンを付けていわばショバ代を取る。その悪習を排除することを当時の大蔵省にかけあって認めさせ、発行体企業からは喝さいを浴びました。
それまで日本企業の社債は電電公社の電話債券や電力会社の電力債がほとんどでしたが、多くの一般企業が社債の発行市場から直接資金調達することに大きな道筋を付けたと言える出来事でした。株式発行につぐ直接金融のはじまりです。
銀行は名目上の社債管理料という収入を絶たれ、さぞかし北尾氏を恨んだことでしょう。今は社債発行にあたり、メインバンクといえども元利払いの手続き代理人に過ぎなくなりました。
北尾氏は野村でソフトバンクの株式公開を手伝った縁で孫正義氏に気に入られてソフトバンクに入社。CFOに就任し、多くの買収資金の調達を手助けしました。しかしボーダフォンの買収は過大な投資であるとして気に入らなかったようで、それをきっかけに、たもとを分かったと言われています。
本題に戻ります。そもそもSBIによる福島銀行への支援は、北尾氏の壮大なる計画に基づいています。壮大なる計画とは、低収益にあえぐ日本の地銀を一つ一つグループに取り込み、巨大連合を作るという構想です。実はスルガ銀行にも触手を伸ばしていましたが、不調に終わったようです。しかし島根銀行はすでにSBI傘下に入りました。こうした壮大な地銀救済構想は、いかにも官民再生ファンドが手掛けるにふさわしい再生事業のように思われますが、官民再生ファンドによる事業再生はことごとく失敗ばかりで、そのうち税金で尻拭いせざるを得なくなりそうなため、いまでは委縮する一方となっています。
私は地銀連合構想を見てすぐに、日本のゴルフ場を救済し再生したアコーディアやPGMの例を思い浮かべました。先日も触れましたが、赤字経営にあえいでいたゴルフ場を救済し、いまやそれぞれ130コースを傘下に持つ巨大グループを形成し、大成功しています。私が会員になっているゴルフ場も今般無事PGMによる再生を会員が承認し、来年にはPGM傘下で再生されることになりました。めでたしめでたし(笑)。
今後果たして地銀連合の大構想がうまくいくか、注目していきましょう。
しかーし、私はこの動きに実は一つの懸念を持っています。それは次回以降で。