ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

林の講演内容 2.

2015年04月16日 | 講演会内容15年4月15日開催

(2)日本人は何故大間違いをするのか : 資産バブルに続き国家債務バブル

     繰り返されるバブルとそのメカニズム

   バブルとはあとで考えれば単純きわまりない自己増殖である。株や土地・ゴルフ会員権バブルと国家債務バブルは同じメカニズムが働いている。

 <資産バブルのメカニズム>

  80年代後半の資産バブル時代、企業は特金・ファントラという手法で自社株式を買い価格を釣り上げ、高株価で株式を大量に発行し、それをまた株を発行した資金で買い上げるという自己増殖に励んだ。証券会社はそのエクイティ・ファイナンスに加担するメカニズムを提供し、株価は永遠に上げ続けられると誰もが錯覚。株価が天井を打って反転すると、売りが売りを呼ぶ暴落となり、証券会社は損失補填で財テクに励んだ企業もろとも大崩壊。

   銀行は土地担保でローンを出し、企業はその資金でまた土地を買い上げ、担保価値が上昇するとさらに銀行が貸し込み、企業は土地を買い続けるという自己増殖メカニズムが大バブルを形成。株式同様、不動産価格がピークから反転するとすべてが逆回転を始め、日本型金融システムは大崩壊した。

 

<財政バブルのメカニズム>

  日本財政はバブル崩壊以降、大きく膨れ上がった。累積債務の対GDP比率はバブル崩壊開始時点で60%だったものが、97年の金融危機後120%ほどになり、現在は230%となっている。戦時国債の大量発行で、終戦時の累積赤字の対GDP比率は現在とほぼ同レベルである。

   赤字国債発行を可能にしたのは国民の貯蓄である。貯蓄は銀行や政府管轄下にある郵貯、簡保、年金機構に貯まり国債を買い支えてきた。

  国民は知らぬ間に貯蓄を通じてそれに加担させられている。国が発行したものを国の息のかかった組織が買うのは自己増殖機能の典型で、資産バブル時代のエクイティ・ファイナンスのメカニズムと同じ。

   直近の2年はさらに日銀が加わることで、まさに政府・日銀一体となって自分が発行した国債を自分が買うという自己増殖機能がフル稼働している。中央銀行は財政ファイナンスをしてはならないという不文律は日銀自らが捨て去った。日銀の資金供給により世の中にオカネが回るはずが、供給した資金はほぼすべてが日銀口座にブタ積みされていて世の中には回っていない。

   バブル時代、渦中の人間は株も不動産も永遠に上がると信じ込んだ。

  「自分が買い続けるのだから株や不動産の暴落などあり得ない」

 同様に、

  「日銀が買い続けるのだから国債暴落などありえない」

   最近財務大臣ですら「破綻・破綻と言うけれど、言うたびに金利は低下しているじゃないか」と述べ、破綻懸念を笑い飛ばしている。日本はすでに国家債務がGDPの230%まで膨らみ、減る可能性はほぼ皆無。

   格付け会社ムーディーズは消費税先送り決定直後に日本国債の格付けをダウングレード。それを大量に抱える銀行の資産も毀損可能性ありとしてダウングレードした。銀行の国際監視機関であるバーゼル銀行監督委員会は銀行が自国の国債を大量に抱えるリスクに警鐘を鳴らし始めていて、いずれ歯止めをかけることになる。日銀総裁はオフレコ発言でそのリスクに言及した。

 <注目点>                

・日本財政が「破綻する派」は数字でモノを言う

・「破綻しない派」は数字を使わず感情論でモノを言う

   先の太平洋戦争もアメリカの実力と日本の実力を数字で把握し冷静に判断すれば開戦などありえなかった。

   また国内情勢のみを見て海外を見ないと間違いを犯す。江戸幕府の鎖国は国の破綻をもたらした。開国したことで成長が始まったが、ふたたび軍部の統制により鎖国状態となり破綻。原爆が落とされるまでそれに気付かない。そうした日本古来の気質は繰り返される。

   80年代後半のバブルも狭い日本で内弁慶になっていたことが破綻の原因。そして今日に至っても「日本だけは違う、財政の破綻などありえない」という根拠のない楽観論が蔓延する。

   以上が団塊の世代に属する林が「戦後70年、経済敗戦に向かう日本」に抱く経済史の認識とバブル生成の解説です。

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林の講演会の内容

2015年04月13日 | 講演会内容15年4月15日開催

  4月15日に私の講演会があります。およそ60名の方が参加され、1時間半の講演会とその後に1時間程度ブッフェスタイルで懇親会が催されます。今回は対象が私の著書のきっかけとなりましたクローズドなネット上のサークルである「サイバーサロン」のメンバーの方に限定されていますので、残念ながらこのブログの読者の方に参加をよびかけることができません。

  しかしせっかくですので講演の内容をみなさんにもおしらせすることにしました。内容はすでにこのブログで書いてあることのサマリーがメインのため、読者のみなさんには繰り返しになると思いますが、頭の整理にはなるとおもいますので、是非お読みいただければと思います。

 講演内容は以下の4つの項目に分けてあります。

(1) 戦後日本の経済史 : 昭和24年生まれ(林)の経済史認識 

(2) 日本人は何故大間違いをするのか : 資産バブルに続き国家債務バブル

(3)アベノミクス、3本の矢のゆくえ: 「もう一度バブルが欲しいですか」

(4)資産防衛はどうすべきか: 「防衛の必要性と手段」

 今回はこのうち最初の項目である(1)です。

 
(1)戦後日本の経済史認識 : 昭和24年生まれ(林)の経済史認識   

  最近評判になっているフランスの経済学教授トマ・ピケティは著書「21世紀の資本」で持てる者と持たざるものの格差が拡大する一方であることが資本主義の問題点だと説いた。しかし日本では資本家の存在は薄く、最大の格差問題は世代間格差だ。それを生みだしたのは政府によるバブル処理の間違いに起因する巨額の累積債務と、年金など社会保障制度そのものの欠陥に起因する社会保障債務にある。この二つのツケを後世代に残したため世代間に大きな格差を生んだ。以下順を追って説明していく。

 ・60-70年代の高度成長のあと85年からバブルが膨らみ、90年にそれが崩壊

バブル破綻を財政出動で処理するという誤りから財政赤字が積み上がり、さらに金融機関の破綻処理を先送りしたため90年代いっぱい不況を長引かせた

・バブル崩壊時点では政府債務はGDPの60%であったが、90年代終わりにはすでにGDPの120%に達した

・その後潜在成長率が低下しているにもかかわらず高い成長率を目指し財政によるテコ入れが続き、2014年度末に累積赤字はGDPの230%と90年代末の2倍に膨らんだ

・加えて年金や健康保険などの社会保障システムが逃げ切り世代と背負いこみ世代間の不公平を作りだした

・日本の年金、健康保険などの社会保障制度は人口がきれいなピラミッド型であることを前提に組み立てられている。つまり少ない高齢者を多くの若年人口が支えるシステムだが、実際には多くの高齢者を少ない若年層が支え恒常的に大赤字であり、それをすべて財政が補てんしている。そのため社会保障の将来債務は1,600兆円に達している

・世代間格差の規模を数字で推定すると、財政赤字の対GDP比率230%のうちの半分強、約600兆円と社会保障の将来債務の半分800兆円は若い世代にとっては言われのない負担を強いられる。団塊の世代が今ちょうどツケの返済を請け負う現役をリタイアし、ツケを増やす側の世代入りしてしまったため、債務の返済能力は著しく低下した

・600兆と800兆の言われのないツケを背負いこんだ世代の若者は、それに加えて非正規社員化低賃金からやる気を失うのは当然である

・巨額の累積赤字はいずれ財政を破綻に導き、社会保障システムも自壊する。

・現在の日銀による国債の爆買いは国家債務の自己増殖を助け、いずれはインフレとして我々国民に襲いかかる

 

<いま我々ができること>

 逃げ切り世代の70歳台の方へ;後の世代に貢献できるのはオカネを残すのではなく使うこと。インフレが本格化すれば、どうせ貯めたオカネの価値はなくなる。自分のため世のために使いましょう。元気で使えるのはあと何年ですか

 団塊の世代の友へ(65歳~67歳);年金も国のリスクを取る擬似国債だということを忘れずに。最後まで年金が順調にもらえることなど夢のまた夢。ツケの一端は担うべきだが、政府の失政に対して個人資産はリスク・ヘッジをすべし。最低限のヘッジは外貨、それも最も安全なドルにすべし

 団塊の世代以降の現役世代の方へ;言われのない1,400兆円の負担に対しては、

①  支払いを拒否し、反乱をおこすか海外に逃げる

②  資産が少なくても最低限安全なドルにしておく

③  資産がなければ借金をして、将来のインフレで実質帳消しを目論む

 過激な①の方法を取らない場合は、日本の財政リスクと円安リスクに対して②か③の方法でヘッジすべし。将来見込まれるインフレリスクに備えるには借金が有効な手段。35年物超長期住宅ローンがわずか1%台で調達できる今がチャンス。

つづく


 

 

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異次元緩和2周年記念とGenrechtさんの解説

2015年04月11日 | ニュース・コメント

  この2・3日、アレルギー性鼻炎がひどくてほとんど寝込み状態でした。スギとヒノキの両方に反応するため、連休明けくらいまで苦労しそうです。

  さて、クロちゃんの異次元緩和の花火が大々的に打ち上げられて丸2年が経過しました。クロちゃんはじめリフレ派の方々へ2周年記念のメッセージを差し上げたいと思います。

「2年で資金供給を2倍にして、2%のインフレを達成する」ハズでした。マネタリーベースは2年前に150兆円でしたが、それが今年の3月末で290兆円と見事達成し、ご同慶に堪えません。しかし誠に残念なそれら増加分の9割以上が御行の口座にブタ積みのままになっております。つまり世の中にオカネはまわっていません。そして物価は貴殿がどう言い訳しようと2%の上昇からは程遠いいままです。エネルギー価格がとおっしゃいますが、エネルギー価格の下落分を除いても、わずか0.5%程度の上昇にすぎません。リフレ派のご友人たちは早々に旗を降ろして降参していますが、貴殿だけは本土決戦に向けて強気の姿勢を崩していません。我々庶民は本土決戦など決して望まず、貴殿の降伏を祈るばかりです。以上

Genrechtさんへ
  楢橋さんへの詳細な解説コメント、ありがとうございました。私の気持ちになっていただいているとのこと、深く感謝いたします。個人の資産管理に関して、みなさんにとてもよい参考になると思い、追加の文とともに本文にて紹介させていただきます。特に基本行動の内容は詳細を極めています。すべて実行するのはちょっと大変な気もしますが、ご自分の考え方の中に取り入れられるものは是非取り入れて、今後の長期計画の見直しをしてみることをお薦めします。


引用
楢橋さんへ (Genrecht)2015-04-09 00:11:0630代、同志ですね!将来に不安を抱き、運よくこのブログに行き当たり、おめでとうございます(林さんの気持ちになってます(笑))。
一緒に、今後のことを考えていきましょう!


株の投資基準がてんでバラバラなように、為替や債券も、人によって投資基準は微妙に違うと思います。割高か割安かは、購買力平価からの乖離、歴史的節目その他、理論はいろいろあるかもしれませんが、「正解はひとつではない、あるいはわからない」のが実情でしょうか。
この林さんのブログを最低2周、最初はざっと、2周目以降は様々な本やインターネット上の情報を参照しつつフォローしていくことをお勧めします。これだけでも、かなりのブレインストーミングになるのではないでしょうか。
そして、ドルを持つことの意味をもう一度よくよく考えてみてください。


それは、このブログの読者にとっては、ほとんどの方にとって「日本の将来と日本円のリスクヘッジ目的」と思われ、「ストレスフリーに感じられること」だと思います。「利鞘を儲けたい」から投資するわけではない方が多いと思います。日本円に偏っているリスクに比べると、ドルも持ちリスク分散している方が、為替レートは動くものの安心ではありませんか?
私は、102円くらいで買い込んで、96円くらいで耐え切れずに「損切り」してしまった苦い前科があります。そのままずっと持っていたらどれほどよかったか!それ以来、考え方を変えて、「ドル資産にしてしまったものを円建てで考えてもしようがない、そこからゼロスタート」と開き直りました。


米国債を持つこともそうですが、米ドルを持つこと自体も、リスクヘッジ目的なら120円でも、たとえ130円になっても買えないことはない、「ここから将来的にストレスフリーに近い収益を得るのだから」と、ドルをあれ以来粛々と買い増してきて、今では確信できるくらいに思っています。「確信度」は意外に大切だと思います。
藤巻健史氏も、ドル資産を持つことをヘッジ目的で推奨していますが、「円高になったら、それは保険料だと思えばいい」と書いています。この発言は言い得て妙だと思っています。
この前の3月にも、121円でも買ってしまい、その後一時119円を割ってきましたが平然としています。
円高方向に戻ってくることは、むしろ、買い増せるチャンスです。今、1ドルが121円だったのが119円になったとしましょう。1000ドルは1000ドルのままです。でも、円預金の10万円は、ドル建てでは826.44ドルだったのが840.33ドルになりました。にっこり笑って、もう少し円からドルに換えてもいいのではないでしょうか。
為替変動(と金利と株価の変動)には私も不安でしたが、慣れの問題もあります。投資は慣れです(山崎元氏)。相場のウォッチは必要ですが、相場を読むのは基本的に危険と考えた方がよいと思います。
山崎元氏の、「株投資ではチャート分析による売買判断は間違い、有害」との教えは為替にも当てはまるのではないでしょうか。


基本行動は、
①家計のフローとストックをすべて洗い出す。家計簿をつける習慣を作る。貸借対照表を作る。
②FPが作るような、将来にわたるいわゆる「キャッシュフロー表」を作る。ある程度の将来を予測するためです。ネット上に雛形がたくさんあります。
③給料生活者は、何としてでも家計(フロー)を黒字に保つ。固定費等を見直す。毎月、どれくらいの貯蓄ができるかを見積もる。自動送金等、強制貯蓄を行う。
④ストックのうち、円とドルの割合を考える。円で確保しておくべき部分を例えば生活費1年分+教育資金等とし、残りをドルにするなど。
⑤フローのうち、円とドルの割合を考える。確実にわかっている円建ての将来純債務(子供の教育資金等)の積み立てを確保する(場合により保険も必要)。
⑥ ④⑤の一部で、投資を考える(米国債等でストックからキャッシュフローを生み出す)
⑦為替、日米金利、株価等の指標を定期的にチェックする
⑧引退後等、必要なときは勇気をもってとり崩す
 
④⑤⑥よりも、①②③をよほどしっかりするほうが個人の家計では大切です。1,000円の節約でも、そのキャッシュフロー生み出すためには金利1%であっても10万円のストックが必要です!
⑤では、私は「給料の一部をドルで貰っている」と考え、機械的にドルを毎月買っています。
⑥私は運よく収益が出たときは、米国債以外の積極的な投資(米国株等)も行っています。
そして、円建て、ドル建てともに、ストックもフローも増やしていくように努め、計算して実行することが、ストレスフリーへの道だと思っています。
参考になりましたでしょうか。

楢橋さんへ (Genrecht)2015-04-09 09:16:47蛇足です。
生活保護をもらっている人は、年金はもらえません。年金よりも生活保護は額が多いです。生活保護は、原則ストックもフローもない人でないと貰えないと思います。持ち家等、詳しくは勉強していませんが。頑張ったら働けそうな、フローが稼げそうな人には生保給付の可能性は低いと思います。
マイナンバー制で、生保不正受給や税逃れをなくしてもらって、少しでも日本財政にプラスしてもらいたいなぁと思う今日この頃です。焼け石に水でしょうが。
さらに言えば、若者の立場としては、年金基金は解散して再構築してもらいたいものです。
引用終わり


  私のブログを最低2周とのこと、驚くほどの熱心さで勉強していただいていることは、私としてもまことにうれしい限りです。今後も「ストレスフリーの資産運用」へのご協力をよろしくお願いいたします。

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日本財政の問題点ーー3

2015年04月06日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

   先週末のアメリカの雇用統計は、非農業部門雇用者数増加幅がコンセンサス予想の半分と意外なほど低調な結果でした。好調なアメリカの象徴だった雇用統計ですが、数値の上では20万人を上回れば巡航速度、25万人以上なら上出来という感じだったのが、突然12万6千人でした。その他の経済指標もこのところ若干スロー気味の数字が多くなってきているため、今後発表される1-3月期のGDPも弱いと見る向きが多くなっています。もっとも株価はすでにそうした数字を織り込み始めていて、3月初めのピーク18,288ドルからすでに3%ほど下落しています。

   経済指標がスローになっている原因はドル高による輸出のダウン原油安から来るシェール開発など投資のダウンだと説明されています。しかし今後の見通しがこれですっかり下方修正されると見る向きはさほど多くないようです。昨年が予想を上回る好調であったことから、多少のスローダウンはやむなし。私も一服することは逆に好調さを長引かせるためには必要だろうくらいに思っています。もしスローダウンでドルが下押すようでしたら、そこはドル買いのチャンスかもしれません。一方で米国債の利上げ待ちの方には、利上げ時期の遅れの可能性が心配ですね。

 

    さて、日本の財政問題です。前回は「プライマリーバランスとは歳出から利払いなどの国債費を除き、それが歳入とバランスしている状態」ということが定義だと述べました。しかし日本の場合は国債費が歳出総額の4分の1も占めているし、現時点の歳入総額の4割にも達しているので、それを除いてバランスしたなどという議論は意味をなさないという解説をしました。

   日本のように巨額の累積赤字を抱えていない国ではプライマリーバランスが達成できればそれでひとまず借金問題は一段落となります。それは何故かを説明します。

   プライマリーバランスが達成できると、あとの問題は償還期限の来る債券の借り換えができるか否かと、金利レベルの問題になります。一般的にはプライマリーバランスの達成ができている状態は比較的健全財政だと言う判断が下されるため、借り換えに困難は生じにくいのです。

   では金利はどうか。金利はそもそも名目のGDP成長率と連動します。成長により資金需要が増えれば金利は上昇しますが、その時はGDPも増えているので税収が上がり、逆にGDPが低成長の時税収は少ないが金利も低い。だから利払いで財政がひっ迫することはない、というのが理屈です。そこで利払い費が極端な巨額でなければ、プライマリーバランスさえ達成されていれば、金利上昇もあまり心配はいらないとなるのです。

  一般的には上の様な解説がなされますが、私はそれだけでは満足しません。何故なら、国債発行時の金利とはその時発行される国債に関わる金利であって、過去の金利レベルを全く考慮していないからです。金利は通常固定金利ですから、例えば10年債を発行し続けていれば、それらが償還されるまでずっと尾を引くのです。過去が高金利だったら、高いレベルの支払いは続きます。プライマリーバランスの一般論はまずこの点をしっかり指摘していません。もっともこの部分は日本には有利に働きます。これまで10数年にわたり超低金利が継続しているので、過去分の債務の金利は低金利だからです。

   もう一つ重要なことは、必要とされるGDPの増加とは実質値の増加ではなく、名目値の増加だと言うことです。いくら実質でプラス成長しても、デフレにより名目の成長率がマイナスだったら税収は落ちるのです。消費税を考えれば一目瞭然で、単純に購買数量に変化がなくても物の単価の上昇によって購買額が増えればそれで消費税収は増えます。逆にこれまでバブル崩壊以降の日本で起こっていたことは、実質で成長はしていても物価がマイナスのため税収もマイナスが続いていたということです。

   だったら極端な話、財政問題は経済成長などしなくても物価さえ上昇していけば自然に解消に向かうのか?イエスです。インフレ時は借金した者勝ち、の原理です。ただし実質の成長がたとえゼロでもいいから、マイナスにはなっていないことが条件です。

   これにはさらに若干の注釈が必要です。それはインフレの昂進は政府の歳出額を増やしてしまう可能性が大きいため、税収増加がそのまま利払いや借金の返済資金にはならないことです。つまり政府が購入したり投資したりする物件の値段は上がるし、公務員の給与も上がり歳出は増えてしまうでしょう。それに加えて実質成長ゼロの時にはたとえインフレになっていても経済全体は好調とは言えず、企業は賃上げをしづらいためまさに不幸の連鎖になる可能性がある。これが現時点の日本経済の姿です。去年は実質成長率が年間でゼロ%でしたが消費増税によりインフレ率は2%以上となり、我々は不幸の連鎖の中にいます。

(注)3月のコアのインフレ率がゼロだったというのは、消費税除きです

 つづく

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日本財政の問題点ーー2

2015年04月03日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

昨日のサプライズ。

   政府、経団連、連合などが政労使会議を開催し物価を上げるために談合をしました。名目は「経済の好循環をつくるため」とありますが、実際には国を上げての談合です。日経新聞のまとめによれば政府の対応とは、

・価格転嫁の好事例を盛り込んだ取引指針策定

・指針から外れた企業に行政指導

・15年度上期に大企業500社に立ち入り検査

 

  これって中国共産党よりひどいやり口だと思います。政府が主導すれば談合もOKとなれば、そのうち労働者全員の賃金を2%上昇させ、価格もすべて2%上昇させ、挙句の果てにそれを消費税2%の増税でふんだくる。そして年金生活者だけが泣きをみるってことになりそうです。これを首相自らが会議に出て行って音頭を取る異常さに対してさしたる反論も出ない。おめでたい日本の行く末がますます心配です。

   さて、私のシリーズ記事は財政問題に入りました。ところが政府は財政問題はそっちのけで「政治の季節」入りしています。防衛問題や憲法改正問題を正面に据えて議論を沸騰させ、あまり芳しくない経済問題や本当は正面から取り組む必要のある財政問題を忘れさせる作戦に出ているように思えてなりません。


   前回は借金は全部返す必要はないというお話しの最初で、「優良企業は貸し手の銀行にとっても優良なことに変わりはなく、かなりの低金利であっても安全性が高いため銀行は借り続けて欲しいと思っている」というお話を差し上げました。そしてそれは日本やアメリカの政府にも言えることだ、と申しました。

   日本国債は危ういと思っている方が多いので、この議論には違和感を感じるかもしれません。しかしアメリカ国債について世界の投資家は「何度でも借り換に応じてあげるから、発行を続けてほしい。金利だけしっかり払ってくれれば返済などしなくていい」と思っています。

   そしてさらに私は「この考え方の延長線上にあるのが、償還期限のない永久債で、長期の投資家は超安全な債券であれば再投資の心配のない永久債への投資も十分に魅力的なのです」とも書いています。

   償還期限のない永久債、もしくは最近海外で発行されている50年債や100年債などはこうしたことが理解できると決しておかしなものではないことが理解できると思います。日本国債もすでに40年債まで発行されています。現在の金利はわずか1.4%ですが。

   ここまでは投資家サイドから債券をどう見るかという視点が中心で書いています。その裏には当然、先進国共通のカネ余りがあります。投資家側がカネ余り状態であれば、発行体はそれに乗じて借り換えリスクのことを考慮しなくなるのです。プライマリーバランスさえ達成できればそれでいいというのは、この考え方の延長線上にあります。今回はそれを説明します。

   プライマリーバランスとは何かおさらいしましょう。この6月には安倍政権が財政再建計画を策定する予定ですが、この言葉を理解しておかないと何のことかわからない恐れがあります。

   まず本当の収支均衡とは   歳入総額―歳出総額=ゼロ

 

   プライマリーバランスとは   歳入総額―歳出総額のうち国債費を除外=ゼロ

 

国債費とは国債の金利費用と強制償還額です。上の式は国債費を除いて歳入と歳出がバランスしていれば、それで収支均衡とみなすということです。

   これを数字で見てみましょう。日本の15年度予算は歳出総額が96兆円です。そのうち国債費は23.5兆円です。ということはプライマリーバランスとは、「歳出のうち4分の1も占めている国債費23.5兆円はなかったことにすれば、バランスしてるでしょう」ということです。

   そんなバカなですよね。でもこれがプライマリーバランスの意味です。もし政府が6月に策定される財政再建計画で「プライマリーバランスが達成できる」と言ったら、笑ってあげましょう。(それも笑でなく爆です)

    15年度予算をおさらいしますと、歳出総額96兆円に対して、税収など歳入総額はわずか59兆円です。そのうちまず黙って23.5兆円も持っていかれ、残りは25.5兆円しかない、それが日本国の財政の実態です。

   しかも困ったことにこの国債費は他の経費をどんどん削減できたとしても、ビタ一文削減できない費用です。

 つづく

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