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大丈夫か日本財政17年版 その14 日銀保有の国債はどうなる 10

2017年08月05日 | 大丈夫か日本財政

  5月から始めた今回のシリーズも、3か月間で13回を数えました。ではまとめに入ります。

  私が日本の財政破綻についてこれまで述べてきたことや、今回のシリーズで述べた主な点をおさらいします。

 1.前FRB議長のバーナンキは最近、「中央銀行が緩和的政策を採用することでデフレを克服できると考えていたが、間違いだった」、といって懺悔した。日米欧を比較すると、なかでも日銀がもっともアグレッシブな異次元緩和を進めたが、デフレは克服できず、マネーは世の中に回らず日銀の当座預金にブタ積みされただけだった

  2. 日銀当座預金には金利を付ける必要があり、現在は年に1,870億円支払っているが、本格的に金利が上昇し、もし付利を1%にすると3.5兆円支払う必要が生じ、日銀は苦境に陥る

 3. 国債はすでに市場で枯渇しはじめ、取引はほとんどなくなった。三井住友信託による計算では、日銀の国債買い上げの限界は17年後半から18年前半にもきてしまう。そのときに限界が来なくとも、全部を買い上げ終わるのは19年後半

  4.  日銀の資産はすでに500兆円を超えていて、日本のGDP全体に匹敵する。その過程で国債を高値づかみしており、償還価格を超える額はすでに9.7兆円に達し、それは確定した損失である

    以上のような事実関係を勘案すると、懸念される将来の状況は

①   異次元緩和政策の信頼性喪失

②   出口のない日銀政策の後始末問題がアベノミクス不信へも波及

③   安倍政権の政治的信頼性喪失とアベノミクス失敗の同時進行

④   国債先物市場で売りが優勢となり、悪い金利上昇が生じる

 そして、

 ⑤   日銀の信頼喪失と財政再建赤信号から日本からの資本逃避が起こり、円の暴落を招く可能性が大きくなる

 

   そんなことはありっこない、という論者の言い分も聞いてみましょう。

  「破綻しない派」の論理は、素朴な「国は破たんなどしない」とか、「借金は日銀が札を刷れば返せる」というナイーブなものから、「政府と日銀が連結すれば借金はなくなる」というわけのわからないものまで、いずれもマユツバものです。

 

  これまで私はこうしたおかしな論者に次の質問をしています。

 「だったらどこの国もそうすれば破たんはしなかったはずなのに、なぜ破たんは起こったのか」

  そしてさらに、

「破綻しないなら、税金の徴収なんかしなければいい」

  というものです。この簡単な問に答えられた「破綻しない派」は一人もいません。

   最後にとどめを刺しておきます。破たんしない派のいまひとつの欠点は、日本人の行動様式をみくびっているところにあります。それが、日銀のバランスシートがどうなろうと人々は関心などなく、資本逃避など起こらない、という前提に立てる理由です。そして「これまで破綻しなかったから」というナイーブな考え方を持つに至ります。バブル時代によく聞かれた「これはバブルなんかではない。日本は世界に先駆け次のステージに駆け登ったのだ」という根拠のない楽観論と同根です。

   ですが、日本人はそれほどバカではありませんし、パニックも得意です。

   世論の一気加勢の大変動は、これまで政権交代の時によく見られました。自民党から民主党政権への交代。その逆に、民主党の崩壊と安倍政権の成立。7月の都議会選挙での自民党の崩壊など、いとも簡単に起こるようになっています。

   政治だけでなく、庶民による金融・経済の混乱もまたいつ生じるかわかりません。第一次オイルショックのトイレットペーパー騒ぎ、平成の米騒動、90年代後半の金融危機で見られた証券・銀行の取り付け騒ぎなどです。いずれも全国民総動員のパニックでした。

   こうした日本人の起こすパニックの恐ろしさは、政治・経済・社会学者の予見能力をはるかに超えたものだと思います。自由な市場経済では、我々がありとあらゆる可能性を議論したとしても、とうていカバーできるものではありません。

   一方フェアーを期すため、私の見通し違いも述べておきます。

   私が従来主張していた財政破綻に進む原因の一つは、「家計の貯蓄が財政の垂れ流しを支えられなくなる時点が来る」というものでした。団塊の世代のリタイアにより家計の金融資産増加がストップする。稼ぎが少なくなるのに、それまでの生活維持するため預貯金を取り崩す。

   一方、国の借金の拡大は続くため両者は2015年前後にはクロスすると計算し、その前後2年が財政破綻の危険な時期だという予測を立てていました。しかし15年に2年をプラスした17年も無事に通過しそうです。見通し違いの原因も追及しておきます。

 1. 団塊の世代を含め、老後になっても預貯金を取り崩す人はほとんどいない

死ぬまでに使い切るぞと言って実行しているのは私を始めごく少数(笑)

 2.  財政リスクを感じる人もごく少数

「米国債を買え」と言っても、本気にする人は私の著書とブログの読者のみなさんだけかも(笑)

   こうした理由から家計の貯蓄が円預金にとどまったままであることが、私の読み誤りの原因です。大多数の日本人にとって財政の累積赤字など懸念材料ではないということです。

   

  こうして予測は見事にはずれました。団塊の世代がリタイアし始め稼ぎが少なくなっても、実際には家計の金融資産は1,700兆円を超えてなお増え続けています。以前もブログに書いていますが、日本人の恐ろしいほどの貯蓄志向の強さを示すエピソードです。双子の姉妹、金さん銀さんの笑い話です。

  お二人が100歳を迎えてもらった自治体からのおこずかいをどうしますかと聞かれ、「老後のために貯金します」と答えたアレです。ほとんどの人が棺桶に入れるために貯蓄をし続けているのです(笑)。

コメント (10)
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