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初歩の投資教室 38 来年に向けての投資対象、米国債

2012年12月21日 | 初歩の投資教室
   これほど予想が難しいし、当たらないテーマはありません。それにあえて挑戦します。どうぞ、当たるも八卦くらいで、お読みください(笑)

  私はこのブログで昨年10月から約1年、為替を中心テーマのひとつにした「円高デフレのトラップに嵌まり込む日本」というシリーズを書き、私の考えを長々と述べてきました。ここに至ってもその時の基本的な考え方や長期的方向性の見方に変化はありません。

  そのシリーズで解説したのは、為替変動には様々な要素があり、例えば国際収支、金利差、インフレ較差、等などがある。そしてひとつひとつの要素ごとに解説しました。それらを簡単にまとめると以下のとおりでした。

1.為替相場は為替取引の結果であってそれ以外の因果関係ではない。つまり日本経済が強いとか弱いとかが要因ではなく、円とドルの実際の取引の結果だ

2.取引には動機があってその動機を調べると、一方的な長期の円高トレンドを作り出しているのは、外貨を得た輸出企業が外貨を売る取引と外人の円資産投資である。その対抗勢力は、日本人による外貨投資や最近は海外企業のM&Aなどだが、円高を相殺するほどの量ではない。

3.それ以外の様々な説や投機的取引はしょせん往復取引なので円高を説明するのには、あまり説得力をもっていない。

4.円安へのターニング・ポイントは経常赤字が定着しそうな2015年、プラスマイナス1・2年


  このまとめを書いていたのはちょうど1年前の11年12月で、国際収支の統計資料は11年第3四半期、つまり9月までが使用可能でした。

  その後この1年の国際収支に一つ変化が起こっています。それは上記2の点で述べている資本取引においてです。ちょっと面倒な統計数値になって申し訳ないのですが、大事なことなので解説します。

  国際収支の最後の帳尻は、経常収支に資本収支を加えた総合収支です。(厳密にはさらに追加すべき非常にマイナーな項目がありますが、無視できる程度です)

  経常収支は最近になって黒字幅が減少しつつあることでニュース種になっています。貿易収支の悪化が主な原因で、11月の結果もそうでした。しかし資本収支についてはあまり話題になっていません。理由の一つはわかりづらいこと、そして数値がさほど大きくなかったからだと思われます。そのため経常収支に資本収支を加えた総合収支も、あまり取り上げられていませんでした。

  今回ここにきて何故私が取り上げたかと申しますと、この総合収支がコンスタントにマイナスになる動きを示しているからです。

上記のまとめで3.に書いてあるのは、

>日本人による外貨投資や最近は海外企業のM&Aなどだが、円高を相殺するほどの量ではない

と書いていました。ところがこのところ買収の数とサイズの影響が大きくなり、少なくなりつつある経常黒字を相殺する規模になってきています。年間の総合収支の推移はこのところの3年間では以下の通りでした。

09年 マイナス5千億円
10年 プラス 2千億円
11年 プラス 10兆7千億円


暦年では09年は若干のマイナス、その後はプラス、つまり円高要素だったのです。

ところが4半期ごとに総合収支を見ますと、この1年では11年の第4四半期までのプラスが、マイナスに転じています。

11年10-12月期 プラス  7兆9千億円
12年1-3月期  マイナス1兆円
12年4-6月期  マイナス1兆9千億円
12年7-9月期  マイナス1兆1千億円


というように今年になってからはマイナスが3期連続し、このところの日本企業による海外企業買収の活発化から12年は暦年でもトントンからマイナスになる可能性が出てきているのです。

  もっともこの動きは、円安がさらに進むと日本企業は海外企業を買収しなくなるかもしれないので、トレンドが続く確証はありません。

  もう一度繰り返しますが、総合収支は経常収支に資本収支を加え、すべてをまとめた数字で、その数字の分為替の売買は必ず行われるのですから、長期的には円ドルレートに大きく影響します。総合収支は今後も追って行く必要があります。

つづく
コメント
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