ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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日銀の非伝統的政策

2012年12月12日 | ニュース・コメント
  本日の日経新聞朝刊のP.5に半分以上の大きなスペースを使い『脱デフレ 金融政策は有効か』というテーマで、気鋭のエコノミスト二人がそれぞれの考え方を披露していました。

 一人は東大大学院教授の岩本康志氏で「大胆な金融緩和という言葉が独り歩きしているが、効果的な手段は具体的には存在しない」と一刀両断。私に近い考え方です。処方箋は「潜在成長率を上げることが先決」としています。

 もう一人は私がかつて在籍した日本経済研究センター理事長、元日銀副総裁の岩田一政氏で、彼は「非伝統的政策に効果あり。国債買入れなど日銀のバランスシートを拡張する資金供給は、伝統的な金利政策と同様に効果がある」と断言しています。さらに円高是正へ向け、金融危機予防基金を創設し、EMSの発行する債券を買えばユーロ危機も救えるし、円高も是正できる」と主張しています。

さて、みなさんはどう思われますか?

  岩田氏の二つの議論を考えてみます。

1. 日銀はすでに国債を103兆円も買い、社債、株式ETFやREITを数兆買い、かつ金利をゼロにしていますが、株式相場は立ち直っていませんし、デフレの脱却には至っていません。そのどこに「伝統的な金利政策と同様に効果があった」のでしょうか。ご自分が副総裁として実行し、効果がなかったことを一番知っているはずです。

2. 円高是正を目指し政府は為替介入を繰り返し、そのドル資金で米国債を92兆円も買っていますが、円ドルレートに大きな影響をおよぼすことはできませんでした。直接のドル買い介入ですら影響は限定的でしたのに、それを知っていながらユーロ債券を買って円高に歯止めがかかるとは、全く思えません。

  東大教授から日銀副総裁、内閣府経済社会総合研究所所長を歴任した当代一流のエコノミストである岩田氏ですが、失礼ながら私がごとき無名の人間に簡単に論破される議論はおやめになったほうがよいかと思います。

  日本経済研究センターは日経新聞がスポンサーの財団法人で、日本の一流金融機関・企業がサポートし、昔で言えば経済企画庁と人的に密接につながっています。つまりいわゆる官庁エコノミストが多く、政府の政策をサポートする機関の一つです、なんて言うと怒られそうですが、日経新聞と同様に日本経済と株式市場の旗振り役であることは間違いありません。でも今回の記事の構成は一方的に岩田氏の議論を載せるのではなく、反対論も堂々と載せているので、そこは評価したいと思います。

「じゃ、いったいオマエに秘策はあるのか?」

「ございません」キャイーン(笑)


何度か申し上げたように、どんな策も日本経済の低成長を簡単に反転させることはできないし、日本財政の巨額な赤字の下では非伝統的政策をやっても破綻時期が早まるだけの話です。

政府・日銀に淡い期待は決して抱かず、これからも現実を踏まえ破綻に備える方策をみなさんと考えて行きましょう。

(注)岩田一政氏は、2・3カ月前に私がやはり「日銀総裁とっかえ議論」に反論した岩田規久男とは別人です。
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初歩の投資教室 34 来年に向けての投資対象

2012年12月10日 | 初歩の投資教室
   来年に向けての投資対象が、今回のテーマです。

   2つに分けて考えます。まずすでに私のお薦めで、著書の出版されたタイミング(11年8月)に投資したと仮定して、すでに投資している上記の4つの投資対象は、継続すべきか否か。それからいきます。

  私のお薦めは、もちろん継続です。ひとつずつ解説します。

  まず「米国債」。債券と為替の二つに分けて考えます。「債券」として見た場合の安全性ですが、去年8月にデフォルトのカラ騒ぎがありましたが、今年は全く揺らいでいません。出版時期と前後して格付け会社S&Pが間違ったデータによってダウングレードをしましたが、他の格付け会社はAAAを継続しています。S&Pの社長の首はすぐ飛びましたが、ダウングレードはそのままです。
  
  格付けより重要なのは市場の評価です。米国債金利もCDSのスプレッドも非常に安定していて、いわゆる財政の崖問題が話題になっても米国債そのものは全く揺らいではいません。

  為替はどうか?今年は第一四半期にドル円が一時80円台をつけ、その後第4四半期に入る前まで70円台が続きました。そして現状は80円台の前半で推移しています。今後70円台へ戻る可能性はおおいにありと私は見ていますが、日本の経常収支の黒字幅が減少する傾向は今後も継続が見込まれるため、大幅なドル安の見通しはすっかり影をひそめました。

  ということで米国債はすでに投資している方には継続をお薦めします

  次に「豪州国債」はどうか。こちらも債券としての信用力は抜群で、先進国の中でももっとも財政赤字の少ない国の一つです。
  また豪ドルレートの行方ですが、金利の低下により一時豪ドル安が懸念されましたが、その方向には向かっていません。理由は、経済成長はわずかに低下していますが、先進国の中では優等生で、資源国の優位性は継続しますので大きな心配はないと思われます。しかし資源価格同様、豪ドルの変化率が米ドルより大きいことは大いにありそうです。

  こちらもすでに投資された方は高金利をエンジョイしてください。為替変動に負けないでしょう。

  「バークシャー・ハサウェイ株式」のことは、今年の4月くらいにこのブログでアップル株との比較をしながら私の見方をお伝えしました。

  その時に私が言ったのは、「600ドル近いアップルの株価はバブルだ。もうひと山くらいあってもこの株価は継続しない。バークシャーはバブルではない」。実は両者はその時いずれもPERが20倍ちかくに買われていて、アメリカ株の平均である15倍より突出していました。

  その後アップル株は9月に700ドルまで行ってピークを打ち、そこからは暴落に近い下げが続き、現在は533ドル。昔のソニーショックを思い出します。PERは現在12倍になっています。平均の15倍に対してアップルの12倍は安いようにも思えますが、株と言うのはいったんモメンタムを失うとなかなか戻りません。4月に議論をしたときにある方は、「アップル株価はバブルじゃない」とおっしゃっていましたが、どうやらこの勝負、私の勝ちのようです。

  では、バークシャー株はどうか。これももし保有していたら継続をお薦めします。債券ではないので盤石とは言えない投資対象です。バッフェト氏の年齢もありリスクは大いにあります。そのリスクを取る覚悟の有る方には継続をお薦めします。現在のPERは16倍程度です。為替については債券のところで述べたとおりです。

  「米国REIT」はどうか?これも投資をされている方には継続をお薦めします。

『アメリカの不動産バブルは崩壊した。日本同様全治10年』という報道は、「全くの間違いだ」と何度も申し上げてきました。崩壊したのはサブプライムという限定された住宅市場です。もちろんそれは住宅市場全体に影響しますので、住宅は11年まで価格が低迷しました。しかし11年を底に上昇過程に入り、現在は回復が顕著となっています。

  それにも増して大事なことは、住宅以外のオフィスビル、商業モール、ホテル、リゾートなどはバブルと言うほどの不動産価格の上昇はなかったという事実です。これが日本の不動産バブルとアメリカのサブプライムバブルの決定的違いで、エコノミストや報道が大きく間違った原因です。アメリカの不動産はもう完治しています。

  その見方を裏付けるように、米国のREIT市場は株価も配当も非常に順調で、この先不安要素は見当たらないので、継続をお薦めします。

  
  こうしてみると私の著書での4つのお薦めは、結局来年に向けても全部お薦め状況に変化はないようです。

つづく
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初歩の投資教室 34 いったい何に投資したらいいの?

2012年12月08日 | 初歩の投資教室


  旅行などでしばらく間が空いてしまいましたが、また「初歩の投資教室」に戻ります。

  前回までの話題は山崎元氏の『買ってもいい運用商品全リスト』でした。それに対してみなさんからコメントをいただき、ありがとうございました。

  そして私のコメントは、「リストはそのままでは使えない。株と言われても、何を選んだらよいのか、さっぱりわからない。彼のアドバイスは、むしろ買ってはいけないリストのほうが示唆に富んでいる」というものでした。

  
  では投資に関する一般論ではなく、12年の年末が迫った時点でよく経済誌などが特集するような「来年に向けて何に投資をすべきか」という視点から投資対象を具体的に考えてみましょう。

  その前に、じらすようですみませんが、私自身が過去にお薦めした投資対象を検証してみる必要がありそうです。というのも、当たらない予想などみなさんも聞きたくなんかないでしょうから(笑)。

  私が具体的に「お薦めの投資対象」を話題にしたことは、実はあまり多くありません。著書といままでのブログで時折言っているくらいです。

  ではまず著書「証券会社が売りたがらない米国債を買え」で買ってもいいリストに挙げた投資対象を、簡単に検証しましょう。

本の発売は11年8月末、内容中にある為替や金利などの数値は、11年7月のものでした。買ってもいいリストは以下のとおりでした。

・米国債長期物
(米ドル81円)10年;3.12% 20年;4.23% 30年;4.37%
 今となっては夢のような金利レベルでしたね・・・ 

・豪州国債長期物(豪ドル87円)10年;5.23% 15年;5.27%
 これも同様に素晴らしいレベルでした

「世界で買っていい株はたった一つ」
としてお薦めしたのが
・バークシャー・ハサウェイ株式;1株115,000ドル程度
 現在は131,000ドル(プラス14%、為替は変わらず)。もっとも株ですからまた下げることもおおいにあるでしょう。1年半ではなんともいえませんね。しかし私には依然としてバークシャー株は長期の上昇トレンドに乗っているように思えます。

米国REIT(勝負したい人だけに限定し);銘柄は示していません。ですのでINDEXで見てみます。代表的なMSCIで750程度が890(プラス18%、為替は変わらず)にもなっています。これも長期的に見るべきですが、どうやら上昇トレンドは非常に確固たるもののように思えます。 

 
  ちなみに米国債ですが、米ドルのレートはほとんど動いていないので、金利分は確実にプラス。もしキャピタルゲインを計算すると10年物で12%のプラス、30年物でなんと31%のプラスとなっています。

  豪州国債も同様に金利プラス大きなキャピタルゲインを得ており、為替ではわずか1円だけマイナスのレベルです。

  しかし債券は両者とも、私のお薦めする投資方法は償還までの持ち切りですから、キャピタルゲインはノーカウントにしておきます。

あー、よかった(笑)

では来年に向けてはどうかんがえたらよいのでしょうか。

次回以降で来年に向けた私の考えをお知らせします。

つづく
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国債金利、イールドカーブの記事

2012年12月04日 | ニュース・コメント
先週の京都は紅葉の盛りでした。すでに落葉が始まっている場所もありましたが、もみじの落ち葉の絨毯もとてもきれいでした。

  4日間で尋ねた場所を並べますと、

東福寺、三十三間堂、清水寺ライトアップ、
嵯峨野の清涼寺、厭離庵、宝筐院(ほうきょういん)、大覚寺
八瀬の瑠璃光寺、野村美術館、比叡山延暦寺で宿坊泊
延暦寺で座禅の体験と般若心経の写経体験

なんとも盛りだくさんですね。

「座禅と写経」は初めてで、とても素晴らしい体験でした。
チャンスがあればみなさんにも是非お薦めします。
大げさに言えば、自分を見つめ直すよい機会となりました。



  さて、留守中のニュースで、一つ気になる日経の記事がありましたので、紹介します。11月30日の朝刊の「ポジション」という5面のコラムにあった、「国債利回りに浮かぶ崖」という記事です。最近の安部発言ともからめて見て行きます。

  内容は、日本国債のイールド・カーブについてです。イールド・カーブとは、年限別に短期から長期までの満期の利回りを30年物くらまで並べると作られる利回り曲線です。それを現時点の曲線と2003年の曲線で比較しているのですが、1-3年くらいまでの短期は両者ともほとんどゼロに近く同じレベルなのですが、年限が長くなるにつれて03年の時は30年でも1%以下の低いレベルなのに現在は高止まりしている、というものです。

理由としてあげているのは、

1. 投資家が長い年限への投資をためらっている
2. 03年に10年国債の金利が0.43%を記録したが、その後上昇して痛い目にあった
3. 取引量が少なく、いざというときに売れない長期債は買わない


そして「一見盤石に見える日本国債に不気味な変化を感じる声も出てきた」としています。

  例えば機関投資家の中でもかなり巨大でかつ慎重な三菱UFJは、すでに1年以上も前から国債のポートフォリオの中身を短期化していて、将来の激震に備えています。

  ではもう一つの日本国債の指標であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の5年物の料率をみてみましょう。日本、米国、ドイツを比較します。

先週金曜日、11月30日時点では

日本;67 米国;37 ドイツ;30

安部発言以前の10月末では

日本;76 米国;29 ドイツ;24

日本だけが若干低下しています。半年以上前の4月はじめではどうだったか

日本;92 米国;40 ドイツ;84

かなり様子が異なっていました。この半年ではドイツの低下が特に目立ち、次に日本。アメリカはさほど動いていません。

こうした数値をどうみるかですが、私は次のように考えています。

1. 機関投資家でもリスクをきちんと捉え、しっかりと将来を見据える投資家は、長期(10年以上)や超長期(20年以上)の日本国債に信頼を置いていない。従って国債のポートフォリオのデュレーション(平均年限に近い)を短期化している

2. 債券相場は、株や為替と違い安部発言に対し一顧だにしないため、イールドは発言前と発言後で変化はない

3. CDSも安部発言は無視

安部発言は、「日銀を力でねじ伏せ、カネをジャブジャブにして金利を下げ円安を誘導しよう」というのですから、国債金利にも影響が出てしかるべきですが、債券は冷静なプロだけの市場のため、反応していません。むしろ反応しないということは、「そんなことはできるわけがない」と冷ややかに見ている、ということです。

果たしてそうした無視を今後もし続けられるのか、日本の将来にとっては株式市場よりよほど大事な「債券市場」ですから、今後もみなさんと一緒にしっかりと見て行きましょう。

コメント (2)
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