講演会の内容の配布資料は長文ですが、今回の4回目で終わりです。最初に申し上げましたが、これはあらかじめ配布された資料で、これに対して参加者のみなさんから質問を受け付けました。実際の講演会ではこの内容をなぞることはしていません。どのような話をしたのか、またどうような質疑応答があったのか、次回お話しします。
(4)資産防衛はどうすべきか: 「防衛の必要性と手段」
私がかつてサイバーサロンで推奨し、私の著書のタイトルにもなった「証券会社の売りたがらない米国債を買え」は依然として有効な資産防衛手段である。アベノミクスの失敗に備えるということは、日本の財政破綻に備えることで、それは「インフレと円安」に備えることである。日銀はすでに後戻りのできない政策に踏み出し、その先に待つと予想される事態は、以下のとおり。
日本財政破綻のシナリオ
シナリオ1.日銀による財政ファイナンスが国の信用を崩壊させる
・財政の赤字を支えてきた家計の金融資産の増加は、日本人の貯蓄率の高さによっていただが、団塊の世代のリタイアで貯蓄率はマイナスに転じた。近い将来団塊の世代の貯蓄取り崩しが増大し、金融資産は減少に転じる恐れあり
・日本国債は借換を含め毎年160-170兆円発行されるが、その買い手は日銀と政府系金融機関しかなくなる。返済のあてのない国債を買うことが日銀を頂点とする国の信用構造を崩壊に追い込む。自己増殖バブルの自壊
シナリオ2.円安による預貯金の枯渇ルート
・これまで円高神話に支えられ外貨資産に手を出さなかった家計や生保を始めとする金融機関などが、長期的円安を意識し円リスクのヘッジに走る
・日銀の円安誘導が昂進することで預貯金は取り崩され、国債引受の原資は日銀の爆買い以外枯渇する
シナリオの1と2は相互作用も伴い、同時進行する可能性が大きくなってきている。
「極度の円安は大きな物価上昇を招き、日銀の国債爆買いによる信用秩序の崩壊は金利の急上昇を招き、財政破綻につながる」
資産防衛とは、「円資産には大きなリスクがあることを認識しておくことが第一歩」
<資産防衛の具体的方法>
世の中にオイシイ儲け話などない=証券会社に騙されないこと
株式による運用は長期的成長見込みがある場合以外は避けるべし
我々が資産を防衛するには
「円に替えて世界で最も安全な通貨ドルを保有すること」
ドル建て資産でリターンを確実に得るには、世界で最も安全な資産「米国債を保有する」こと。著書でお薦めしたその他の投資対象であるバークシャー・ハサウェー株と米国REITは、長期方針であれば新規の投資も可であるが、豪ドル債は新規の投資は避けるべき。
サイバーサロンでの私の解説や著書での方法論をまとめると、以下のとおり
1.初めに自分の資産内容を評価する。不動産、金融資産、擬似国債である年金、擬似社債である給与など、将来の見込み額を含めて集計する
2.上記合計金額のほとんどが円建てのため、円という通貨のリスクを過剰に抱えていることを理解する
3.一般的には金融資産の理想的なポートフォリオ上の外貨建て資産比率は3分の1程度と言われる。上記の手法で計算し直すと金融資産の3分の1を外貨で保有しても、外貨比率は実にわずかな割合でしかないことに気づくはず
4.対処は金融資産のうち当面必要な円資金を除きほとんどを外貨建て資産にして、円のリスクを防衛すべし
5.外貨でもリスクの低い米ドルへの集中がお薦め。かつてリストに載せた代替手段の豪ドルは13年春以降、「既存の投資は保有を継続し、新規投資は控えるべし」としている。その後豪ドルは円に対してはさらに豪ドル高が進んだが、米ドル高のほうがより昂進している
世代別のお薦め投資
70歳以上の方へ
新規の資産運用は避けるべき。せいぜい円の暴落リスクに備えるため米ドルに替えておくことまで。その場合は預金保険の対象外であるドル預金ではなく、投資口座に分別保管され銀行のリスクからは独立しているドル建てMMFがお薦め。すでに投資済みのドル建て資産、豪ドル建て資産は保有を継続すべし
中間世代の方へ
米ドル建て資産の中で一番安全なのは米国債。2010年10月、サロンでお薦めした時点で長期債を購入していると、この3年半でリターンは約2倍。ある程度リスクを取って高いリターンを求める方にはウォーレン・バフェット氏の経営する投資会社バークシャー・ハサウェー株と米国REIT株式をお薦めしていたが、両者ともお薦めした時点と比較するとやはりほぼ2倍のリターンになっている。豪ドルの債券は1.5倍余りのリターンになっているが、すでに保有されている方は継続し、新規投資は避けるべし。
若い方へ
資産は長期の米国債を中心にして、リスクを取るつもりのある方はバークシャー・ハサウェー株と米国REITを分散保有すべし
若い方のうち
持家のない方;超長期のローンを組んで返済を長引かせ、来るべきインフレに備えるべし。35年ローンが1%台で借りられるのは夢のような好条件である。不動産購入の対象は人に貸せる便利なロケーションと地震に強い地域限定で考えること。期限前返済など一切せず、余裕資金はドルに替えるべし。その間にドル金利が上昇したら、米国債に投資。日本に本格的インフレが来ればローン残高は実質的に目減りし、何割かは公然と踏み倒したも同然。インフレが来なくともローンが低金利のため、返済額と賃料はさほど変わらないはず。資産が残るだけ得。
持家のある方;低い金利のローンであれば返済を急ぐことはせず、余裕資金はドルに替えインフレ・円安に備えるべし
<最後に>
私の提唱する資産運用は、著書の最後や私のブログのタイトルにもあるように、超安全な債券にのみ投資をする「ストレスフリーの資産運用」です。このことはサロンで連載を始めた2010年夏時点、著書の出版された11年8月時点、そして現時点でも一貫して変わりません。
これまで日本で行われた資産運用とは株式投資主体で、どれもが極めて高いリスクを取ってリターンを求める方法で、ハイリスク・ハイリターンと言われるものでした。最近はそれにプラスして超ハイリスクの外貨建てハイイールド債(実はジャンクボンド)が加わっています。しかしハイリスクをとってもハイリターンなどにはならず、マイナスリターンになって泣きを見るが関の山でした。そのため投資をすればするほど毎日の価格変動によってストレスを溜め、折角の楽しいはずのリタイア生活が苦しみの連続となっていた方が多く、中には投資鬱と言えそうな方が見受けられました。
債券投資は投資をしたら最後まで持ち切ることで利益は確定していて、日々の価格変動は一切無視できます。特に安全な米国債であれば為替以外のリスクはほとんどありません。そのため老後には最適で、たとえ金利の低い現状のレベルからの投資でも、それによって得られる安心感は何物にも替え難いものがあります。
私の提唱する「ストレスフリーの資産運用」を実行され、投資のストレスから解放されたある方から感謝の言葉をいただきましたので、最後にまとめの代わりに引用させていただきます。
(注)なんだかんださんから昨年9月にいただいたコメントの引用です
引用
林さんのご本に謳われている「ストレスフリーの資産運用」に幸運にも出会えて、人生の過ごし方が本当に変わりました。決して大げさな言い回しでなく、「お金の心配」に向けられていた意識が毎日の生活の中で見つける細やかなりとも豊かな「幸せ」にちゃんと向くようになり、生き方も幸福度も本当にアップしました。
20余年の投資人生は、訳もわからず証券会社の担当者と私の欲の二人三脚で、一瞬儲かったらすぐに大損。すると担当者はすげ替えられ、損は損切りで気持ちを無理やり整理するさんざんな結果でした。
若い頃は投資=リスク=利益と思って、私の中の欲に押されて、自分で理論的にも数値的にも理解できもしない投資先に無謀にお金を向けていました。もっと早く林さんに出会えていたら、ストレスフリーで違った時間の過ごし方が出来たと思います。
今はおかげさまで私の欲も小さくなり、残存寿命と持っているお金の帳尻さえ合えばそれでいいし、長い田舎暮らしで少しずつ創ってきた快適で安心な環境の中で暮らしを楽しむことが嬉しくて、そこにはもうお金に苦しむ私はいません。今はこの国の愚かな治世者やいつ来るとも知れないまさかの天変地異に対して、増やすのではなく、今あるお金を守るべく運用したい。それには米国債が一番と思っています。私は林さんに本当に助けて頂きました。心から感謝いたします。
引用終わり