チキンレースはトランプの勝ち!
先にハンドルを切って正面衝突を回避したのは金正恩でした。
本当に戦えば勝ち目がないことを、さすがの金正恩もわかっていますね。この動きに最も貢献したのはトランプを抑えに回っている国務長官のティラーソンと国防長官のマティスでした。彼らは対北朝鮮政策に関して、ウォールストリートに共同で寄稿文を寄せ、北朝鮮にトランプの言葉より穏やかな呼びかけをしています。それがかなり効いたに違いありません。
一方、トランプ劇場で上演中の「そして誰もいなくなった」の劇はどんどん進行しています。白人至上主義者の集会で起きた暴力事件へのトランプのコメントが大きな波紋を呼びました。ホワイトハウスは直後に釈明をしたのですが、その後のトランプの余計な釈明が、現在さらなる批判を巻き起こしています。
その結果、大統領への諮問機関として設けられた製造業委員会で企業トップなどのメンバーが辞任して去っていきました。メルク、インテル、アンダーアーマーという錚々たるトップ企業のCEOたちです。そして米国製造業連盟のスコット・ポール会長と、米国労働総同盟産別会議のリチャード・トラムカ会長も辞任。
それ以前にパリ協定離脱ではテスラのイーロン・マスクやディズニーのアイガーら、恐いもの知らずは辞任していました。そうでないCEOはトランプに逆らうと逆襲されるリスクを感じ、おとなしくしていましたが、今後はトランプのインナーサークルに残ること自体が企業を危機に落とし入れるという危機感を抱いたのでしょう。
「そして誰もいなくなった」劇は、議会内でも進行中です。私が以前から指摘しているように、来年選挙を迎える与党共和党の議員たちもトランプに危機感を感じているハズです。再選への心配からトランプ離反へと舵を切るに違いありません。アメリカの議員は下院議員全員が2年任期、上院は6年任期で3分の1ずつが2年ごとに選挙の洗礼を受けます。すでにトランプ支持からの離脱を密かに目指す議員たちが多くなっているにちがいありません。
ではシリーズの「まとめ、その2」です。
8月5日の「まとめ、その1」で説明したことを振り返りながら、さらに説明を加えて将来を予想します。
私が従来述べていた家計貯蓄による財政ファイナンスの限界説は、団塊の世代がリタイアしても貯蓄志向が一向に衰えないため、論拠を失いつつあります。しかし家計の主体である日本人は、いとも簡単にパニックを起こすので、今後も要注意だとお伝えしました。
一方、日銀の国債爆買いにより、市中金融機関が国債保有を通じて有していた財政リスクのほとんどが、日銀に転嫁されています。従来こうした日銀による国家財政ファイナンスは一国の経済・財政運営にとって踏み込んではいけない禁じ手でした。それがいつのまにか当たり前の世界になってしまっています。今は大多数のエコノミストも当たり前の政策として、いちいち非難する人はいません。まっとうなエコノミストは逆に肩身の狭い思いをしています。
何故そんなことになってしまったのか。
理由は08年に表面化したアメリカ発の金融危機です。日本ではリーマンショックと呼ばれますが、欧米ではその言葉は聞かれず、金融危機と呼ばれます。それが欧州にも波及し、欧米の巨大金融機関がことごとく危機に瀕しました。各国の政府と中央銀行は一体となって精一杯の危機対応を行いました。まずは金融機関に対し直接貸し出しで資金を供給し、預金者の取り付けを抑え込み、その後は各国ごとに国債購入を通じて市場に潤沢な資金を供給し続けました。
その時、日本はどうだったか。日本の金融機関で危機に瀕したところなど一行たりともありませんでした。みなさんも預金を降ろしには行かなかったはずです。日銀は欧米ほどの危機対応は必要なかったのです。
ところが08年からの金融危機が収まった後、日本では13年になってアベノミクスが本格導入され、遅まきながら大緩和策で欧米を追いかけました。その時までにアメリカのFRBも欧州の中央銀行であるECBも景気テコ入れのため巨額の国債買いをしていたので、中央銀行の大緩和策で景気にテコ入れをすることが当たり前になっていました。そのため金融危機のかけらもなかった日本でも、日銀が国債を爆買いすることが、当たり前ととらえられたのです。これが日本の間違いの始まりです。
アベノミクス導入時は景気も株価も低迷していたため、ほとんどのエコノミスト達は3本の矢による2年限定のデフレ克服政策を絶賛し、政官財による大政翼賛会が形成されました。いったんこうなってしまうと、たとえ2年という目標をミスしても誰も非難せず、さらなる戦線拡大を擁護し続けました。兵站を考えずに戦線を拡大した日本軍の誤りを、まさに踏襲しています。
私は後になれば必ずこうした反省が行われると思っています。
もう一度ここまでをまとめますと、
1.欧米における金融危機への中央銀行の対応が、国債の爆買いを正当化した
2.日本は危機ではなかったのに「デフレ克服」を目標に日銀が国債を爆買いしたが、それを表立って非難する有力者がいなかった
3. 市中に国債が枯渇しはじめても日銀は爆買いをやめず、事実上政府が発行する国債を直接買い付けするまでに至っている
日銀はいまでも一応、政府発行の国債を直接買い付けしていません。形の上ではいったん銀行が引き受け、それを日銀がプレミアムを付けて買い取るという形態ですが、実質的には直接引き受けをしています。
ではここに至っても、何故日銀は直接引き受けをしないのか。
銀行に儲けを多少なりとも残すということもありますが、本当のところは日銀も「財政ファイナンスは禁じ手」であると、罪悪感を感じているからです。そうでなければ直接引き受ければいいのですが、そうはしません。そうしないのは、日銀による財政ファイナンスは無限の借金地獄への道だと、日銀自体がわかっているからです。
つづく