ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

トランプはいつ辞めるか

2017年08月19日 | トランプのアメリカ

  二の丸であるバノンの辞任で、本丸にいるトランプと家族を囲むやぐらで崩れ落ちていないのは、一つもなくなりました。完全なる四面楚歌です。

  トランプ劇場の「そして誰もいなくなった」は、アガサ・クリスティーのシナリオどおり順調に進んでいるようです。いよいよ最後の一人がどう殺されるか、あるいは自殺するかのみとなりました。

 「もうすぐ辞めるよ、どんなに遅くても年内だ」と予想しているのがトニー・シュワルツです。と言っても、彼をご存知の方はあまりいらっしゃらないと思います。1987年にトランプは自画自賛の自叙伝「アート・オブ・ザ・ディール」を書いたのですが、そのゴースト・ライターがシュワルツです。とても面白い本で、私は同じ年にNYに赴任したのですが、ベストセラーになっていたこの本を手に入れ、隅々まで読みトランプという男に感心した覚えがあります。

  シュワルツはもともとニューヨーク・ポストの記者からスタートし、ジャーナリストを続けながら様々なビジネス書などを書いています。80年代に1年半にわたりトランプの取材を続け、幼少時代から不動産の帝王と言われるようになるまでを自叙伝の形にまとめました。トランプの真実を最もよく知る男です。

  その彼が選挙キャンペー中から一貫して言っていたのは、「この男を大統領にしてはいかん、絶対にだめだ。彼はウソツキの誇大妄想狂で、大統領の器などではない。」という言葉でした。トランプの本質を知り尽くしているが故の言葉でしょう。

  その彼が「トランプはもう近々に辞める、どんなに遅くとも今年いっぱいだ」という予想をツイッターとCNNのインタビューで表明しました。白人至上主義者の事件直後のことです。

  彼が予想する辞任のタイミングは、「ロシア疑惑の結果が出る前。辞めた上で勝利宣言をする」と言っています。ウォーターゲート事件で辞任したニクソンと同じようなタイミングで辞任する道をたどる、というシナリオです。ただしニクソンと違うのは敗北宣言をして辞めるのではなく、勝利宣言をして辞めるというのがトランプを知る男の予想です。何の勝利宣言なのか、そこまではインタビューでも言っていませんでした。

  彼は「トランプはすでに政権を実質的に失った」とも言っています。「政策を何も実行できないのに、混乱ばかり巻き起こし、大統領とは言えない」。トランプを支持していた経済界の有力者はことごとくトランプを見捨て、共和党内からも離反者が続出し、政権内部も秩序を取り戻すことができなかったからです。

 

  トランプは重要な側近であるはずの首席補佐官のプリーバスを先月首にし、その後任には海兵隊出身のジョン・ケリーを据えました。ケリーはホワイトハウス内の秩序を取り戻すために、「大統領とのコミュニケーションは家族であれ閣僚であれ、すべてオレ様経由しか許さん。外部とのコミュニケーションもすべてオレを通せ」と宣言。軍隊出身者らしく指揮命令系統をはっきりしたおかげで、最近は娘婿クシュナーや娘のイヴァンカもおとなしくなっています。

  私の見方は、この命令がトランプの最側近であるバノンには一番効果的だった。つまり大統領と直接話ができないなら、首席戦略官でいる意味はないと彼は思ったのでしょう。バノンは辞任を迫られ、わりとスムーズに受け入れたに違いありません。

  ケリーにより指揮命令系統をはっきりとさせたハズのホワイトハウスですが、実際には秩序は以前よりひどくなりました。その原因はもちろんツイッターで発信を続けるトランプ自身の言動です。

  この一週間、白人至上主義グループへの対処をめぐってホワイトハウスの説明は支離滅裂。混乱させているのは首席補佐官ケリーを経由しないで好き勝手な言動を繰り返すトランプです。こうなると軍人出身のケリー、いつまで首席補佐官にとどまることやら。

  しかし白人至上主義に対するトランプの言動に、もっとも驚きの反応を示したのは4軍の司令官たちです。アメリカは3軍に海兵隊を入れて4軍と言うのがならわしです。司令官はそれぞれが、反旗を翻したとも言える声明を出し、「チーフ・コマンダー」のトランプを批判するに至りました。軍人が上官を批判したら、終わりは近い。

  それともこの4軍の司令官たちをまとめて首にしますかトランプちゃん(笑)。

  脳科学者中野信子氏の予想を覚えていらっしゃいますか。文芸春秋に「トランプはサイコパスだ」という記事を寄稿した今を時めく脳科学者です。彼女はトランプの最後をやはり「辞任」と書いていました。トランプの目的は「勝利」、つまり大統領になることで、国をどうこうする政策など持っていないので、辞任は早いかも、という予想でした。

  今後トランプを巡る話題の中心は、なにをどうしたではなく、「いつやめるか」になるでしょう。

 

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする