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ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカの強さ、その1

2025年06月23日 | 投資は米国債が一番

 最近個人的に資産運用の相談を受けている方から、以下の質問がありました。

「このところアメリカの格付けが下げられ、トランプ政権が内外を問わずこれまでのアメリカ優位の体制を破壊するようなことをしています。果たして長期的に見たアメリカは大丈夫なのでしょうか?」

 それに対する私からの回答を、以下に掲載します。長文のため2度に分けます。まずは幻冬舎から23年5月に出版された著書からの引用ですが、出版後トランンプが出てきたため、一部だけ補足しています。

 

タイトル;投資は米国債が一番

サブタイトル;ストレスフリーの資産運用

「一般論で言うアメリカの強さの理由」は、以下のとおりです。

  • アメリカ経済の潜在成長力の高さ:先進国では抜群に高い潜在成長力を持っています。潜在成長率の要素は、人口増加率、生産性上昇率、資本供給量の3つです。
  • 産業競争力の高さ:世界で新たなハイテク製品を生み出している企業のほとんどがシリコンバレーに拠点をおいていて、そこにはべンチャー・スピリットを持つ優秀な若者が世界中から集ってきます。
  • 金融競争力の高さ:世界のマネーを集められる資本市場を有すること。また豊富なベンチャー・キャピタルなどのリスクマネーとベンチャーキャピタリストなどの人材が、産業の支援をしています。それもシリコンバレーに集まっています。そして今後のフィンテックやIOTやAIの競争力の源は広い意味でのIT分野に違いないのですが、それもシリコンバレーから生まれる可能性が高いこと。
  • 食料・エネルギーの自給率の高さ:先進国の中ではアメリカが抜群の高さを有しています。特にシェール革命以降は、エネルギー資源も自給可能になっています。
  • 軍事力:いうまでもなく、世界一強力な軍事力を持っています。

  以上にプラスして「私の考えるアメリカの力の源泉」は、ダイバーシティ、つまり「多様性を飲み込む包容力」です。増加する人口や豊富な資源などの経済指標は単なる付け足しに過ぎないのです。

 生物学的にも雑種強勢は定説です。純粋種は弱く、雑種は強いのです。アメリカは国の成り立ちからして人種、性別、国籍、宗教などを問わず、世界から人材を集める工夫をしていて、多様性を力の源泉としています。

 スポーツの世界を見ればとてもよくわかります。日本の野球選手で最も素晴らしいと思われる選手はみなアメリカのメジャーリーグに行きます。メジャーリーグの強さはアメリカの選手に加えて、日本人選手や日本以外のアジアの一流選手、そして最も大きな供給源である中南米の強豪選手たちを実質的に無制限に飲み込んでいることです。

 そもそも「アメリカの選手」と言っても、元を正せば人種を越えて交じり合った人たちです。日本の相撲や野球のように外人枠という名の厳しい制限を設けることは、ムラ社会を象徴する排他主義であって、私には弱さをキープするための制度にしか見えません。

 スポーツだけではありません。学問の世界も同じです。アメリカの大学や研究機関は世界中に門戸を開き、様々な国から研究者やアイデアを集める工夫がなされています。日本人のノーベル賞受賞者も、その多くがアメリカで学んだり研究したりしています。

 世界をリードする産業分野での強さを象徴するのがシリコンバレーという巨大なハイテク集積地です。カリフォルニア州サンノゼ近くのスタンフォード大学を中心に発展を遂げたシリコンバレーは、地域全体が世界一のハイテク集積地であり、IT関連産業の起業装置です。テクノロジーだけでなく、企業に必要な資金を提供するベンチャー・キャピタルが集まるリスクマネーの集積地でもあります。もちろん実際の巨大IT関連企業の本社はシリコンバレーだけでなく、西海岸全体に広がりを見せています。

 そこで働く人間の約半数はアメリカ人ですが、あとの半数は海外から来たIT技術者や学者たちです。一時は中国人が半数近くを占めると言われていましたが、その後はインド人がとって変わりました。日本人はほとんどいません。そうした人種=頭脳の多様性を受け入れることが、最初に述べた「多様性を飲み込む包容力」で、それがシリコンバレーでも力の源泉となっています。

 

 では、これまでは成功したアメリカですが、反移民を掲げるトランプ大統領が出てきた今後の見通しはどうでしょうか。私は「多様性を飲み込む包容力」さえ保てば世界をリードし続けるとみています。今後の世界の産業革新はほとんどすべてがITの力にかかっています。巨大産業である自動車産業はもとより、すべてのモノづくりの基礎からはじまり、AIやIOTいう言葉に代表される新分野の技術はIT技術がベースにくると思われます。GAFAと言われるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンに代表される大企業も、ITという基盤を利用した新機軸を開発し、世界に冠たる企業に成長しました。そのプラットフォームと呼ばれる基盤を創作し続けるのは、シリコンバレーです。

 例えばアップル。彼らはPCのシェアを失った後にiPodという新機軸を打ち出しウォークマンを駆逐しました。しかし本当の強さはiPodというハード機器ではなく、PCとiPodを利用した新たな音楽配信プラットフォームの構築でした。同様にiPhoneもハードではありますが、単なるハードではありません。すでに構築した音楽配信や映画配信を載せ、その上で無限の展開可能性を秘めた様々なアプリをアップルストアからダウンロードさせ利用料をとり続けるという、全く新しい課金システムを持ったプラットフォームなのです。もちろんiPhoneがシェアを失う事態になれば、プラットフォーマーとしてのシェアも失う可能性は無きにしもあらずです。なので、アップルでさえ永続性があるわけではないのですが、アメリカにはアップルの次を行く企業を育てる土壌があるのです。

 それに対し日本の電子機器メーカーは残念ながらハードという枠からはみ出す発想がありません。なので負け続けています。遂には市場から駆逐される寸前まで来てしまっています。なさけないことに、かつて得意だった家電でも掃除機、扇風機、ドライヤーというコモディティ製品まで、例えばダイソンやiRobotの新機軸によって駆逐されつつあります。今後IOTやAIという部分でうまくすれば居場所を見つけるかもしれませんが、果たして新機軸を有するプラットフォームまで打ち出せるかはかなり疑問です。

 日本で今一つ心配なのは自動車メーカーです。今や輸出産業の中では最重要部門で、唯一競争力を維持している業種です。ところが世界の最先端では、いわば箱物でしかない車から新たなITのプラットフォーム上で動く車を作り上げる段階に差しかかっているように思えます。果たして日本の自動車メーカーが、全く新たなプラットフォームを開発し、その上で動く新しい車社会を構築できるでしょうか。そうした柔軟な発想による技術が、ハードメーカーの純粋培養で育った自動車技術者から出てくるとは思えないのです。

 このことはアメリカの自動車メーカーもドイツの自動車メーカーも同じように直面している問題です。ハードという殻を打ち破る発想を、果たしてどこが一番乗りで創出するか、私にはどうも自動車メーカーではない柔軟な発想を持つ新規参入者、例えばGAFAあたりが創出しそうに思えます。

 

 鎖国時代の日本は、発展から背を向けた世界の果ての後進国でした。それが外に向けて門戸を開放したとたんに、大発展しています。日本人も世界に向かって出て行った時代もありました。しかし現在の日本は国として内向きで、若い人たちも世界に出て行こうとしない閉じこもりのような状態です。

 学卒で直接外資系へ、それも世界的なIT企業に入ろうとか、若いうちに海外に出ようという学生が最近はほとんどいません。国という単位で見ても、人手不足が続いていても外国人労働者の流入はかなり制限していますし、政府は移民という単語を政策に盛り込むことはしません。最初に申し上げた通り、雑種強勢の世界で純粋種を保つ日本に自分の資産のすべてを置いておく気には全くなれません。

 

 私は日本が大好きな日本人です。アメリカには4年ほど住んだことがありますが、特に好きでも嫌いでもありません。日本の気候風土や日本食、そしておもてなしの心が大好きです。この先何があっても日本で暮らして行きます。そして私は経済・金融ヲタクです。それも感情論は一切排して、数字や客観的事実を判断根拠とする人間でもあります。多くのエコノミストが展開する「安全か危険か」の議論を見ていると、実は感情論が入っているのをよく見かけます。それも嫌米感情を持っている方が多いように感じます。経済金融の世界は好きか嫌いかではなく、数字がすべてです。

 以上が2023年5月に出版された私の著書からの引用です。

その2に続く

コメント (3)    この記事についてブログを書く
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3 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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アメリカの強さ1 (岡田)
2025-06-24 18:55:30
いつも貴重な情報ありがとうございます。非常に参考になります。
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岡田 さんへ (林 敬一)
2025-06-26 04:49:36
コメントをいただき、ありがとうございます。

とても励みになります。

その2を近々アップしますので是非読んで、またコメントください。
返信する
投資先 (機関投資家の端くれ)
2025-06-29 16:59:50
ご投稿いただきありがとうございます。確かに、最近のアメリカの政治や経済の動向には不安を感じる方も多いかと思います。しかし、現状を冷静に見渡すと、日本を含む他のG7諸国もそれぞれに政治的・経済的な課題を抱えています。また、中国やインドといった新興国も成長余地は大きいものの、市場の透明性や法制度の安定性という点で、依然としてリスクが高いのが現実です。こうした状況を踏まえると、現時点では消去法的に見ても、米国市場への投資が最も合理的な選択肢であると考えています。
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