ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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経常収支悪化と国債消化 その2

2014年05月16日 | 2014年の資産運用
 Owlsさん、ただの投資家さん、FSXさん、コメントありがとうございます。

 Owlsさんの指摘された国債金利の低さが安全神話につながっていることは確かにそのとおりだと思います。国債の発行残高は13年3月末で1,050兆円もありますが、インフレにより金利が上昇しても金利コストとして影響を受けるのは新規発行だけです。じゃ、そのインパクトはいくらか計算します。伊藤教授のおっしゃるとおり、国債金利が3%に上昇するとしましょう。

 何度か指摘していますが、国債の新規発行は予算書の40兆円ではなく、今年度は借り換えと言う名の新規発行を含め181兆円です。発行がすべて10年債と想定すると、現状の金利0.6%が3%になるのでプラス2.6%です。今年度の国債発行が181兆円なので、年間金利コストの増加分は

181兆円 X 2.6% = 4.7兆円

 消費増税分の年間ベース増収は8兆円と計算されていますので、半分くらいはこれで飛んでしまいます。ちなみに今年度分の増収は5兆円くらいなのでほとんどなくなる勘定です。

 もっと大変なのは国債保有者のキャピタルロスです。残存国債1,050兆円の平均残存年数は7.3年、平均金利は1.2%です。例のイールド計算をすると、その金利が3%になると価格は88.35になります。すると1,050兆円に対して122兆円のキャピタルロスが生じ、これが保有者である銀行・保険・郵貯・年金などに襲いかかるのです。当然自己資本のすべてを失うことになります。

 国債の発行額1,050兆円を支えているのは、家計の金融資産です。それが14年3月末で1,645兆円ありますが、現預金は874兆円だけで、その他は株式・年金・保険です。それらをまさか処分はできませんので、実質的にはすでに現預金分を食い尽くしているのです。そして年金・保険も相当部分は国債に投資していますので、まだなんとか平静を保っています。

 余談ですが、家計には金融負債が358兆円あることも忘れてはいけません。もっとも家計の場合、資産家家計と借金家計はだいたいは別なので、「借入金と相殺しても1,287兆円ある」などという議論をする人は、わかってない人と言えます。358兆円は相殺されないし、ローンは計画通り返済すればいいので、負債を割引く必要はありません。

 また企業にも余裕資金があると言う人がいます。企業の現預金は222兆円あります。でも家計と違い企業は借金と現預金を同じ会社で両建てにしているし、いざとなれば銀行によって借金は現預金で相殺されてしまい残高はマイナスになるので、222兆円は家計のような余裕資金ではないのです。

 まとめますと、金利の低さが財政赤字を支える大きな要素であることに間違いはありません。そして発行残高をこれまで支えてきた家計の金融資産はそろそろ天井に近付いています。それをバズーカ砲で支え始めたのが日銀のクロちゃんです。

 しかしクロちゃんたちの言い分である「インフレを2%にする」は単なる自爆テロです。伊藤教授の言うようにたった3%に上昇しただけで計算上122兆円が金融機関などから吹き飛びます。そうなり始めると海外のヘッジファンドが大喜びして、バズーカ砲をミサイルで吹き飛ばすでしょう。

 この財政赤字の議論は、数字をもって理詰めで計算する人はみんな「こりゃあかんよ」となります。「日本は破綻しない派」は、絶対に数字では議論しない人達で、FSXさんのおっしゃるように現実逃避している人達なのでしょう(笑)。

おわり

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経常収支悪化と国債消化 その1

2014年05月14日 | ニュース・コメント
 日本の経常収支悪化のニュースにOwlsさんからコメントをいただきました。コメントのサマリーを繰り返しますと、

 「経常赤字が危ないという人は、国債の国内消化ができなくなり、金利上昇と利払い負担増加で財政危機になると主張」。逆に経常赤字でも問題ないという人は「アメリカを始め先進国の多くは経常赤字。だから問題無しと主張」とあります。

 そしてOwlsさんご自身は「経常赤字でも問題ないという主張は怪しい。」言われています。理由はその主張をする人たちは、「財政赤字問題を無視し、従来は日本は経常黒字だから問題ないと言っていた」と書かれています。

 私も経常収支の赤字化は大いに問題ありと見ています。この本文にてすこし詳しく見てみることにします。

 歴史上、経常赤字が継続しても大きな問題が生じなかった国はありません。経常赤字国は外貨が不足することになるため、90年代の韓国やタイ、いつも外貨不足で困っているアルゼンチンやかつてのメキシコなどIMFの救済常連国を見ても明らかです。

 日本も戦後先進国の仲間入りする以前は、「国際収支の天井」に成長の頭を抑え込まれていた時期があります。赤字が大きくなると外貨が不足して、原材料を輸入できなくなるので経済を冷やすために金利を上げざるを得なかったのです。

 アメリカは常に赤字国ですが、ドルが基軸通貨であるが故に外貨不足の心配はありません。しかしドルを刷り続けるとドル安がインフレを導き、金利を上げざるをえなくなるので、やはり天井にぶつかるのです。80年代のアメリカはそれで大いに苦しみました。今のアメリカが問題ないのは、成長力を取り戻し世界の投資を惹きつける魅力があるためです。

 英国は経常赤字がポンドの通貨安を導き、ポンドは1,008円が100円台に価値を落とし、莫大な国富の目減りが起こり、英国病に苦しみました。フランスも英国と同じで通貨安で死ぬほどつらい目に遇っています。反対にドイツはこれまでの日本同様経常黒字による通貨高で国富が増加し、国民は喜んでいます。そして日本と違い財政も実に堅実に運営されているためユーロ圏の盟主として繁栄を続けています。

 このように経常赤字は国債の消化問題だけでなく、様々な問題を表面化させるので、黒字に越したことはありません。

 日本が経常赤字に陥るとまず懸念されるのは本格的円安
です。日本の場合、貿易収支の悪化は以下の長期的要因によるため、一朝一夕に解決しません。その要因とは

・日本製品が国際競争力を失った
・製造業が、消費地に接近しコスト競争力を維持するため拠点を海外に移転した
・労働力人口の不足が国内生産力減少をもたらした(国内で設備投資が盛り上がらない)


 では経常収支が赤字に転落し常態化した時、果たして国債の消化に問題が生じるかを見てみます。

 Owlsさんのコメントは経常赤字が問題ないという人達は「日本国債の話は無視しています。財政問題との関連は一切触れません。その人達は、散々日本は経常黒字だから大丈夫と主張してきた人達だからです。」

 この問題なし人種の根拠の一つが「国債の保有者はほとんどが日本人だから」なのですが、経常赤字は国債の国内消化の余裕をなくし、海外投資家に頼らざるをえなくなります。しかし私は「海外投資家には頼れない」と見ています。何故なら買ってくれるまでにいったんアウトになるからです。

 累積財政赤字がGDPの200%を超えているのにバラマキをやめない国の国債など誰も買いません。そもそも海外投資家にとって日本国債の金利は低すぎ、その上今後円安が見込まれます。リターンのない債券投資などしてくれないのです。著書でも書いていますが元々「海外投資家の保有比率が低いから問題ない」のではなく、「問題がありすぎて買えない」のです。

 この勘違いは救いようのないほどの国際投資スタンダードに対する無理解から来ています。バブル時代に海外投資家が日本株を買わなかったのは、「高すぎて危なかったから」なのです。今の日本国債も同じです。そしてバブルのクラッシュ後の底値では株を買ってきています。

 海外投資家が日本国債を買うとしたら、当然金利がジャンク・ボンド並みあるいはそれ以上の10%にでもなれば勝負する投資家は出てくるかもしれません。しかし10%になる前、3%を超えたくらいから、国債をしこたま保有する日本の全金融機関・年金、そして日本銀行すらリスクありと見られ、株式相場も国債相場も円相場も3役そろい踏みで暴落してしまいます。

つづく

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中国リスク その10

2014年05月11日 | ニュース・コメント
 中国リスクのお話しに戻します。前回のお話をまとめますと、

不動産バブルの崩壊の歴史には典型的なパターンがあり、それらは以下の3つの条件が揃った時に起こるが、それらが揃いつつある、と申し上げました。3つとは

1.銀行が不動産を担保に貸出を増加させ、不動産業全体の負債比率が高まる
⇒中国の企業全体の債務比率は利益率を加味すると世界平均の4倍もある。

2.銀行以外の貸し手が不動産投機を煽るメカニズムを提供する
  ⇒融資平台などのメカニズムが投機を煽っている

3.経済成長率の低下と不動産価格の下落が同時進行する
  ⇒成長率は2桁成長だったが7%程度に鈍化し、さらなる低下が見込まれる



 では今回のメインテーマ、不動産市況がどうなっているかについてです。

 中国の不動産価格の公式統計は日本と同じで信頼に足る統計は多くありません。国家統計局が主要70都市の新築住宅価格の推移を発表しています。幸い英語版で直接見ることができます。それによると、3月の統計で70都市のうち前月比で下落したのは14都市、変わらずが14都市、上昇が42都市です。昨年12月は下落した都市数が2都市、変わらずが3都市であったのと比べると下落・変わらずの都市数がたった3カ月で明らかに多くなっています。そして上昇した都市の上昇率はほとんどが1%未満で、上昇率が非常にわずかになっているのが見てとれます。

 ではより信頼のおける国家統計局の発表以外の調査報告ではどなっているでしょうか。5月10日のウォールストリートジャーナル電子版は、「野村証券はこのほど、中国の不動産バブルが既に破裂し始めているとの調査リポートを発表した。」と書いています。そして野村のアナリストは「バブルは崩壊するか否かではなく、どの程度の崩壊になるかだ」と述べているとのこと。記事の内容を一部引用します。

引用
中国の26省のうち4省で第1四半期の不動産投資がマイナスに転じ、その4省のうち黒竜江省と吉林省ではマイナス幅が25%を超えている。野村には、これが他の省にも同様の問題が発生する警告だと映っている。不動産投資の落ち込みは、建設と販売の落ち込みにつながる。そして不動産市場の中国経済に占める巨大な役割を考えれば、不動産市場の減速は中国のGDP成長率の減速を意味する。野村が控えめに見立てている側面が1つある。不動産と、鉄鋼やセメントなどの関連産業の中国GDPに占める比率を16%としている点だ、他のエコノミストはその比率を25%程度と試算している。
引用終わり

 この野村証券のレポートは不動産投資額の減少であって価格の下落ではありませんが、投資の落ち込みは当然価格にも影響を与えます。今後不動産関連全体の投資が落ち込むと、GDPに占める投資の大きさが異常に大きな中国は経済全体が落ち込む恐れがあるため、大きく取り上げているのです。

 またロイターは2週間ほど前ですが、中国の銀行の不動産融資の動きと、有力不動産王の動きを報告しています。そのまま引用します。

「銀行も警戒レベルを上げている。中堅の興業銀行は2月、不動産会社向け融資の一部停止を明らかにした。国有商銀大手の一角を占める中国農業銀行も4月、各支店に対し不動産会社の信用リスクに注意するように促す通達を出して いる。一部小規模都市での不動産価格の下落がパニックを引き起こしている。
 有力者の発言にも危機感がにじむ。中国不動産最大手の万科企業を率いる王石会長は2月に「2012、13年には不動産バブルの崩壊はないと確信していた。しかし今年はわからない。状況は悪化している」と発言。不動産巧者として知られる香港の最有力経営者、李嘉誠氏の最近の動きも臆測を呼ぶ。同氏は昨年から今年にかけて、広州や上海、北京の大規模物件を相次ぎ売却しており、万科の王石氏もブログに「注目すべきシグナル」と書き込んだ。」


記事にある王石氏と李嘉誠氏は中国・香港の2大不動産王で、一挙手一頭足が常に市場の注目を集める巨頭です。

 これまでにも中国の不動産は一部で下落が始まると「それ崩壊が始まった」と言われては持ち直すの繰り返しでした。しかし今回が過去と決定的に違うのは、先日の記事で述べたように融資平台などノンバンクの貸し手が大きく貸し込み、そのデフォルトが始まっていることと、経済全体がスローダウンを始めていて、負の連鎖が見えてきたことです。政府当局は「不動産投資の抑制をしている。もし市況が本格的に悪化すれば手綱を緩めることで対処可能」と言っていますが、それは日本の例でもアメリカの例でも「後の祭り」の可能性が大なのです

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日本の年金を取り戻す 2 !

2014年05月05日 | 2014年の資産運用
 年金問題はみなさんも関心をお持ちのようで、何人かの方からコメントをいただき、コメントもお返ししています。その中で、Owlsさんから以下のご意見・質問をいただいています。

>日本国債中心に運用し続けることで年金基金の安泰はあり得るのですか?
もちろん、日本株買い支えの為に年金基金を利用するのは問題だと思いますが、日銀が買い支えている日本国債中心の年金基金も正しい選択なのでしょうか?
それとも、もう年金基金は終わった。諦めろというのなら納得もできます。私個人的には、海外投資の比率を上げろ、日本株ではなく、米国債を始め信用が高い債券や海外株の比率を上げろというが正しいと思うのですが、どうでしょうか?


 私の記事は有識者会議の座長の論文の論旨を批判していますが、Owlsさんの質問にある「じゃ、どうしたらいいの」もしくは「もう諦めろ」なのかについて明確な考えを述べていません。そこでもう少し突っ込んだお話しをしたいと思います。

 そもそも私は著書で「年金は究極的に国債と同じクレジット・リスクを取っていることになる」と述べています。しかも年金の金利から逆算した受給者の擬似国債保有高は莫大で、国のリスクを取り過ぎですよ、というのが著書のすべての論旨のスタートにあります。財政状況の怪しい国では「年金には頼らず自分でなんとかしろ」がもともとの主旨です。

 この座長さんをはじめ日銀のクロちゃんも、アベチャンも日本国債や財政再建を決してあきらめていません。なのに「国債保有は危険だ」はおかしいのです。その理由をまず解説します。

 クーポン金利0.6%の現行の10年物国債の市場金利がインフレで3%になったら価格はどうなるか、計算しておきましょう。

  すると100円だった価格が79.4円になると計算されます。

 つまり金利がギリシャのように2桁に跳ねあがったのではなく、たった3%になっただけなのに20%も暴落するのです。もっと長期債であればよりひどく価格は下落します。

 GIPF資産総額130兆円の半分が国債で平均年限10年、クーポンが1%だとしても、価格は82.8%と暴落にかわりありません。およそ11兆円を失うのです。

 じゃ、かわりに株を買うとどうなるか。国債価格が2割も暴落する国の株はもちろん暴落間違いなしです。国債価格の下落に備え株を買ったところで株も暴落なのです。

 すくなくとも首相肝いりの有識者会議の座長が「国債価格が下落するので株でヘッジする」などとは口が裂けても言ってはいけないのです。彼は暴落とは言っていませんが、金利が3%になれば価格はちょっと下落する程度にしか思っていないのでしょう。まさか2割も暴落するという計算ができていたら、こんなことは言えないでしょう。マスコミもそれが計算できないので、新聞にこんな悠長な論文を平気で載せるのでしょう。異常な低金利を実現している日本国債の危うさは実はここにあるのです。

 本当に国債価格が20%も暴落したらどうなるか?

 カイル・バス氏が狂喜乱舞して先物をさらに売りたたき、他のヘッジファンドもここぞとばかりに売りを入れ、日銀もかつてのバンク・オブ・イングランド同様に世界中のヘッジファンドに討ち破られ日本市場は焼け野原と化し、株も円も大暴落です。

注;カイル・バス氏は日本国債の大量売りポジションを持つファンドを運用し、これまで損ばかりしています。最近も日本人の煽り屋のアサイなにがしと共著で「あと2年で国債暴落」という本を書いています。

 ということで、もし私にGPIFを運用させたらOwlsさんのご意見同様、もちろん海外資産、それも超安全な米国債をメインに買います。日本の財政破綻が迫れば、世界の金融市場には激震が走り、買われるのは米国債だけだからです。

 自国の年金で自国の最も安全な資産である国債を買うのは理屈に合うようですが、財政が危ない国では「自分の働いている会社の株に投資するのと同じで、リスクの2重取りだ」となります。会社がつぶれると株がゼロとなり同時に職も失うのです。それをせずに外貨資産に投資することこそ究極のヘッジ運用です。

  じゃ、もし私が日本国債に破綻がないという前提で運用を任されたらどうするか。このことへの回答は一度すでにブログでしていますが繰り返します。この座長さんは「10年以上保有したら株の利回りが国債利回りを上回る」と言って株投資を薦めていますが、本当でしょうか。

 私の著書では30年、20年、10年、5年で日経平均と日本国債のパフォーマンスを比較していますが、どの期間も国債が勝っていました。しかも私の計算は、例えば10年間の比較は10年物国債金利で比較しているのですが、年金だったら常に金利の一番高い30年国債あるいは40年国債で運用してもいいのです。そうすれば、過去どの10年、あるいはどの20年をとっても株に負けることなどないし、大勝ちしています。大学院の教授たる者「それくらい調べてから物を言え」なのです。

 ということで結論は「超長期国債だけに投資してGPIF職員は全員クビだ―」です。パフォーマンスはもっともっと上がります(笑)。

教訓

  債券を笑うものは債券に泣く

知らないって、恐ろしい!

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日本の年金を取り返す!

2014年05月03日 | ニュース・コメント
 みなさん、連休はいかがお過ごしでしょうか。うちでは家内の実家に行く程度で、混雑を避けたいので旅行の予定はたてていません。天気がいいので、運動のため1時間で20kmほどのサイクリングを毎日しています。普段は世田谷区内の仙川沿いか多摩川沿いのサイクリング・ロードを走りますが、連休中はトラックやバスの排気があまりないので、普段は走らない道も走るつもりです。

 さて今回は中国問題をお休みし、このところ安倍政権になって議論が激しく戦わされている公的年金の運用方針についてコメントします。誰もが強制的に積立をさせられ、本当に予定通りもらえるかについて関心が高いと思います。
 厚生年金も国民年金も運用はGPIFという運用機関が行っているのですが、そのGPIFの運用方針に対してアベチャン一派が株式を強制的に買わせようと様々な試みをしているのです。端的に言えばアベノミクス成功の象徴である円安・株高を何としても維持したいがための工作です。今年に入っての株価はNISAの導入にもかかわらず、外人売りにより値を崩しているので、公的年金で支えようという魂胆です。

 PKOを覚えていらっしゃる方も多いと思います。Price Keepinng Operationの略で、バブル崩壊後今と同じ様に公的年金で株価を支えようと大量に買い、結局見事に打ち砕かれ、我々の大事な年金を減らしてしまいました。その後公的年金は比較的保守的に運用されていたのですが、ここにきて再度政治利用されようとしています。アベチャンの使う手は2つ。集団的自衛権の実現と同じで、以下の2つです。

①人事権を乱用しGPIFトップをタカ派に変える

②アベノミクスのサポーターを集た有識者会議で、株にシフトする運用方針を作らせる


 ここでは人事は話題にしませんが、遅かれ早かれ今のトップはやめさせられることになるでしょう。では運用方針を作る工作をしている有識者会議の結論の「お粗末な一席」をご覧にいれます。

 会議の名称は「公的・準公的年金の運用・リスク管理などの高度化等に関する有識者会議」というたいそうなお名前で、座長は伊藤隆敏政策研究大学院大学教授です。写真を見ればみなさんも「みたことある」人でしょう。彼は4月24日の日経新聞経済教室に、突っ込みどころ満載の有識者会議の結論論文を掲載してくれていますので、それをコメントします。まず概要をそのまま記しますと、

タイトル; 債券減らし分散投資急げ
ポイント;   
① 2%インフレなら金利上昇で国債に評価損
② 株式は長期保有で国債を上回る収益が可能
③ GPIFの国債売却は日銀の緩和で吸収を


 このブログをお読みのみなさんならこの議論がいかにナンセンスか、一目遼然ですよね。上記を説明するための本文をそのまま引用しますと①評価損の説明では以下のようにごもっともなことを述べています。

「日銀が予測するようにインフレ率が目標の2%に近付き、期待インフレ率が2%近辺で安定すれば、長期金利は3%以上に上昇するであろう(価格は下落)。」

指摘その1.
彼は③でGPIFの売却は日銀の緩和で吸収する、と言っているのだから価格は下落しないはずで、骨子の議論に大きな矛盾があります。もっとも彼に言われなくとも日銀は大量に買いまくっています。

さらに説明文を引用しますと、指摘その2になります。

「GPIFが長期国債を大量に市場に売却し、日銀が買い入れることはむしろ国債市場の流動性を高めることから望ましい」

 えっ、エっ、えっ?

 この人大丈夫?

 最近の国債市場で最も大きな話題は「国債市場で取引成立せず!」だったのをご存知ない???

4月14日の日経を引用します。(伊藤氏の経済教室はその後の24日です、念のため)

14日の債券市場で、長期金利の指標となる新発10年物国債の取引が成立しなかった。1日を通して取引が成立しなかったのは、2000年12月26日以来 約13年ぶりという異例な事態だ。日銀が量的・質的金融緩和の一環として市場から大量に国債を買い入れる結果、市場参加者同士の売買が細る流動性の低下を 反映している。

10年物国債という指標銘柄の取引が成立しないというのは、株で言えば日経平均構成銘柄の225種取引が一日中成立しなかったに等しい事態です。とにかく13年に一回の流動性枯渇の異常事態です。それなのに「流動性が高まる」とはこれいかに?

 私は「黒田日銀による国債の大量買い付けはにより、日本は金利と言う経済の大事な体温計をなくしてしまった」と批判していましたが、それどころか彼は体温計を叩き壊せと言っているのです。

 この記事をここまで書いていた私は、この有識者会議座長にあきれはて、ちょっと頭を冷やしてから、続きを書くことにしました。

 日本の年金を取り戻せ!(大粒の涙・涙・涙)


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